軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何者

セラスが倒れている五竜士を見る。

「タダ者でないと思ってはいましたが、トーカ殿が異界の勇者だったのは予想外でした……あの不思議な力もこのところ噂になっている呪術かと。それで、その……アライオンの女神に、私のことを――」

「安心しろ。俺は、アライオンを追放された身だ」

「そ、そうなのですか?」

「正確に言えば、使いモノにならないからと女神に廃棄された。ま、女神の方は俺が死んだと思ってるだろう」

安心させるように口端を吊り上げる。

「だから心配するな。あんたを、クソ女神に突き出したりはしねぇよ」

「ク、クソ女神……?」

「クク、他にどんな表現ができんだよ?」

苦い笑みになるセラス。

「それほどの力を持ちながら追放されたとは、よ、よほどウマが合わなかったのですね……ですが、あの不思議な力にもこれで納得がいきました」

「俺が異界の勇者って話は伏せられるなら伏せたい情報だったんでな。ま、あんたが知ってもさして意味のない情報だと思ったし……どうせ俺たちはいずれ別れる予定だろ? 知らないで済んだ方がいいこともある。それより、礼が途中だったな」

セラスが首を振る。

「礼など……五竜士が現れて以降、私は何もしていません。結局、トーカ殿一人で倒してしまったようなものです」

「護衛としての役目は十分に果たしたさ」

五竜士はセラスが警戒していてくれた。

おかげで心置きなく上空のやつらに集中できた。

「…………」

セラスは寂しげな微笑を浮かべていた。

思考が別のところへ一時的にトんでいる顔だ。

小さなセラスの肩を、軽く叩く。

「大丈夫か?」

「あ、申し訳ありません。色々なことが一気に頭の中へ入ってきて……まだ、混乱しているかもしれません」

「あんたもアレコレ抱えてるものがあるみたいだしな……でもま、さっきは目の前のことに頭を切り換えてくれて助かった」

「死なせては、いけないと思ったのです」

「ん?」

「私が何もせず放心している間にトーカ殿をここで死なせてしまったら、今度こそ、私はもう立ち直ることができない……そう感じたのです」

「…………」

「もしくは自己防衛の結果なのかもしれません。心の自壊を防ぐためにはここでトーカ殿を守るべく行動するしかない。そんな風に思ったのでしょう。自分の気の持ちようの問題で私の命を助けてくれた恩人を守れなかったなど――きっと、私自身が許せませんから」

こういうところかもな、と思った。

叔母さんとセラスが似ているところ。

落ち込むことがあっても――

「なんつーか、けっこう芯の部分は強いんだよな……」

「時おり……」

「ん?」

「トーカ殿は、そういう優しい顔をしますね」

「優しい人間のことを考えてるから、かもな」

「例の叔母さまのことですか?」

セラスに笑いかける。

「ま、セラス・アシュレインもその優しい側の一人らしいぜ?」

「叔母さまの時とは表情の優しさが違います」

「似てるといっても、叔母さんとあんたは違う人間だしな」

人間というか、ハイエルフだし。

「同一の存在として扱うつもりはねぇよ」

俺の言葉に、なぜかセラスは目もとを和らげた。

「ぅ、ぐ――、……」

「ん?」

オーバンが力尽きた。

続いてシュヴァイツも力尽きる。

他の黒竜や竜騎士も、ほぼ息絶えたようだ。

「……フン」

静かだ。

毒スキルによる毒殺。

このスキルには”死の待ち時間”の問題がある。

どのくらい正気を保てる人間がいるだろうか?

心変わりしない人間がどれほどいるだろうか?

怖くなって途中で解除するやつもいるかもしれない。

急に憐れみの情が湧くやつだっているかもしれない。

おそらく――まともじゃ無理だろう。

他者の生死の決定権を握りつつ、何人もの人間の死をその場でジッと待つ行為。

イカれた暴性で憐れみを振り払い、

眼前に広がる闇から決して目を逸らさず、

最後は心を、凍りつかせる。

多分、これらが必要となる。

「【パラライズ】」

周囲に次々と【パラライズ】を放つ。

生者にはゲージが出現する。

死んでいれば――ゲージは出ない。

これも廃棄遺跡で確認した機能だ。

ゲージが出たのは、ただ一人のみ。

「ト、ォ、カ……」

俺の口から出たのは、感嘆の息。

そいつにはまだ睡眠ゲージが残っていた。

「【スリープ】状態でもギリギリ意識を保ってるってんだから、やっぱ規格外すぎるだろ――シビト・ガートランド」

ただ、身体の方はもう動かせないようだ。

先ほどから動く気配はない。

途切れ途切れの殺意だけが伝わってくる。

眠気は耐えているのだろう。

シビトを凝視して観察する。

覚醒と非覚醒を繰り返している状態らしい。

追加した麻痺ゲージ。

毒状態。

今はもう弱り切っている。

ほぼ無力化したと言っていい、か。

セラスが俺とシビトの間に、素早く立った。

カリッ

うつ伏せになったシビトが地面を爪で掻いた。

こちらを見ろという合図か。

閉じかけた目で俺を見上げてくる。

彼の生命が、尽きかけているのがわかった。

「き……さ、ま――、……何……も、の――だ……?」

俺たちは先ほどもう名乗り合っている。

だからシビトが聞きたいのは、また別のことだ。

それが、わかった。

「俺が異界の勇者として召喚されたのは事実だ……が、世界を救う勇者なんて上等なもんじゃない。今の、俺は――」

地に伏すシビトをセラスの背後から見おろす。

「ただの、復讐者だ」

そうして俺は”人類最強”の最期を、暗くなっていく空と木々の黒影がまじわり始めた闇色の森にて、静かに見届けた。