軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンクッキング

「まずは食材の確保だね」

「酒保商人のとこにいくか?」

「自力で調達するよ。わたし、酒保商人の代表者と揉めてるから」

酒保商人。このダンジョン調査隊の兵站を担う商人のことだ。

つまり、グーベルト商会のイザークが、王宮で犯した罪を償うために無償で請け負っている役目のことである。

「ていうか、家に火をつけたの、多分そいつ」

「おいっ!? 早く教えてくれよ! なんでカレンちゃんがやったことになってんだ!?」

「どうしてだろうね?」

恐らく、噂の誘導はイザークではなく父親のオイゲンの方の仕業だろう。

カレンのことは、後からどうにでも言いくるめられるとでも思っているのかもしれない。

オイゲンの方の口ぶり次第では、丸め込まれてしまいそうな自覚がカレンにもある。

「……俺がどうにかしてやろうか? ここはダンジョンだから、 どう(・・) にでもできるぞ?」

物騒な顔つきになるセプルに、カレンは冷や汗をかきつつ冒険者語で言い返した。

「獲物を横取りするの? セプルおじさん。冒険者的に、超特大のマナー違反だよね?」

「カレンちゃんは冒険者じゃあないだろう――だが、カレンちゃんがどうにかする予定があるってのなら、俺がその機会を奪うのはよくないな」

セプルが落ち着きを取り戻すのを見て、カレンは内心ヒヤヒヤしつつ溜息を吐く。

冒険者は物騒だ――ダンジョンの中では、いつもよりもずっと沸点が低い。

「まずは森で食材の確保だよ! いくよおじさん!」

「おう!」

山麓の森に出てくる魔物は二種類。

二階層の森の魔物の強化版と、Dランクのゴブリンやオークといった魔物が普通に出てきて、Cランクの魔物が出没することもあるらしい。

このあたりから魔物が急に強くなり、しかもここに来るまでの階層では避けたり隠れたりのしようもあったが、この森では魔物と遭遇した時には距離が近すぎて、逃げるのも難しい。

だから、Eランクの冒険者がDランクに上がれるかどうかの分水嶺でもあるという。

そんな危険な森だが、セプルだけでなく事の成り行きを見守ろうとする冒険者たちもついてきて、快適極まりない道中となった。

「あっ、トマト発見!」

茂みを抜けると、赤い実の連なる、まさに収穫期を迎えたトマトが成っていた。

葉には虫食いの痕跡もない。形の歪さもない。まるで人間が手間暇かけて育てあげたかのような、前世見たままの形のトマトである。

カレンが手を伸ばそうとすると、その腕を掴まれた。見知らぬ女冒険者だ。

見覚えのある赤い鎧を着ている。

「錬金術師さん、そこ、スライムが潜んでいるわ。気をつけてね」

「うわっ、見えなかったです。止めてくれてありがとうございます!」

言われてみれば、トマトの根本に土に色が同化している透明のスライムがいた。スライムはどの階層にでもいる。

カレンが退くと、女冒険者が手にしていたレイピアでスライムの核を一撃で貫いた。

スライムがどろどろと溶けていき、やがて消滅した。

「いいのよ。あなたの料理を食べさせてもらえれば」

そう言って赤毛の女性はにっこりと笑う。恐らくはギュンターと共にこの冒険者部隊を率いている、紅蓮の舞姫のメンバーだろう。

監視されているのかもしれない、とドキドキしつつ、カレンはうなずいた。

「任せてください。美味しくて体にいい、最高の料理を食べさせてみせますよ」

「いいねえ~」

カレンの啖呵を聞いて、ついてきた冒険者のうちの一人だった魔法使いの少年が声をかけてきた。

「酒飲みおっさんのくせに妙に味にうるさいセプルがこんだけウキウキしてるってことは、あんたの料理ってホントに美味しいんでしょ? ボクにも食べさせてね~」

「もちろんですよ! みんなに食べさせてあげますよ!」

「何か必要なものあるならボク、探してこようか?」

「肉、ですね。肉が必要です。コッコかボア系の魔物の肉!」

「りょうかーい。とっ捕まえてくるね~」

ダンジョン調査隊が危険な任務だからか貴族案件だからか、カレンの顔見知りはほとんどいなかった。そもそも、Dランク以上の知り合いがほぼいないので、当然のことかもしれない。

