軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作成成功2

「ポーションになってるよ、ハラルド……」

「へ?」

「無魔力素材ポーションになってるって! これ!!」

カレンは鑑定鏡をハラルドに押しつけて、コップを覗き込ませようとしたが、そんなカレンもハラルドも押し退けてユルヤナがコップを覗き込み、ごくりと生唾を飲んだ。

「これはカレンさんが作ったポーションではないんですね……ですよね……カレンさんのポーションなら、小疲労回復ポーションではなく、疲労回復ポーションとなりますから……」

ユルヤナは振り返ると、ハラルドをはじめて見つけたような目で見下ろした。

「これを、魔力無しが……」

「魔力がないわけではなく、少ないだけですよ、師匠」

カレンは訂正すると茫然とするユルヤナに場所を譲ってもらい、ハラルドの手に鑑定鏡を握らせた。

「はい、次はハラルドが鑑定する番だよ」

大騒ぎするカレンとユルヤナを見ていたのだから、何が起こっているのか、薄々察していただろう。

ハラルドもまた生唾を飲み、震える手で鑑定鏡を自身が用意した蜂蜜レモン湯にかざした。

「カレン様が作ったポーションを、僕がお湯で薄めただけなのでは……?」

やがて、ハラルドは震える声で慎重に言った。

「じゃ、使った蜂蜜レモンを持ってきて」

ハラルドはうつむいたまま蜂蜜レモンの瓶を持ってきた。

それを鑑定しても、何も出てこない。

「鑑定して何も出てこないとしても、すでにカレン様の影響を受けて、この蜂蜜レモンは疲労回復ポーションになりかかっているのでは?」

「ふむ」

慎重の上に慎重を重ねるハラルドの言葉を一考し、カレンはこの蜂蜜レモンが疲労回復ポーションになりかかっているのかどうかを調べるために魔力をこめた。

それを上から覗き込んでいたユルヤナはぽつりと呟いた。

「熱を下げるポーションになりましたね?」

「つまり、疲労回復ポーションになりかかっていたということはない、ってこと」

「……まさか本当に、僕がこのポーションを作った……?」

ボロっと涙を零したあとはもう、ハラルドの涙は止まらなかった。

「おめでとう、ハラルド!」

「ありがとうございます、カレン様……!」

ハラルドはその場にうずくまって声をあげて泣き出した。

そんなハラルドの背中を、カレンはそっと撫でてあげた。

ハラルドが泣きすぎてフラフラになってしまったので、カレンが起きている間は就業中だと言い張るハラルドを部屋にやって寝かせたあと、ユルヤナは言った。

「カレンさんはあまり驚いていませんでしたが、どうして彼が無魔力素材ポーションを作れるのか、カレンさんにはわかるのですか?」

「これが正解かはわかりませんが、いくつかの予想はしています」

「……教えていただけますか? 考えても、私にはまったく理解ができません」

途方に暮れた顔をしている師匠ユルヤナが、弟子のカレンに教えを乞うた。

「ハラルドに魔力がほとんどないからじゃないかな、と思っています」

「魔力が、ないから……?」

「無魔力素材だって魔力がないんですよ、師匠。その状態を師匠はどれぐらい『理解』できますか?」

「なるほど。無魔力への理解……」

「それと、無魔力素材の効能への理解、ですかね」

「効能への理解?」

「先程、師匠は蜂蜜レモンというものがポーションになる前から効能を持つということが、あまりピンと来ていなかったじゃないですか?」

「……効能があること自体は理解していますよ? ただ、その効能はそのままでは肉体に大した効果を及ばさないということもまた理解しているのです。たとえるなら、魔法薬となった場合の効果が百ならば、素材のままでは一の千分の一、万分の一以下かもしれません」

「でも、魔力がほぼないハラルドにとっては多分、違うんですよ」

毒キノコにあたったハラルドを見て、実際にカレンも無魔力状態で毒キノコを食べてみて、カレンは疑問に思っていたことがある。

魔力が体に満ちているから無魔力の毒キノコの毒が効かない人たちにとって、無魔力の食材たちの持っている効能が果たしてどれほど効くのだろうか、と。

「ハラルドには食べたら具合の悪くなる食材と、良くなる食材が明確にあるんです。嫌というほどに、思い知りながら生きてきたはずです。無魔力素材をポーションにしなくても、そこに効能があることをハラルドは実感で知っています。他の誰よりも『理解』しているだろうなとは、前から思っていたんです」

