軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

焚火を囲んで

「そう易々とあんたがたを信用はできないんで、今日のところは一旦お帰り願えるか?」

ギュンターのその言葉で、トリスタンは食い下がることなく引き下がった。

ずっと黙って聞いていたライオスは物言いたげだったが、何も言うことなくトリスタンの後をついていく。

言いたいことは口にしないと気が済まない性格だったのに、ライオスも大人になったんだなあ、とカレンは遠い目をした。

トリスタンとライオスが天幕を出ると、ユリウスが言った。

「カレン、私はトリスタン殿と少し話したいことがあるのだが……」

「わかりました。わたしは煮炊き場で片付けをしてますね」

「では、私が迎えに戻るまでセプルかギュンターのどちらかといるようにしてほしい」

カレンがうなずくと、ユリウスはトリスタンを追いかけていく。

「カレンちゃん、話は終わったのか?」

「セプルおじさん、終わったよ。解決したわけじゃなくて、これからの交渉次第ってとこだけどね」

「カレンちゃんのあの万能薬なあ、美味かった! それに、食ったら体がフワッと軽くなったような気がすんだよなあ」

「万能薬だからねえ。状態異常系なら治るはずだから、状態異常だったんじゃない?」

「俺、状態異常だったのか!? いつの間に!?」

万能薬で怪我は治らない。だが、治るとされているものの中には病気も存在する。

体の働きを正常にする力があるのだろう。

もし万能薬のおかげで隠れていたセプルの病気が治ったとしたらと思うと、カレンは胸を撫で下ろした。

カレンが煮炊き場に戻ると、焚火を囲んで食後の酒盛りをしていた冒険者たちが歓声でもってカレンを出迎えた。

カレンは笑顔でそれに応えたあと、きょとんとした。

「あれ? お鍋は?」

「オレたちが片付けといたさ!」

「錬金術師様に鍋洗いなんかさせられねーよ!」

「それはそれは、お世話様です」

カレンがお辞儀すると、赤鎧の女性がカレンに抱きついてきた。

スープカレーを作る時に手伝ってくれた女性だ。

「カレン、貴女の作ってくれた万能薬、とても美味しかったわ」

「ど、どうもです。えっと、スープカレーって言います」

「そう、スープカレーね。私はカボチャの素揚げと一緒に食べるのが好きよ。あれを私たちに贈ってくれた貴女の望みを教えてちょうだい?」

「望み、ですか?」

カレンは女性の近さにドギマギしながら首を傾げた。

「そう。私たち、貴女の望みが知りたいのよ、カレン」

彼女は『私たち』と言った。

周囲にいる冒険者たちすべての視線がカレンに向いていた。

「ノーラ、あんたたちも、体が軽くなったりしたクチか?」

セプルの言葉に、ノーラと呼ばれた女性はにっこりと笑って答えない。

「言うつもりはない、と。まあ、Cランク以上の冒険者の情報を聞きだそうだなんて思っちゃいねえよ」

ノーラはその笑顔をカレンに向けて目を細めた。

「私たちは上級冒険者よ、カレン。私たちぐらいになるとね、お金で解決できるようなことなら何でも解決できるの。お金をいくら積んでもどうにもならないことだけが、私たちを悩ませるのよ。そんな私の悩みの一つを貴女のポーションは軽くしてくれたわ」

「お役に立てたならよかった、です?」

「事の重大さがわかっていないのね? 私たちはお金以上のものを貴女に支払う用意があると言っているの。ねえ、カレン。貴女の望みが知りたいわ。早く聞かせて!」

急かされて、カレンはあわあわしながら答えた。

「ヴァルトリーデ様に優しくしてあげてほしい、です?」

「貴女、第一王女の駒なの?」

「駒!? ってわけじゃないですけど、でも、その、悪い人じゃないので」

「ふうん、いいわ。第一王女に優しく、ね。他にはどんな望みがある?」

「え!? 他に!? ――男の浮気を防ぐ方法を知りたい、とか?」

昔好きだった女に再会した喜びに涙する恋人の姿などを、金輪際見ないで済むように。

――ユリウスがあのテレーゼという女性を好きだったかどうかは知らないけれども、再会に涙が浮かぶなど、よっぽどの思い入れがないとそうはならないだろう。

初恋だったりするのかもしれない。そうではないのかもしれない。

そうではない可能性を探りたいのに、ユリウスからまったく情報が出てこない。

伝わってくるのは悪い再会ではなかったということだけで、それがますます悪い予想をかき立てるのだ。

「わかったわ。ダンジョンで男用の貞操帯の魔道具がドロップしたら真っ先に貴女に贈るわね。男が浮気心を抱いただけでアソコが腐り落ちるよう呪いをかけられる魔道具があるのよ」

「それは望んでいるものとはちょっと違うのでいらないです」

「あら、そうお?」

ノーラは残念そうに言う。

男冒険者たちは具合の悪そうな顔で割り込んだ。

「じゃ、金でいいか!?」

「駄目に決まってるだろ! 金はオレたちからもらわなくても、これからいくらでも手に入るんだから」

「だったら、稀少鉱物はどうだ?」

「カレンは錬金術師なんだから、入り用なのは魔力素材だな」

「錬金術に役立つ魔道具もあるだろ。鑑定鏡とか」

「えーっと、口を挟ませていただくと、私、ダブルレアとレジェンドの間の性能の鑑定鏡を持ってます」

「おいっ、ほぼ最高ランクじゃねえか!」

あーでもない、こーでもないと、冒険者たちが口々にカレンに何を贈るべきかを話し合う。

焚火の炎に照らされる明るい冒険者たちの表情を見るに、カレンの万能薬は彼らの何らかの悩みを晴らせたらしい。

当事者でありながら蚊帳の外に置かれつつも、どこか誇らしさを覚えながらカレンは彼らの言い合いを眺めていた。