軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

窮鼠と子猫たち4 ハラルド視点

サラがハラルドたちを見やった。

「そうするしかないでしょう。ティムはともかく、自分の身も守れない人間は心優しいカレン様の側には相応しくありません」

「カレンが気にしなければ雑用に使ってもいいけれど、気にしちゃうものねえ」

ハラルドのような雑役人が危険な目に遭い死ぬことを、カレンは気にしてしまうから、ハラルドはもう雇えないとサラとナタリアは言う。

「カレン、危険な目に遭わせたことへの慰謝料としてポーション代を精算して、この子たちを解雇しましょう」

「ナタリアさんの案がいいですね。後腐れもありませんし」

「ま、仕方ないか。おれも戦えるけど、見た目でナメられるもんな」

トントン拍子に解雇の話が進んでいく。

ティムすら状況を受け入れていて、ハラルドだけが置いていかれる。

男たちに襲われたときにも心臓の音がうるさかった。恐ろしくて息が苦しかった。

だが今は、それ以上に動悸が激しく、息が苦しくて目が回った。

呼吸もままならず言葉が出てこなかったが、あえぐように息をして、ハラルドは死に物狂いで言った。

「僕は、大丈夫です……これからもここで働かせてください!!」

「ハラルドは大丈夫でも、カレンは大丈夫じゃないって話だろ」

「おまえは黙ってろよ、ティム! おまえはそれだけ強ければどこででもやっていけるだろうけど! 僕は違うんだよ!!」

あれだけの強さがあれば魔物を殺すのも容易いに違いない。

恐怖という感情が死んでいるように見えるし、冒険者として大成するのも時間の問題に見えた。

所詮、ティムにとってはカレンの元でやる雑役人の仕事は腰かけでしかないのだろう。

「おまえと違って、僕は人生がかかってる……! カレン様を説得する機会まで、おまえが奪うな!」

ティムはその一喝で黙ったが、サラとナタリアは冷酷だった。

「その説得がカレン様のお心を痛めますので、もう黙りなさい」

「そうね。気持ちはわかるけれど泣き落としはやめなさい」

カレンの友人であり、カレンの意志決定を左右する力を持った人たちだった。

だが、その言葉に叛いてハラルドはカレンの足元に身を投げ出した。

「カレン様! 僕はどんな危険な目に遭おうと構いません! どんな仕事だってやってみせます! 死んでも悔いはありません! ですからここで働かせてください!!」

「死体見ただけで吐き散らかして動けなくなってたくせに」

ハラルドは涙目でティムを睨みつけ、歯を食いしばった。

その食いしばった歯の間から言う。

「もう二度と、そんな無様は晒しません……! ですからどうか、お願いします……!!」

額を床にこすりつけるハラルドに、カレンは言った。

「今朝は、帰りにナタリアのところに寄って、ハラルドの給金を上げるかどうか、相談をしようと思っていたんだよね。……でも、やめた」

ぐ、と拳を握りしめたハラルドの上に、カレンの声が振ってくる。

「ナタリアに相談なしに、わたしはわたしの意志でハラルドを雇い続けるって決めた!」

ハラルドは息を呑んで顔をあげたが、喜ぶのは早かった。

「カレン、どうせこの子をいつ死んでもいい存在として扱うことなんてできないのに、どうするつもりなの?」

「もちろん、冒険者上がりのサポーターを雇うよ。ギルドの制度、使えるなら使わせてもらってね」

「サポーターを雇うなら雑役人はいらないでしょうに……子どもを一人雇うために余計なコストをかけるだなんて甘すぎますよ、カレン様」

「ふむ」

カレンはサラの言葉に首を傾げると、ハラルドを見てにやりと笑った。

その笑みが、涙が出そうなほど心強かった。

「わたしは甘さでハラルドを雇うと言ったつもりはないよ。これは、そう――青田買いだよ」

「あおた……買い?」

「能力のある人間を、周りの人たちがそうと気づかないうちに味方にしておくってこと」

「能力のある人間……」

耳馴染みも口馴染みもない言葉に、ハラルドは茫然と復唱した。

「ハラルドには優れた記憶能力がある――バックアップがほしかったところなんだよね、わたし」

ばっくあっぷ。それが何を意味するのかハラルドにはわからなかったが、自分が求められているのだということは強烈に理解した。

「わたしにはまだ、わたしの何が無魔力素材をポーションにするのかわからない。わからないままわたしが不慮の事故や襲撃で死んでしまったときにそなえて、ハラルドにはわたしのすべてを記憶してほしい……その必要性を今回のことでますます強く感じたから」

石鹸からはじまった騒動と、カレンの崇高な望みを知っている。

イザークがやってきたとき、ハラルドもその場に控えていたのだ。

だから、それがカレンの本気の望みだとハラルドも理解した。

「わたしの研究だけじゃなくて、わたしの考えや思想、くせや、わたしの生活、仕草や習慣、わたしを形づくるありとあらゆるものを記憶してほしい。……できるかな?」

「できます!!」

考えるよりも早く答えたハラルドにカレンはうなずいた。

「じゃ、これからはわたしの家に住み込みで働いてほしい」

「かしこまりました」

「ただし、わたしの秘密を明け渡すにあたっては秘密保持のための契約を結んでもらうから、そのつもりで」

「当然のことです……ありがとうございます、カレン様……!」

ボロボロと涙を流すハラルドに、カレンは少し困ったような顔をしつつも微笑んでうなずいた。