軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一年目2 ユリウス視点

「――というわけなのだが、何か思い当たることはないだろうか、サラ」

女性が記念日というものを大事にすることは知識として知っている。

そこは貴族でも平民でも変わらないものであるらしい。

ユリウスにとっても特別な日だと思えたからこそ、カレンにとって良い日にしたかった。

だから、何か懸念があるのであれば払拭しておきたかった。

「カレン様の当初の希望はオペラハウスなどに行ってみたい、ということだったのですから、それが叶わず落ち込んでいたのではありませんか?」

エーレルトの屋敷に戻ってきたユリウスはサラを呼び、カレンとのやりとりを話して意見を仰いだ。

「いずれ、Bランクになったあとには行く約束をしたのだが、それでもカレンの表情は晴れなかったのだよ」

「明日すぐに行きたかったのかもしれませんね」

サラは長らく表情が動きづらかったこともあってか、顔の筋肉が動くようになってからは隠し事を苦手としている。

見知らぬ者の前でなら隠し果せられることでも、ユリウスの前では『なるほどね』と言わんばかりの何かを理解した表情をまったく隠せていなかった。

だが、サラはそれをユリウスに言うつもりがないらしい。

雇い主はエーレルト、そしてヘルフリート、いずれはジークだが、それでもユリウスは家門の人間である。

そんな相手よりもカレンを思いやって口を噤むサラの前に、ユリウスは微笑ましさを覚えつつも一計を案じた。

「カレンの友人であるサラにならわかるのではないかと思ったが、やはり、友人とはいえ難しいか」

サラがぴくりと表情を動かす。

ユリウスは明後日の方を見やって思案するそぶりを見せて言う。

「ナタリア嬢に聞けばわかるかもしれないね。ナタリア嬢は君よりもカレンとの友人歴が長いから――」

「僭越ながら、もしかすると、と思い浮かぶことはございます。私も、カレン様の友人ですので」

まさかユリウスはナタリアを訪ねる気はなかったが、ナタリアを訪ねるならここで黙っていても無駄だとサラは思ってくれたようで、『友人』のあたりを強調しつつ言う。

「ふむ。思い浮かぶこととは何なのか、聞かせてもらってもよいだろうか?」

「あくまで私の予想ではございますが、カレン様のことですので、『ユリウス様はわたしの社交のパートナーになれるのに、今のわたしじゃユリウス様のパートナーにはなれないんだ』などと考えていそうです」

サラが声音や口ぶりまでカレンに寄せて言うので、ユリウスは愕然とした。

「なれない、など。そのようなことは――」

「『Cランクのわたしとパートナーなんてユリウス様は恥ずかしいよね』『貴族と平民との身分差を埋めるには、Bランクになってからじゃないと』『わたしは別に気にしないけど、ユリウス様が気にするなら――』」

「私は身分差など気にしない!!」

ユリウスが思わず大きな声を出すと、サラは妙に上手いカレンの身ぶり手ぶり口ぶりをピタッと止めて言う。

「……私のくだらない妄想ですので、どうぞお気になさらず。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

「大きな声を出してすまない。君は何も悪くないのだから、謝る必要はない」

ユリウスはサラに謝罪をしつつ立ち上がった。

「もう一度出かけてくる。協力に感謝するよ、カレンの友人である、サラに」

サラは得意満面の笑みを浮かべて、うやうやしくお辞儀をした。

「いってらっしゃいませ、ユリウス様」

「あれっ、ユリウス様? 夕飯も食べていかれます?」

すでに入浴を済ませたらしいカレンはくつろいだ私服を身につけていた。

ユリウスはカレンのその姿を前にして礼儀として目を逸らそうとしたが、カレンはまったく気にする様子がない。

貴族の令嬢なら決して人前に出られないだろうその姿も、平民の感覚だと異性に見せても問題のない姿であるらしい。

ダンジョンで薄着を目にしたことはあるものの、ダンジョンは非日常だ。

そうであるがために、気にも留めなかった些細な常識の違いが、日常の中で浮き彫りになっていく。

ユリウスは目を背けるのをやめ、カレンを見下ろした。

「カレン、君の明日を思う表情に影が差して見えたのは、今のままの君では私のパートナーにすることはできない、と私が考えたと思ったからなのかい?」

カレンはぽかんとした顔をしたあと、ユリウスの腕を引いた。

「とりあえず中に入ります?」

「ああ……」

カレンがくつろいだ私服を着ているとはいえ、妙な雰囲気にはなりようがないほど錬金工房は賑やかだった。

どうやらトールが台所に立ってティムやハラルドと夕食の準備をしているらしく、ドタバタと格闘している音が聞こえる。

カレンに案内され応接間に通されると、台所の喧噪からほんの少しだけ遠ざかった。

「えっと、何かありましたか?」

「君の表情に憂いが見える気がして、解決の糸口を探るためにサラに相談したところ、カレンがそのように思ったのではないか、と」

もしかしたらカレンは誤魔化す気でいたのかもしれないが、サラの名前を出すと途端に観念した表情になった。

「なんでサラにはわかっちゃうんだろう」

「君の友人だからだろう――そのように思わせて、すまない」

「ええっ!? 謝らないでくださいよっ!」

頭を下げるユリウスに、カレンは慌てて手を振った。

「今のわたしでは誰から見てもユリウス様のパートナーとして相応しくないのは、事実じゃないですか」

カレンが苦い微笑みを浮かべるのを見て、ユリウスは己の失態を噛みしめた。