軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

声明発表

「カレン、今日錬金術ギルドに行くんだっけ?」

「そうだよー。サポーターの面接のためにね」

風呂から出てきたティムが「ふーん」と言って顎に手を当てた。

「……じゃあおれ、馬車呼んでくる」

「歩いていけるよ?」

「えーと、ほら、雨が降るかもだから」

「もしかして今朝ティムがずぶ濡れできたのって、通り雨だったの?」

「うんまあ、そんな感じ」

何故か、今日はティムが朝からずぶ濡れの状態でやってきたのだ。

水浴びでもしてきたのかと思ったら、雨が降っていたらしい。

言われてみれば空が暗いような気もした。

天気予報なんてものはないので、降水確率もわからないのだ。

「ハラルドはオレと留守番な。今日は外に出るのやめとこうぜ」

「そうだね。雨が降りそうなら二人とも家にいなね」

「じゃ、馬車を呼んでくる!」

そう言うと、ティムはひとっ走りで馬車を呼んで戻ってきた。

「カレン、冒険者のサポーターの面接の件だけど、取り消されたわ」

「今日面接予定だった人が来られなくなったってこと?」

錬金術ギルドまでやってきたカレンは、ナタリアの言葉にきょとんと目を丸くした。

「その人だけじゃなく、会う予定で面接予約を取っていた冒険者全員、全員面接予定を取り消してきたのよ」

「……もしかして、グーベルト商会がらみ?」

「思い当たる節があるわけね、カレン」

ナタリアは息を吐いた。

「ダンジョン調査隊が発足したのは知っているわね? グーベルト商会がそれに参加することになったそうよ。何でも、息子が国王陛下に対して犯した罪の罪滅ぼしに、一切の褒賞を拒否した上で、私財を惜しみなく投じてダンジョンの異変の原因究明のために尽力すると宣言したそうよ」

「なるほど。それで王様はイザークのことを許すことにしたんだ」

国にとってはダンジョンの異変という、場合によっては国を滅ぼしかねない状況にこきつかえる有用な駒を手に入れたようなもの。

グーベルト商会にとっては、名目上は罪滅ぼしでも、国家事業への参加である。

たとえその費用が持ちだしで、その理由が重い罪を犯したことにあるとしても、実際に救国のための国家事業において十分な働きぶりを示せれば、商業ギルドランクBのグーベルト商会がAランクに上がるための足がかりとなるだろう。

この世界ではどうあがいても、実力が評価される世界だ。

実力を評価する場さえ手に入れられるのなら罪を犯して失うものがあろうとも、お釣りが来ることがある。

「そして、そんなグーベルト商会が声明を発表したそうよ」

ナタリアが声明が書き記されていると思しき紙をカレンに差し出す。

それを見たカレンは目を瞠った。

「あなた、グーベルト商会にハラルドを殺そうとしたことを謝るように要求しているって、謝罪声明を出すように言っているってホント?」

「ホントだよ」

「ああもう、信じたくなかったけど、事実なのね……」

「ふぅん。ちゃんとわたしがお願いしたとおりの要求が書かれているね」

ナタリアが見せてくれた声明文には、グーベルト商会が国家存亡の危機に立ち上がった経緯と、その経緯の中でカレンに迷惑をかけたこと、それに対するカレンの要求が書かれていた。

グーベルト商会はEランク錬金術師のカレンに迷惑をかけたことについて謝罪をする用意はあるが、カレンのこうした要求は呑むことができない――だがこれからも謝罪を受け入れてもらえるように努力していく、としめくくられている。

「これがどうかしたの?」

「なんでわからないのよ、もうっ! これが原因であなたに対する批判が集まっているのよ! 相手はグーベルト商会よ? そして今、国の存亡がかかっているかもしれないダンジョン調査の要でもある存在。そんな巨大商会に、何の力もない子どものために謝れってあなたは言っているの。Eランク錬金術師がグーベルト商会を煩わせているの。たかだか孤児の子どものためによ? そんなことは許されることじゃないって、特に冒険者の間ではあなたに対する不信感が信じられない速度で広まってる!」

「……そういう話になっちゃうんだ」

「多分、グーベルト商会が裏でそういう雰囲気になるように扇動しているわ。だけど、私ですらわからない批判じゃない。カレン、一緒にグーベルト商会に行きましょう! 和解して、この声明文を撤回してもらわないといけないわ!」

カレンはナタリアに引っぱられて錬金術ギルドの馬車に乗せられ、グーベルト商会に連れていかれた。

商業ギルド通りの大通りと、目抜き通りの十字路に面した場所を占拠する巨大な商会。

カレンたちが訊ねて名前を名乗ると、従業員は面会予約も取っていないのにカレンたちを中に招き入れた。

案内された応接室の机はカレンの見間違いでなければ世界樹の枝を輪切りにして形を整え磨いた美しい飴色の机で、実験室でもない場所でこんな机を使うなんてと、カレンはこっそり目を剥いた。

「よく来てくれたね、カレン殿。そして君は――」

「錬金術師カレンの担当者である錬金術ギルドのギルド員、ナタリアと申します。カレンからグーベルト様にお話があるとのことで、それを見届けるために共に参りました」

「ナタリア殿、お初にお目にかかる。今我々は国家の大業のために忙しいため、申し訳ないが単刀直入に用件をお伺いしたい」

「カレン」

ナタリアにうながされ、カレンはオイゲンを見すえた。

オイゲンはうっすらとした笑みをたたえていた。彼には最初からこうなることがわかっていたのだろう。

イザークはともかく、どこからどこまでがオイゲンの計画だったのか。

「グーベルト商会長――この度は声明を発表していただき、ありがとうございます」

「カレン!? 何を言っているのよ!」

慌てるナタリアに目線だけで謝ると、カレンはオイゲンに向かい笑いかける。

それは心からのカレンの笑みだ。

海千山千を乗りこえてきたオイゲンに、それがわからないはずもない。

ゆえにオイゲンは心底怪訝そうに眉をひそめた。