軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者問題7

「とりあえず、そこに吊してる人たちを下ろしてもらってもいい?」

「ねーちゃんがそう言うなら!」

トールはニカッと笑ってぐったりとした男たちを吊す縄をあっさりと切った。

ドサドサと落下する男たちに慌てるも、これにて問題は解決である。

トールはカレンを抱き上げたままくるくると回った。

「ねーちゃん! オレ、Bランクになったんだぜ! んで、Bランクパーティーのリーダーにもなったんだ! すごいだろ!」

「すごいすごいっ! なんていうパーティー名なの?」

「鮮血の雷! かっこいいだろ?」

「やっぱり、トールのとこのパーティーかぁ」

物騒な名前だと思ったのに、それが弟のパーティー名だと判明してしまった。

「まあ、パーティー名ってより、ほとんどオレの呼び名みたいになってるけど。オレ、トールって名前を隠してたから」

「はっ。そうなの? 呼ばない方がよかった?」

「ねーちゃんならいいよぉ」

トールはカレンの瞳よりずっと濃い青の瞳を細め、カレンを見上げて笑った。

「ねーちゃんとオレがつながるような情報が外に出ないように、そう呼ばせてただけだし。ねーちゃんに迷惑かけたくないからさ」

その言葉にほんのりと、人に命令することに慣れた人間の威厳が滲む。

カレンは弟の様変わりした様子にきょとんとしたあと、時間の流れを実感した。

「本当に、大きくなったんだねえ……」

トールの柔らかい髪を撫でながら、カレンはそのつむじを見下ろした。

最後に見た時にはカレンよりも背は高かったが、それでもほんの少しの差だったのに、今ではライオスよりも背が高くなっているように見える。

それにBランクの冒険者ともなれば、それは途方もない、血も滲むような努力が果たされないと到達できない領域である。

最後に会った時、トールは才能あるとはいえまだDランクの冒険者だった。

それを、カレンの知らない一年間と半年でBランクにまで引き上げたのだ。

まだ十七歳という若さでである。

尋常な所業であるはずがなく、今トールが無事に目の前にいてくれることに安堵すると同時に、カレンはちょっぴり涙が出た。

もう一度カレンが弟の頭を抱きしめたその時、野営地と森の境界が騒がしくなった。

「この野営地は何だ――カレン、その男は誰だい?」

「ユリウス様」

カレンはトールの頭を抱きしめるのをやめ、その腕から降りようとしたが、トールはカレンを抱きしめたまま離さず言った。

「そちらさんこそ誰だよ?」

「君には聞いていない。カレン、私は君に聞いている」

ユリウスは明らかに不快そうだった。その理由はカレンもすぐに気づいた。

まさかトールがカレンの弟だとは気づいていないユリウスからしてみれば、お付き合いしている相手が見知らぬ男とくっついているようにしか見えないだろう。

たとえそのお付き合いしている相手に特別な感情を抱いていなくとも嫌な状況に違いない。

そしてそれは、先日のユリウスとテレーゼがカレンに見せてくれた光景とまったく同じものである。

気づいたカレンは誤解を解こうと乗り出していた身をスッと引いて、トールにぴったりと抱きついた。

「昔からの知人ですぅ。別にこの人とわたしがどういう関係でも、ユリウス様には関係なくないですか? こうしてくっついてるのは、ふらついていたところを支えてもらっただけですけど?」

