軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

同窓会

ダンジョンを出ると、外の世界はすでに夏になっていた。

季節差ボケも手伝ってか錬金工房に帰宅するやカレンは倒れ、そのままハラルドに世話されつつ寝こけること一週間。

やっと起き上がれるようになったカレンだが、同窓会へやってきていた。

平民学校主催の同窓会である。

学校のホールが、今は貴族が開く舞踏会の会場のようになっている。

隣の部屋には軽食の並んだ立食形式のテーブルがある。

ホールには楽団がいて音楽が奏でられ、ダンスができるようになっている。

貴族ほどダンスに慣れ親しんでいない平民たちは大抵、同伴のパートナーとだけ踊っていた。

「今年も人がたくさんいるね」

「他業界の人間のコネクションを得られるめったにない機会だもの」

不在の間に溜まっていた手紙を開封したら招待状が来ていた上に、開催日が目前だった。

出欠の連絡をしていなかったものの、ナタリアが錬金術ギルドのギルド員として平民学校にかけあい、出席できるようにしてくれたのである。

平民にとっては、この年に一度の同窓会が重要な社交場だ。

平民学校を卒業したというたったひとつの共通点で集まった、多種多様な分野の専門家たち。彼らとの交流はカレンの糧になるだろう。

大事な社交場にはなんとか参加できたものの、カレンはあからさまに遠巻きにされていた。

「ナタリア、わたしの噂ってどうなってるの?」

「グーベルト商会と揉めていたっていう噂が流れているわ。錬金術ギルドからも抗議声明を出して、あちらの声明を取り下げさせようとしたんだけど……交渉しているうちに、息子の不始末で大変なことになってしまったから……」

イザークの罪の報告を受けて、グーベルト商会は実質的に崩壊したそうだ。

表向きはまだ商会としての体を成しているらしいが、内部は混乱していて、とても話し合いができる状態ではないという。

「うやむやになっちゃってるんだね」

「ええ、力不足でごめんなさい。あなたの本当のランクを明かせばあっという間に鎮火する噂だけれど、それはサポーターを置いてからにした方がいいわ」

「サポーターかぁ……」

現在、カレンの錬金術師ランクはB。

ダンジョン内でカレンが万能薬を作成した時点で錬金術ギルドに連絡が飛んだらしく、その時点でカレンはBランク錬金術師への昇級が内定したという。

ナタリア的には万能薬を作れるのにBは低いという話だったが、ガブリエル的には正規の万能薬とは違うカレーの万能薬にそれ以上のランクを与えるのは難しいそうだ。

ともかく、カレンがBランクの錬金術師であることを明かせばカレンへの態度は軟化するだろうけれど、やっかみも増えることになる。

その時のためにも身を守る術がないといけない。

「でも、わたしがグーベルト商会に盾突いたからって離れていくような人たち、側にいてほしくないなぁ」

「前回辞退した冒険者はリストから外しておくわね」

ナタリアが優しく言うのにうなずきつつ、カレンは周囲を見渡した。

カレンを遠巻きにしているグループがいくつかある。

ひとつは以前からよくマリアンとつるんでいた、地位や魔力量至上主義の人たち。

一時期、ナタリアにもすり寄っていた。

カレンがライオスに婚約破棄された場にも居合わせて、カレンに遠慮会釈もなしに拍手していた人たちだ。

カレンの悪い噂を信じている冒険者らしきグループもあった。

もし彼らがグーベルト商会の表明――カレンが取るに足らない子どもたちのためにダンジョン調査隊への献身の足を引っぱろうとしている――を信じていて、それ以上の情報を知らないとしたら、そういう態度になるだろうという感じだ。

カレンはカレンなりに、活躍してきたつもりだ。

だが、貴族社会で起きたことを平民が知る機会はほとんどない。

冒険者街の人々は内側で生まれ育ったカレンには気さくだが、外の人には口が硬いので、いいことも悪いことも冒険者街で起きたことは外には広まらない。

冒険者も、信頼し合う者たちはお互いの秘密を漏らさない。

良くも悪くも、カレンがエーレルト伯爵家から受けた依頼のことも、魔力酔いを癒やすポーションを作る力も、階梯を昇ったことも、ここにいる人たちは誰も知らない。

だから、表向きはまだ健在のグーベルト商会ともめているカレンと関わり合いになりたくないと思っている。

カレンがBランクの錬金術師だと知れば彼らは態度を変えるだろう。

けれど、その時に態度を変えて近づいて来られても、カレンとしてはもう仲良くしようという気にはなれない。

ユリウス相手なら、カレンの能力目当てでもいいと思えたものの、ここにいる人々はユリウスではない。

カレンが溜め息を吐いた時だった。

「ここにいたのかよ、カレン」

名前を呼ばれてカレンは振り返る。

悠然と歩み寄って来たのは、カレンの同級生のうちのひとりだった。

「久しぶりだね、アヒム」

「気安くオレの名を呼ぶなよ、カレン。おまえとオレとでは生きる世界が違うんだ」

そう言って、カレンがアヒムと呼んだ青髪の青年はにやりと不敵に笑う。

「今日こそ思い知らせてやるよ、カレン。あの日、あの時、あの授業で! おまえがオレよりも早くポーションを作ってみせたからといって! アレはただの偶然に過ぎず! おまえは決してオレの上には立てないってことをなあ!!」

アヒムは懐からシュバッとそれを取り出した。

人差し指と中指で挟んで、ドヤ顔で見せつけてくる。

「見ろ! この輝きを、美しき銀の光を!! これぞミスリルブローチ!! Bランク錬金術師たる、一流の証だ!! ――これがおまえには決して届かない、遙か高みってやつだ!!」

まだブローチが届いていないが、カレンもBランクの錬金術師である。

なので、Bランクの錬金術師になるということがどれほどすごいことかはわかっているつもりだ。

カレンはパチパチと手を叩いた。

「大回復ポーションを作れるようになったんだね、おめでとう」

「平然と祝ってんじゃねーよ。悔しがれや。おい」

メンチを切ってくるアヒムにカレンはポリポリと頬を掻いた。

カレンが平民学校で錬金術を学び、はじめてポーションを作ってみせた時、カレンともう一人だけポーション作成に成功した同級生のアヒム。

両親共に錬金術師家系のサラブレッド。

幼少期から錬金術のエリート教育を施されながら、平民学校の錬金術の授業で、完全初見のカレンよりもポーションの作成に時間をかけ、カレンのポーションよりも効果が薄く、魔力効率までもが悪いと評されてから、何かとカレンに絡んできた。

とはいえ、ここ数年はめっきり絡まれなかったのでとっくに忘れられていると思っていた。

カレンがBランクに昇級予定なことはおろか、他のことも何にも知らない様子なのに、彼はまだカレンを競う相手だとみなしてくれているらしい。

カレンがくすりと笑うと、アヒムに思いきり睨まれたのがますますおかしかった。

錬金術師として、同じ錬金術師の同胞に認められているようにしか思えなかった。