軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ギルド員の心得 ナタリア視点

「ガブさん! カレンは錬金術ギルドの申し出を受け入れてくれたわ!」

「おおっ、そうか! こちらの提案を受け入れたということは、俺の牽制は引き換えに許されるということだよな」

「許すというより、カレンは元から怒っていないわ。カレンが怒る場所って、他の人とは違うのよ」

その時、密やかな囁き声が聞こえた。

「上手くやったよな、あの万年FランクがまさかのCランクになるだなんて誰も思わないだろ」

「だけど、それがわかってたから目をかけていたんでしょうね。どうしてわかったのかしら」

「親のコネだろ、どうせ。特別な魔道具か何かがあるんだろうよ。必死に勉強して修行して、それでも錬金術師としてはDランク止まりで、だが錬金術のためにできることをやろうとギルドに入ったオレたちと違って、楽でいいよな、コネ組は」

ナタリアはそちらに視線をやった。

カウンターの奥にいたギルド員たちはしばらくしてナタリアの視線に気づくとぎくりとした顔をした。

そんな二人にナタリアはニコッと笑顔を見せた。

すると、男の方はへらりと笑った。女の方は舌打ちしたげな顔をする。

ナタリアは内心溜息を吐いた。

これがカレンなら、笑顔で老若男女の毒気を抜くことだってできる。けれど、ナタリアが微笑んでもそうはならない。

女には敵意を向けられ、男は懐柔できても妙に距離が近くなり、体に触れてこようとしたりする。

中々、カレンのようにはいかなかった。

昔なら正面から何を言っていたのかと問い質し、それに正直な 感想(・・) を述べて相手を激昂させていただろう。

あの時よりは、少しは変われたと思いたい。

だが、たとえナタリアが変わろうとも、そもそも彼らは冒険者ギルド経由のコネで錬金術ギルドに入ってきたナタリアをそもそも快く思っていないのだ。

ガブリエルと同じ、ナタリアも錬金術ギルドの者たちにとっては余所者あがりだ。

「しかし、ナタリアには先見の明があるな。あるいは人を見る目ってやつか? よくあの子が大成するとわかったな」

ガブリエルは囁き声には気づかなかった様子で言う。

ただ支えたいからというだけで支えることを許すほど、錬金術ギルドは甘い場所ではない。

だからナタリアはにっこり笑っていつものように言った。

「カレンなら必ずやり遂げるって信じていたのよ」

「昔は天才錬金術師かもしれんと言われていたらしいしなあ」

確かにカレンはかつて、天才かもしれないと囃したてられていた。

だが、小回復ポーションを作ることはできても魔力量の問題で当然数は作れず、その時点でしばらくFランクのままでいないといけないことが確定していた。

カレンの側にいたナタリアだからこそよく知っている。

だが、ナタリアが信じたかっただけだ。

だけどそれは言わずに、理由は意味深な微笑みで誤魔化した。

人はたいてい家業を受け継ぐ。

その中で特別な才能を持った者たちがギルドに所属して腕を磨いて専門職に就く。数あるギルドの中でも特に尊ばれるのが冒険者ギルドで、それに次ぐのが錬金術ギルドだ。

家業もなく働き口も見つからず、才能もない者たちは低ランク冒険者になるのが運命。

ナタリアはそんな世の中で、両親ともに冒険者ギルドのギルド員であることもあり、生まれた時から冒険者ギルドのギルド員になることが決まっていた。

ギルド員は、そこに所属する者たちを担当し補佐することが仕事だ。

たとえば冒険者ギルドのギルド員なら、たとえ冒険者のようには戦えずとも、彼らのパートナーとして同等の働きをしたものとみなされる。

それだけに生半な人間は就職することのできないエリート職で、それ故にコネでの採用がほとんとだ。

コネでの採用にも種類があり、元々ギルドに所属していた冒険者が経験を買われてなる場合と、ギルド員の身内からの採用がほとんどである。

ナタリアは冒険者ギルドのコネで錬金術ギルドにねじ込んでもらった特殊な例だ。

ガブリエルも、元は冒険者として活動していた錬金術師という特殊な例で、どちらも現錬金術ギルド長の采配である。

コネとはいえ簡単にギルド員に就職させてもらえるわけじゃない。

ナタリアの場合は、元々は冒険者ギルドのギルド員に内定していたが、幼い頃から数多くの教師をつけられ貴族並の厳しい英才教育をほどこされ、遊ぶ時間などほとんどなかった。

当然近い年頃の友人もいなかった。そんな娘の状況に、ギルド員として忙殺されていた両親はナタリアがもうすぐ成人するという十四歳になった頃に気がついて、まずいと思ったらしい。

ナタリアは不要だと思ったものの、社会見学だと思うようにと説得され、平民学校に通うことになった。

正直、ナタリアは馬鹿げていると思っていた。

あと一年で冒険者ギルドに就職してギルド員となることが決まっていて、そのために必要なことはすべて学び終わっていた。

王都のギルド員の人たちや、高ランク冒険者にも幼い頃から可愛がられてきた。

そんな自分が、どうして今更平民学校に通わなければならないのか。

まったく無駄な時間になるだろうと両親に大口を叩きつつ、ナタリアは仕方なく平民学校に入学した。

入学して間もなく辟易した。

同級生たちの年齢はまちまちだが、入学前からの知り合い同士で固まっている上に、将来就く仕事もまだ定まっていないか、大した家業でもないか、行きつく先は低ランク冒険者が関の山といった調子だった。

そんな彼らには冒険者ギルドのギルド員になることが確定していたナタリアの存在は眩しすぎたらしく、入学して早々、鬱陶しい陰口を叩かれるはめになった。

両親に社会見学だと説得された手前、関わる価値も感じない彼らとナタリアは対話を試みた。

やり方が悪かったようで、ナタリアは物を隠されたり、水をかけられたりといった嫌がらせを受けるようになった。

そこでナタリアも、両親が自分に課した課題の本当の意味を薄々理解しはじめた。

ギルド員になれば大勢の人間と関わることになる。高ランク冒険者だけではなく、相手は低ランク冒険者とも関わらなければならない。

低ランクだからと相手にしないわけにはいかない。

その中にはもしかすると、今後高ランクになるかもしれない冒険者も含まれているのだから。

そして、ナタリアに反感を覚えて嫌がらせをしてくる彼らは今後ナタリアが担当する冒険者になるかもしれない人々だった。

それなのに、ナタリアには彼らのあしらい方がわからなかった。

両親には大口を叩いたし、あと一年でギルド員になるのだから自力で解決するべき問題だと考えたナタリアだったが、中々解決策は思い浮かばなかった。

今のナタリアが思い出せば、あの頃の自分は傲慢すぎたのだが、その自覚がないのだから救いようがない。

そんなナタリアに声をかけてきたうちの一人が、カレンだった。