軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

窮地の機会

「おめでとう、カレン。あなたの魔力量ランク、Cランクに上がったわよ」

「本当に上がったんだ……! あんまり自覚はないけれど」

「綺麗に器に魔力が収まっているということね。使う時に実感するらしいわよ」

火災の翌日。

階梯を昇ったこともあり、ナタリアが魔力量を測ってくれるというので錬金術ギルドにやってきていた。

昨日はあのあとグーベルト商会に再び戻り、オイゲンに犯人の目撃情報を伝えた。

すると後始末はすべてグーベルト商会が請け負ってくれることとなり、カレンはアパートの人たちにお詫びの見舞金を渡し、状況は一旦の決着を見ていた。

「とりあえず、わたしはもうDランクの錬金術師になる!」

カレンは錬金術ギルドのカウンターにヴァルトリーデからの推薦状を叩きつけた。

ナタリアはそれを拾い上げて目を剥いた。

「こんなの、どうやってもらったのよ!?」

「色々あってね」

「守秘義務に引っかかるわけね。グーベルト商会のいざこざを乗りこえたから、かしら? 国王陛下の前まで引きずり出されたって話だったものね」

ナタリアの誤解をあえて訂正せず、カレンはふうと息を吐いた。

できることならランクがあがる前にグーベルト商会からの謝罪が欲しかった。

そうでなければ彼らの謝罪は高いランクを持つカレンへの阿りにしかならない。

カレンが偉くなってからの謝罪に、カレンは何の意義も感じられないだろう。

だが 自宅炎上(こんなこと) になって周りの人まで巻き込まれてしまうのなら、これ以上待ってはいられない。

今回の犯人はグーベルト商会の関係者だったが、これからは違うかもしれない。

アパートの住人以外の人間は、どちらかと言うまでもなく、グーベルト商会寄りである。

カレンのギルドランクが、Eランクだから。

「……でも、納品実績が少なすぎるかもしれないわ。会議にはかけてみるけれど、通るかどうかはわからないわよ」

「できるだけ早くDランクになりたいんだけどなぁ」

「努力するわ、カレン。あなたが戦うなら、私も一緒に戦いたいから」

「ナタリア……ありがとう。心強いよ」

Dランクに上がれれば次に目指すべきはCランク。

Cランクになるには中回復ポーションかそれと同格のポーションを作れるようにならないといけない。

方法は論文を読むよりも、ユルヤナに聞く方が近道だろう。

もしこの騒動がカレンがDランクになるのでも収まらないようなら、とっととCランクにならないといけない。

Cランクからは上級錬金術師の仲間入りだ。弟子も取れるようになる。

商業ギルドでたとえAランクだろうがSランクだろうが、上級錬金術師は別格だ。

比べものにならないほど上級錬金術師の方が価値が高い。

上級冒険者と同等の価値があるとされている。

どちらも、女神に認められないとできないことが昇級の条件になっている。

「それじゃナタリア、わたしはそろそろいくね」

錬金工房に戻り、工房に入り浸っているユルヤナに教えを乞おうと思っていたカレンだったが、錬金術ギルドを出たところで予定変更を余儀なくされると悟った。

ギルドの前に馬車が停まっていて、その前には見覚えのある人物が立っていた。

「カレン様、お迎えに参りました。ヴァルトリーデ殿下がお呼びです」

迎えはヴァルトリーデの侍女で、カレンも顔見知りだ。

馬車に乗って王女宮に到着し、カレンはヴァルトリーデの部屋に通された。

部屋の中に入っても、ヴァルトリーデの姿はなかった。

だが、部屋の奥につかつか足を踏み入れれば、天蓋つきのベッドの中央がこんもりと膨れているのが見て取れた。

布団を頭から被っているらしい。

「あのう、ヴァルトリーデ様? いかがなさいました?」

「ダンジョンの調査隊に、選ばれてしまったのだ……」

そう言いながら布団から顔を出したヴァルトリーデの顔は涙で濡れていた。それでもなお美しいかんばせである。

「試練を乗りこえられた私には見込みがあると、国王陛下が……ウウッ」

「なるほど。先だっての試練でヴァルトリーデ様を陥れられるのならばそれまで。そこで陥れられずとも、試練を乗りこえたことを口実に更なる困難に突き落とそうという話だったんですね」