知り合いが少ないのはともかく、高ランク冒険者が多勢なのはカレンにとって幸いだった。

カレンの顔を知る人がいないので、この中に『Eランクの錬金術師がBランクの商会の足を引っぱっている』という噂を聞いたことがある冒険者がいたとしても、それがカレンと結びつく人はいないだろう。同名の別人だと思うはずだ。

Eランクの錬金術師は、錬金術師ではあるものの修行中の見習いの扱いだ。

Eランクの冒険者と同様、こんな場所にいるとは思わないだろう。

賑やかなカレンたちに興味を引かれたのか、冒険者たちは次々と集まってきた。

「他には?」

「油をたくさん!」

「よし、トレントに喧嘩を売ってくるか」

「水魔法が使えるやつ、ついてきてくれ!」

トレントにもランクがあって、弱いトレントは根っこが生えた場所から動けない。なので二階層の森のトレントは気をつければ子どもでも狩れるが、七階層の森のトレントは動けると聞いている。

動きながら油をたっぷり含んだ火のつきやすいトレントの実を投げつけてくる、厄介極まりない魔物と化しているはずである。

カレンはポーチからポーションの瓶を取り出して、リーダーシップを取っていた冒険者の青年に差し出した。

「火傷したら使ってください」

「回復ポーションか。いくらだ?」

「わたしの料理のために危ないトレント油を取ってきてくれるんですから差し上げます。使ってもお代はいりませんし、使わなくてもそのまま懐に入れていいですよ。でも、怪我をした人がいたら他のパーティーの人でも使ってあげてくださいよ!」

「わかったよ、任せておいてくれ」

人のよさそうな青年はしっかりとうなずくと、水魔法使いたちを連れてトレント狩りに向かった。

カレンはそこからタマネギ、ピーマン、ナス、キノコなど、見つけた素材を片っ端から採取していった。

カレンは道中ハラルドがかつて当たった毒キノコも発見した。

美味しいので、カレンはこっそりこれも採取した。

今回のダンジョン調査隊に参加している冒険者の条件はDランク以上だ。

Dランクの冒険者の中に、魔力の少ない者はいない。

だから毒があっても誰の体への害にもならないのである。

カレンたちが採取を終えて森から煮炊き場に戻ると、巨大な鍋と、その傍らに呆れ顔のギュンターが立っていた。

「妙なことをやるって聞いたが、貸すのはこの鍋でいいのか?」

「冒険者が全部で何人ぐらいいるのかによりますね」

「おっと、俺たちの勢力を把握しようってのか。その手には乗らないぜ?」

「そういうのじゃないんですけどね~」

冒険者の代表者であるギュンターがこの鍋を持ってきたのだから、この鍋で作れるだけの量を作って足りなければ、それはギュンターのせいである。

「あともう一つ鍋がほしいです!」

「でかい鍋か?」

「小さい鍋でもいいですよ。揚げ物をするんですけど、どうせ少しずつ揚げますし」

「揚げ物か。そいつはいいな」

ギュンターが目の色を変える。冒険者は酒のつまみになるような料理が好きなことが多い。

「だが、それで貴族どもを唸らせられるような料理になるのかねえ」

「なりますよぉ……多分」

「多分かよ」

「わたしが作るのは、わたし以外には今のところ誰も作れないポーションの料理ですからね」

もしかしたら、外ではハラルドが料理ポーションを作れるようになっているかもしれない。

だが、素材について教えていないことも多々あるので、現状はカレンだけにしか作れないものである。

いや――やはり、ハラルドにはカレンが教えられるだけのことをすべて教えても、作れないだろう。

それ(・・) を作るための一番大きな理解について口外することは、女神様に制限されてしまっている。

「まずは美味しそうな香りで揺さぶって、美味しく食べて見せつけて、ポーションの効果まであるのを自慢しましょう」

「そのポーションってのはどんな効果があるんだ?」

「それはできてからのお楽しみです」

はじめてこのポーションを作った時のカレンはFランクだったので、エーレルトの人々はカレンにこの能力があることを隠すように助言した。

弱い立場の者が貴重な能力を持っていれば、奪いたくなる者も多いだろうから。

たとえば、グーベルト商会の者たちのように。

だが、今のカレンはCランクの錬金術師。

尊敬され、敬われる立場まで上り詰めたのだ。あまり実感はないけれども。

能力にふさわしい地位に立った今、カレンは実力を発揮することが許されるのだ。