「カレンさんはあの魔力無し――いえ、 ハラルド(・・・・) がやがて無魔力素材ポーションを作るとわかっていたということですか?」

ユルヤナがハラルドの名前を呼んだのを聞きカレンはにんまり笑った。

「さすがにそこまでは期待していませんでした。でも、嬉しい誤算です!」

「そうですか……ですが、どうやってカレンさんは無魔力を理解したんですか?」

「わたしは――」

前世、魔力のない世界で生きていた時の記憶があるから。

だがそれを口にする気はないため、カレンは笑顔で別の説明をした。

「体中の魔力を使い切ってみることがあるんですよ、わたし。師匠もやってみたら無魔力素材ポーションを作れるようになるかもしれませんよ!」

「それは無理ですね」

「まあ、強制はしませんが――」

ユルヤナのような長命種が無魔力素材ポーションを作れるようになってくれたら安泰なのに、とカレンが残念に思いつつ言いさすのを、ユルヤナは首を振って止めた。

「そうではありません。我々妖精種と呼ばれるエルフは、魔力を使い切れば死んでしまうんです」

「えっ?」

「この体のほとんどは、魔力で構成されているのですよ。ですから生まれながらに魔力量が多い。そもそも、魔力がないと生きていけないからです。人間も似たようなものだと思っていましたが、魔力無しなどと呼ばれるほど魔力の少ない者がいることを考えれば、魔力がなくても生きる上では問題がないのでしょうね」

「そ、そうだったんですか……それは知りませんでした。すみません」

そのつもりはなかったが、カレンはユルヤナに自傷をすすめたようなものである。

頭を下げるカレンに、ユルヤナは鷹揚に言った。

「いえいえ、良いのですよ。しかし、魔力の使い切りを他者にすすめるのはやめた方がいいですよ、カレンさん。妖精種だけではなく人間も、魔力を使い切れば死ぬことがあります」

「そう、ですね。魔力を使い切るのが危ないって言われているのは、そういう人もいるってことですもんね」

「ええ。人間にしては長命な者たちは皆、肉体のどこかしらが魔力に置き換わっていることが多いです」

「魔力に置き換わる……」

「ですから、高ランクの冒険者は死体が残らない者も多い。聞いたことがありませんか?」

「た、確かに……高ランクは死体が残らないって聞き覚えが……でもそれは、死ぬのがダンジョンの深くだから、死体が見つからないだけだとばかり……」

ごくりと息を呑むカレンに、ユルヤナは笑顔で続けた。

「死ぬと同時に消滅しているだけですよ。体の魔力に置き換わっていない部分と、もっとも魔力が濃く残る部位だけを残してね」

「……それって、魔物みたいな死に方ですね」

魔物も、殺して少し経つと消えてなくなる。

そうでなければダンジョンはいつも血みどろになっていることだろう。

あとに残るのは魔物の一部と、魔石。

そして、運が良ければ女神からの贈り物のドロップアイテム。

カレンの言葉にユルヤナはきょとんと目を丸くした。

「どちらかというと、亡骸を残して死ぬ者を見ると私たちなんかは、人間みたいな死に方だ、と思うのですよ」

「あっ、そうか。エルフもそういう感じで亡くなるんですもんね。すみませんわたし、次から次へと失礼なことを」

カレンが口にチャックをするも、ユルヤナは気を悪くした様子はなかった。

「いえ……あなたの素直な考え方を知れることが興味深いので構いません。なるほど、それほど魔力のない肉体というものに重きを置く考え方が、無魔力素材ポーションを作る鍵となるわけですか……」

「あくまでわたしの想像で、合っているかはわかりませんけどね!」

思考の淵に沈み込んでいくユルヤナに念押ししておく。

カレンは今日の錬金術をおしまいにすることにして片付けをはじめた。

片づけながら地階の部屋にいるハラルドの胸中を思い、カレンは再びにっこりと笑みを浮かべた。