「行きとうない……行きとうない……」

ぶつぶつ言うヴァルトリーデのベッドの側の椅子に勝手に座り、カレンは苦笑して訊ねた。

「陛下に調査隊から外すよう、お願いできませんか? それとも今すぐ結婚しなくては回避できそうにありませんか?」

「陛下は恐らく、頼めば調査隊から外してくださるだろう」

だが、とヴァルトリーデは声をくぐもらせた。

「せっかく期待してくださっている陛下を幻滅させたくはない……!」

「つまり行きたくなくとも、行かなくてはならないから泣いていらっしゃる、と」

そして、カレンがここへ呼ばれた理由も明白である。

「だからわたしについてきてほしい、ということですね?」

「ついてきてほしいのは間違いないが、私の意向だけではないぞ。これを読んでみよ」

ヴァルトリーデはベッドサイドの開封済みの手紙をカレンに手渡した。

そこにはヴァルトリーデの随従者として『Eランク錬金術師カレン』を推薦する者の名が書かれていた。

推薦者の名前はオイゲン・グーベルト。

グーベルト商会の利益のための行動だろう。

カレンの研究を邪魔しようとしているのか、あるいは排除にかかってきたのだろうか。

どちらにせよカレンはこれを辞退できない。

ダンジョンの調査に献身するグーベルト商会に盾突いておいて、自分はダンジョン調査のために身を捧げられないのかと、カレンに対する眼差しが厳しくなれば、今度こそ自宅の炎上だけでは済まないかもしれない。

「……わたしもヴァルトリーデ様も、追い詰められてしまいましたね」

「私は果たしてダンジョンでも王女としての尊厳を守り続けることができるのだろうか……」

「こうなったら侍女の方々にはヴァルトリーデ様の本当のお人柄を明かしてはどうですか?」

「それは嫌だ!」

「そうは言ってもわたしだけじゃフォローしきれませんよぉ~」

「根性でどうにかしてみせる!!」

根性論は王女の解決方法とは思えないものの、本人がそうしたいのならカレンも止めることはできない。

「ダンジョン調査隊の出発は来月の三日。ダンジョン調査隊の者は建国記念大祭へも招待されるとのことなので、直にそなたにも招待状が届くことだろう」

「大急ぎで準備をはじめます」

「私の解毒ポーションはどうなるだろうか?」

「現地調達した素材でまかなえます」

「まかなえないと言うてくれれば致し方なく辞退できたというのに……!」

「あ、すみません。今からでも無理ということにしましょうか?」

「いや……よいのだ」

ヴァルトリーデはのそのそと布団から這い出ると、溜息を吐いた。

「どちらにせよ、陛下の期待を裏切りたくないという気持ちが何より強い。ゆえに、そなたが無理と言っても私はどうにかしようと考えただろう……こんなにも行きたくないのだがな」

「わたしたちはダンジョン調査隊に追いやられてしまいましたが、お互いにとって、これはいい機会でもあるようですね。認められればもしかして、ヴァルトリーデ様は国王陛下の後継者候補として認められるのではありませんか?」

「うむ……私もそう思う。そなたは王国に必要な錬金術師として認められよう。私の推薦状によりDランクにはなれるだろう。その後、中回復ポーションを作れずとも、この度のダンジョン調査隊でめざましい功績を残せばそれを昇級理由として、Cランクになることもできるのではないか?」

「確かに、ギルドや国への際だった貢献は昇級理由になりえますからね」

お互いにとって、これは大きなチャンスでもある。

「ちょうど、すぐにでもCランクに昇級したかったところです。ダンジョンの異変の原因を掴むため、お互い頑張りましょう。今のところ、何をどうしたらいいのかはわかりかねますが」

「まずは魔物を前にしても怯えていると露見せぬよう、平気な顔を取りつくろうことだな……練習しておく」

ヴァルトリーデはキリッと顔を取りつくろう。

あまりにも初歩である。チャンスをものにするのは無理かもしれない。

「私のために災難にも見舞われたと聞いている。にもかかわらず、私を憎むことなくそなたが共に来てくれること、ありがたく思っているぞ、カレン」

「ヴァルトリーデ様は何も悪くないじゃないですか」

「うむ。だが、私に関わることでそなたを政に巻き込むことになるのは最初からわかっていたことなのだ……だからそなたを私のところへ呼びつけずに、顔を隠してそなたに会いに行ってみたりもしたのだが、私に協力させた時点で無意味な配慮であったな」

ヴァルトリーデは不審人物も同然の姿でカレンの錬金工房へやってきたことがあったが、カレンへの配慮のためだったらしい。

カレンが思わず笑うと、ヴァルトリーデも情けない顔で笑った。

「そうだったんですねえ。お気づかいいただき、ありがとうございます。でもまあ、大丈夫ですよ。わたしもわたしの意思で様々なもめ事に巻き込まれ中なので、どれが自分のせいで、どれがヴァルトリーデ様のせいかなんてわかりませんよ」

「いずれSランクになる錬金術師ならば、さもあらんか」

ヴァルトリーデは納得すると花のような笑顔を浮かべた。

相変わらず、ユリウスには見せたくない笑顔だと思いつつも、この笑顔を守るために頑張ろうとも思えるのだった。

カレンがヴァルトリーデの部屋を退室すると、控えていた二人の侍女たちが言った。

「今後とも、ヴァルトリーデ殿下をどうぞよろしくお願いいたします、カレン様」

「王女様は我慢強いお方ですが、カレン様には素直にお気持ちを打ち明けられるようです。これからもどうか寄り添って差し上げてくださいませ」

そう言って優しい微笑みを浮かべる二人の侍女たち。

彼女たちはもしかしたら、打ち明けられずともすでにヴァルトリーデの本質に気づいているのかもしれなかった。