「……なるほど、君にここまで不愉快な思いをさせているとは気づかなかったよ、カレン」

カレンの皮肉にすぐに気づいたらしいユリウスは苦笑した。

「目に浮かぶ涙は、その男に危害を加えられたわけではないのだね?」

「ただ会えたことが嬉しくって泣いてただけです」

「――悪い理由ではないと聞いても、愉快なものではないな」

ユリウスは鋭い眼差しでカレンとトールを射貫いた。

「カレン、まずは君に対する私の無配慮を詫びよう。まさか自分の行いが返されてみるとこれほど不快なものとは思いもしていなかったのだ」

カレンが嫌な思いをしていると、ユリウスは気づいてすらいなかったらしい。

道理で暖簾に腕押しな反応ばかりが返ってくるわけである。

「今まで、これほど奪われたくないと思う女性などいたことがなかったから、こういう感情には疎くてね」

「えっ、それってどういう――んっ」

ユリウスの言葉を深掘りしたくなって身を乗り出しかけたカレンの口を、トールが塞いだ。

ユリウスが遠目にもわかるほど顔を歪めた。

「私はユリウス・エーレルト。錬金術師カレンの恋人だ。その手を離してもらえるかい? 鮮血の 雷(いかづち) よ」

「あんたにそんなこと言われる筋合いねえよ、なあ? カレン(・・・) 」

トールはわざわざカレンの耳元に唇を寄せて名前を呼んだ。弟に名前を呼ばれるのは妙な感じである。

ユリウスが舌打ちする。舌打ちするユリウスにカレンは驚愕して目だけで二度見した。

「離せと言っているのが聞こえないのか……!」

「イライラすんなよ、 兄さん(・・・) 。カレンの前だぜ?」

トールがユリウスを兄と呼んだことにカレンは口を塞がれながらもテンションを上げた。

興奮気味にムームー言っている姉を見下ろし、トールは「そういうのじゃねーからな?」と呆れた顔をして小声で囁く。

親密にささやき合い通じ合う姉弟の姿に、ユリウスはゆらりと剣を抜いた。

「剣を抜け、鮮血の雷。貴様に決闘を申し込む」

「いいねえ。その言葉を待ってたぜ!」

「む~っ!?」

「アイツの本気の強さを知りたいんだよ。だから余計なことは言いっこなしだぜ? カ・レ・ン」

トールはそう言ってカレンの頬にキスをした。

カレンはとても微笑ましい気持ちになった。小っちゃい頃はよくやってくれたものである。

大きくなってから中々なくなってしまったので、姉としてはとても嬉しい。

だが、カレンとトールの関係性を知らないユリウスから見れば完全にライン越えである。

「彼女に手を出したことを後悔させてやろう――!」

「えーっ、カレンは嫌がってないのにぃ?」

トールの言葉でユリウスがカレンをもギラギラ光る鋭い金の視線で打ち据えた。

弟にほっぺちゅーを受けただけの姉なのに。

弁解の代わりに、カレンは言った。

「お互いに、相手に負わせていいのは中回復ポーションで治る程度の怪我までですよ!」

「それって結構な深手よぉ」

「勝負はどちらかが負けを認めるか、気絶するか、俺が止めるまでとするぞ!」

色っぽいお姉さんがカレンに突っ込みを入れ、ギュンターが場を取り仕切り、ユリウスとトールが対峙する。

誰もトールとカレンが姉弟だということをユリウスに教えるつもりがないらしい。

カレンも冒険者の戦いたがりに慣れた冒険者側の人間のため、ユリウスだけがアウェイである。

「はぁー、本当にカレンちゃんとあの色男、付き合ってるんだなぁ。しかも、色男の方がカレンちゃんに惚れてるとはなぁ」

「それはさすがに言い過ぎだよぉ、セプルおじさんっ」

「おおん?」

照れるカレンにセプルはうろんな眼差しを向けると「俺だけはユリウスサマを応援しとくか。頑張れよ、ユリウスサマ!」とアウェイのユリウスを応援しはじめた。

ユリウスは眉間にしわを刻みつつ、カレンを見やった。

「このような形で見せることになるとは思わなかったが、見るからには脳裏に刻むといい。カレン、きっと君が信じるものとは違う、私の本当の姿を」

「ユリウス様の本当の姿……?」

きょとんとするカレンから目を逸らし、ユリウスはトールを睨み据える。

ギュンターの合図で、騎士と冒険者の戦いがはじまった。