軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者問題5

事の起こりは二週間ほど前。

ちょうど、カレンたちが冒険者の野営地に足を踏み入れた日の前日ことだったという。

「成りかけどもと貴族が鉢合わないよう、俺は当初は貴族たちと面倒でも連絡を取り合って、探索地域をきっちり分けたんだ。だが、よりにもよってあの近衛騎士の馬鹿どもが成りかけの冒険者の探索区域に入り込みやがった」

「あー。獲物の横取り、的な?」

獲物の横取りは冒険者がもっとも嫌う行為のひとつだ。

カレンの言葉に、ギュンターはうなずいた。

「まあ、そういう形になったんで、成りかけどもはサクッと近衛騎士どもを殺そうとした。だが、俺が止めた。なんとか成りかけどもを宥めてその時は事なきを得た。それがあの時、あんたたちが俺の天幕にはじめてやって来た時に俺がCランクパーティーのリーダーたちとしていた話だな」

明らかに何か問題が起きたという顔をしていたのに、カレンたちには何もないと言いつくろった時のことだろう。

「まずいご飯が理由じゃなかったんですか……」

あれから、冒険者の料理についてはヴァルトリーデがイザークと掛け合って、物資を出させたらしい。

らしい、というのも、カレンは同行しなかったので詳細を知らないのだ。

ヴァルトリーデにはカレンがついているからイザークが渋る可能性も大いにあった。

だが、どちらかというと、カレンがついているからこそ、おもねるふうであったらしい。

きちんとカレンの噂がイザークの元まで届いている証拠である。

今更おもねられたところで、カレンの心にはほとんど何も響いていないけれども。

「それもこいつらにとっては不満だったのは間違いない」

カレンが少し離れた場所にいるセプルを見ると、セプルはてへ、とでも言いたげな顔をしている。

カレンはむすっとセプルを睨んで、ギュンターに向き直った。

「それで、事なきを得たはずなのに、生きて は(・) いる、という状態にどうしてなってしまうんですかね?」

「馬鹿どもが、一度命が助かったから調子に乗って、成りかけ冒険者にまた絡みに来たんだよ。いわく、Bランク冒険者など恐るるに足らず、とか言ってなぁ。お仲間が首を斬り落とされかけたことへの正当な報復だという主張もしていたそうだ。そんでもって、自分たちのものであるべき特別な魔法薬を奪い返すだのなんだの」

「あぁ……なんでそうなっちゃうんですかねえ……」

自分のつくったポーションが理由の一つだと聞かされて、カレンは頭が痛くなった。

先日の事件のことだって、どう考えても、あれは近衛騎士が悪かった。

イルムリンデのように、普通の貴族はあの騒動を起こした近衛騎士を嫌悪していた。

ユリウスも、トリスタンもだ。

そして、Bランクの冒険者に敵うわけがないということが、どうしてわからないのだろうか。

「馬鹿だからだろう。で、だ。当然成りかけどもは馬鹿貴族どもを軽々と一蹴したわけで、そこで終わっておけばよかったんだが……あいつらは成りかけたちを侮辱して、激怒させた。中でも『鮮血の雷』が貴族どもを殺したがって離さない。それが昨日のことだな」

恐ろしいパーティー名である。

カレンはぶるっと身震いしたあと、念のために確認した。

「でも、生きてはいる、ですよね?」

近衛騎士団は、素行不良だが身分の高い貴族の子弟の吹き溜まりだと聞いた。

子が心身に傷を負うだけならまだしも、命を失えば親はやりきれないだろう。

たとえ出来の悪い息子であろうと、冒険者を、そして冒険者の監督責任があることにされているヴァルトリーデを、恨まずにはいられないはずである。

「正確に言うなら昨日は生きていた、だな」

「不安になる言い方しますねえ……!」

「セプルがカレンになら解決できるかもしれないと言うんだが、どうだ?」

「わたし!?」

どういうこと? とカレンがセプルを見やるも、セプルはそっぽを向いている。

「万能薬と引き換えになら言うことを聞いてくれそうってことですかね??」

「可能性はなくもない。人知れず呪われている冒険者だの、高ランクの魔物から喰らった毒がどんな解毒のポーションを飲んでも解毒し切れないが、体が頑丈だから苦しみつつも生き延びている冒険者だの、結構問題を抱えているやつはいるからな。弱みになるから言わないだけで」

「なるほど……」

カレンの万能薬を食べて喜びに沸いた冒険者たちの顔が思い浮かぶ。

自分の作ったポーションがまたもや力になるかもしれない。

カレンはぐっと拳を握った。

「俺は冒険者ギルドから冒険者部隊を預かった者として、できれば問題事は少ない方がいい。あいつらを宥めてくれるなら金は出す。金以外のものでも交渉次第だが手に入れよう。この依頼を受けてはくれないか?」

「わかりました。受けて立ちます!」

「ハァ、受けちまうのか」

「セプルおじさん??」

カレンが不満そうに言うセプルを振り返ると、セプルは冷たい目つきで森の奥を見ていた。

「あんなやつら、魔物にやられて死んじまったことにしておいたほうがいいんじゃねえか? って俺なんかは思うンだけどなぁ。まあ、それだとカレンちゃんが困っちまうっていうのなら、仕方ねえよなあ」

セプルだけではなく、カレンの周辺を取り巻く冒険者たちはみんなひどく冷酷な目をして森の奥に視線をやっている。

カレンはごくりと息を呑んで言った。

「ぼ、冒険者の監督を任されているのはヴァルトリーデ様、で……わたしは、ヴァルトリーデ様の味方をしてあげたい、から……だから、困るよ!」

「じゃあ、カレンちゃんが自力で止めるんだな」

「えーっ! 手伝ってよ!?」

「俺たちじゃ止めらんねぇよぉ」

へらりと笑ってセプルが言う。

万能薬の分、カレンに恩を返そうとしている冒険者たちがみんなセプルに同意を示す。

まったく貴族の命を助けたいと思っていないのが半分。

もう半分は、心から不可能だと思っているみたいだった。

「あんたが止められなかったときには彼らは不運にも 魔物に殺された(・・・・・・・) ってことになるんで、貴族のユリウス殿や王女殿下には内密で頼みたい」

「えぇぇえぇぇ~~~~っ」

ギュンターに重たい秘密を背負わされて、カレンは半泣きになった。