軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話 それぞれの思惑

「今日からお姉様の侍女になりました。ルシアン殿下におかれましてもよろしくお願い申し上げます」

にっこりと笑う目の前のロベリアに、アマリリスは開いた口が塞がらない。

(ロベリアが私の侍女って……どういうこと!?)

チラリとルシアンに視線を向けても、いつものように腹の底が見えない笑みを浮かべているだけだった。

アマリリスはいよいよクレバリー侯爵家の状態が悪くなったのか、ルシアンの婚約者である自分にすり寄ってきたのだと考える。

しかし、ルシアンはアマリリスが置かれていた状況を把握しているはずだ。いくらロベリアが侍女だといっても、アマリリスに近づけるようなことをするとは思えない。

(そういえば、一週間ほど前にロベリアとダーレンが婚約を解消したとルシアン様から聞いたけれど……なにか狙いがあるのね?)

そう察したアマリリスはひとまず流れに身を任せることにした。

「ロベリアにはアマリリスの話し相手になってほしい」

「はい、かしこまりました! お姉様に楽しんでもらえるように励みますわ!」

こういった場合の話し相手は、王太子の婚約者が心を健やかに保つために尽力するものなので、ロベリアの返答を聞いても任せたいと思えない。それなのにルシアンはニコニコと機嫌よさそうに笑っている。

(あ、違うわ。あれは機嫌がいいわけではなくて、侮蔑の感情を隠しているだけだわ)

ロベリアの言葉で一瞬だけ半眼になり、口元が 歪(いびつ) に引きつっていた。さすがのルシアンもロベリアの言動には呆れたようだ。

「ではロベリア、僕のリリスを頼んだよ」

「お任せください!」

それからロベリアは侍女として、どこへ行くにもアマリリスの後について歩いた。

必然的にルシアンとの接点も増え、親しげに話すようになった。ロベリアがいるので腹黒教育はしばらく進んでいない。もともと必要ないほどルシアンは策略に長けているので、なんの問題もない。

