軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

師の教え

「今日はわたし、ポーションをつくるから。その間二人には何をしててもらおうかなぁ」

掃除か洗濯か洗い物か。

毎日やってもらっているので、ありがたいことに家中ピカピカである。

「おれ、錬金術を見てもいーか?」

カレンが二人に任せる仕事に迷っているとティムが言う。ハラルドがすかさず目を剥いた。

「いいわけないだろ、おまえ……!」

「錬金術師の家で働いてたら一度は見たくなるでしょ。その気持ち、よくわかるよ……!」

「い、いいんですか?」

「いいよいいよー! でも、こればっかりは邪魔しないようにね。錬金工房に入れてあげるけど、中に入ったら扉横の壁際に立って、そこから決して動かないように」

「あ、ありがとうございます……!」

ハラルドがどもりながらお礼を言う。

その頬は紅潮していて、興奮しているのが見て取れた。

大人びたハラルドでさえ、錬金術を見られるのは嬉しいらしい。

逆に、ティムは自ら申し出たくせにすんとした顔をしている。

「ティム、錬金術に興味があるんじゃないの?」

「いや、たぶんおれには錬金術は無理じゃねーかな。魔力は足りてても、カレンが何やってんのかよくわかんねーし。だけど、錬金術師が仲間になるかもしれないから、どういう手順なのかは知っておきたいなって」

「それもいい心がけだね」

カレンは二人を錬金工房の中に入れた。

ハラルドの方がわかりやすく目を輝かせているのは意外だった。

「まずは熱を下げるポーションをつくってから、余った魔力で化粧品に取りかかるよ。熱を下げるポーションの素材はこれとこれとこれ」

「おお、見たことあるのばっかりだな」

「ティムたちにはダンジョンで採取してもらってきているからねー」

「蜂蜜とレモン……?」

はしゃぐティムの横で、ハラルドはじっとカレンの手元を見つめていた。

「今日はここにある素材と水でポーションをつくるよ。二人が汲んでくれた井戸の水だよ」

「ポーションに使う水ってさあ、よだれじゃだめなのか?」

「ダメに決まってるだろ。ふざけてるのか!」

ハラルドに睨まれるも、ティムは怯むどころか真剣な顔つきで言う。

「魔物にやられて動けなくなってもさ、そこに薬草が生えてたらそれを食って、口の中でポーションをつくれたら便利だな、って思ったことがあるんだよ。だって回復ポーションの素材って、薬草と水だけだろ?」

「面白い発想だね。だけど、よだれはダメだねえ」

「よだれと水の何が違うんだよ?」

唾液の勉強なんてしたことのないティムにとってはどちらもそう変わらないものらしい。

ハラルドが嫌そうに言った。

「よだれは汚いだろ。だが水は違う」

「そうそう。よだれには水が入ってるけど、水に余計なものが入ってる状態だからね。感覚的には泥水に近いかな」

「おれの口の中に……泥水が……!?」

「いや、泥水とよだれはまた別のものだけどね?」

ティムがほっとした顔をする横で、ハラルドはぎりぎりと歯を食いしばった。

「馬鹿げたことを言ってカレン様を煩わせるな。水は水だ」

「……いや、だけど井戸水も何も入ってないわけじゃない。大腸菌とか絶対にいるし……なのにポーションはつくれる……よだれでできないことはない? もしかして、わたしがそう思い込んでいるだけ?」

「カレン様?」

ハラルドに声をかけられて、カレンはハッと気を取り直した。

「さっさとポーションをつくらないと回復した魔力がもったいない!」

「邪魔をしてしまい申し訳ございません! 次にティムが話し出したら僕がつねって黙らせます!」

「えーっ!」

「いや、むしろわたしがぼーっとしてたら声をかけて欲しい! むしろ話しかけ続けて! わたし、面白いなと思ったらずっと考え込んじゃって、時間が飛んじゃうんだよね」

「そういうことでしたら……えーっと、よだれが水に余計なものが入っている状態なのでしたら、余計なものが入っていない水というのはどういうものなのでしょうか? 井戸水には何か入っているとおっしゃっていましたし……きっと川の水でもないのだろうと思いました」

「そうだねえ。井戸水にも川の水にも不純物は入っているだろうねえ。人間の目には見えないんだけどね」

「では、どのようなものが純粋な水と言えるのでしょうか?」

ハラルドの問いにカレンは作業を進めながら首をひねった。

「なんて言えばいいかなぁ。たとえば、水の一滴を二つにわけてもどちらも水でしょ? それを更に二つにわけても、どちらも水。人間の手ではそれ以上小さくなったらもうわけられないけど、わけられるとする。どんどん半分にしていって、不純物も取り除いて、水が一番小さな状態になったとする。それが集まったものが純粋な水、と言えるかなあ」

「なるほど。純水な水が湧く泉などが実在するわけではなく、概念なのですね」

「そうだね、つくりだすのは難しい気がするね。でも、魔法とか魔道具を使えば生み出せるのかも……魔法で生みだした水は純水だとか、あるかも?」

「カレン様、手が止まっています」

「わっ、ありがとう!」

カレンがブレンドティーポーションをわたわたと小瓶に詰めていると、ベルが鳴った。

立ったまま寝ていたティムが目を覚ますと言った。

「おれ、出迎えてくるな!」

「あいつ、自分から見学を申し出たくせに逃げたな……」

「ティムには退屈だったみたいだね」

ティムは客人と共にすぐに戻ってきた。

その客人は無遠慮に錬金工房に入ってきた。

「カレンさん! あなたに贈り物を持って戻ってきましたよぉ~」

「師匠!」

苦虫を噛み潰したような顔をしたティムが案内してきたのは、先日ティムをボロクソに詰った、カレンの師匠ユルヤナだった。