「まあ! ルシアン殿下は本当にお優しいのですね……! わたし、今回の婚約解消でとても傷ついてるので、ルシアン殿下に慰めていただいたら元気が出そうです」

「そう……それは大変だったね。ロベリアほど可憐なご令嬢なら、周りの男性が放っておかないだろう? 僕の出番なんてないんじゃないかな?」

「そんなことありませんわ! わたしはルシアン殿下がいいのです……あっ、す、すみません、つい本心が……」

ロベリアはじわじわとルシアンに近づき、着実に距離を縮めているように見えた。アマリリスはその様子を一歩引いたところで眺めている。

チラチラとロベリアがアマリリスを盗み見るが、焦ったり、悔しがったり、悲しそうな様子が見られなくて理解できないというような表情を浮かべていた。

アマリリスはルシアンの表情を読み取り、本心がどこにあるのか理解できるのでいつも心は凪いでいる。それを知らないロベリアの方が悔しそうに顔を歪めた。

ルシアンがアマリリスを見つめる時、たとえ言葉を交わさなくても伝わる熱があった。

ほんの数秒視線が絡み微笑みを向けられただけで、アマリリスの頬は一瞬で火照ってしまう。

そんな日々をしばらく過ごしていた。

* * *

冬も終わりかけの頃、ルシアンの執務室で特別な夜会についてアマリリスは打ち合わせをしていた。侍女としてロベリアも当然のようにその場に居合わせている。

「来週は婚約者披露の夜会が開催されるけれど、リリスの準備は進んでいるかな?」

「はい、ドレスも納品が済んでいます。アクセサリーは二日後に届きますので、それですべて整います」

「そうか、順調だね。当日のスケジュールは後でカッシュに届けさせるよ」

「承知しました」

アマリリスとルシアンが近隣の国も招いた婚約者のお披露目について話をしているが、会話に参加できないロベリアは我慢できずに無理やりふたりの話に割り込んだ。

「ルシアン殿下が夜会の衣装を身にまとったら、とても素敵なのでしょうね……わたしもぜひ見てみたかったですわ」

「ロベリアは出席しないの?」

「父からはなにも聞いておりませんが……」

「ふうん、クレバリー侯爵家はアマリリスの生家だから間違いなく招待状を送っているはずだよ。行き違いがないか確認してみるといい」

ルシアンは至極真っ当な意見を言うが、ロベリアはそれで満足しない。

「ですが、もし招待状を受け取れなかったら、わたしは夜会に参加できませんわ! 今回の夜会は絶対に参加したいのです!」

「まあ、姉であるアマリリスの婚約者披露の夜会だしね。最悪、招待状がなくても参加できるように手配しておくよ」

「まあ! ありがとうございます、ルシアン殿下!」

確実に夜会に参加できることになったロベリアは、満面の笑みで喜んだ。

だがロベリアの目的はそれだけではなかった。

ロベリアはルシアンに近づくためにアマリリスの侍女になった。本当はアマリリスの顔も見たくなかったが、ルシアンを奪うためだと割り切り、適当に話を合わせてタイミングを狙っている。

午後からはルシアンが国議に参加するので、アマリリスの私室でゆったりとお茶を飲みながら過ごしていた。アマリリスはなにやら小難しい本を読んで、勉強しているようだ。

そんなアマリリスを横目に、ロベリアは頭の中でルシアンを奪う作戦を練っている。

(なんとか夜会の参加はできるようにしたけれど、お父様ったら招待状も送ってくれないなんて、なにを考えているのよ!?)

王城に来てからアマリリスの後をついて歩き、ルシアンとの接触を増やしてなんとか対等に会話できるまで近づいた。最近ではロベリアの方がルシアンのそばにいる時間が多いかもしれない。

(でもあくまで夜会に参加するだけなのよね……。アマリリスが婚約者として夜会に参加する前に、わたしがルシアン殿下に選ばれないと……どうしたらいいかしら?)

この夜会でアマリリスが婚約者だと周知されれば、それを覆すのはますます難しくなる。チャンスがあるとすれば夜会前夜までだ。

(ルシアン殿下の様子だと、わたしに気持ちが向いているのは間違いないのよね。きっと婚約者のアマリリスに悪いと思って遠慮してるんだわ)

真面目なルシアンのことだから婚約者に義理立てしているのだと、ロベリアは考える。そこでどうやってもロベリアを選ぶしかないように、既成事実を作るのはどうかと閃いた。

「そうよ、それしかないわ……!」

「ロベリア、なにか言った?」

「いいえ、なんでもないわ。うふふ、きっと夜会ではサプライズが待っているわよ」

「なんのこと?」

「ふふふ、サプライズだから内緒に決まっているじゃない。あんたはそんなこともわからないの?」

アマリリスはそこで口を閉ざした。再び本へ視線を落とし、分厚い本を読み進めていく。

ロベリアは夜会前夜に仕掛けるため、【アマリリスのことで相談がある】と書いたメモ紙を用意した。これをルシアンへさりげなく渡し、夜会前夜に私室を訪問するきっかけを作る。

あとは流れに身を任せて、ルシアンと一夜を過ごせば既成事実の出来上がりだ。

(初めてじゃないから、部屋を暗くしてもらって、朝までにシーツに血を垂らせば誤魔化せるわよね)

そうしてロベリアは、夜会の前日にルシアンへこっそりメモ紙を渡し夜を待った。

遅い時間の廊下は巡回する騎士しか通らない。薄暗い廊下を騎士に見つからないように進んで、ルシアンの部屋の扉を軽くノックした。

すぐに扉が開かれ、ラフな格好をしたルシアンが迎え入れてくれる。

「ああ、ルシアン殿下。ありがとうございます!」

「いや、むしろロベリアが来るのを待っていたよ」

そう言って笑みを浮かべたルシアンは、背筋が凍るほど冷たく美しかった。