軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宿の部屋にて、ミストと

目を覚ます。

床に置いた懐中時計の前でプニっていたピギ丸が鳴く。

「ピッ」

時刻を確認……。

予定より早く起きたようだ。

「夕食の時間は、取れそうだな」

下の食堂へ行って食事をとることにした。

客の数は少なめだった。

一応、夕食どきなのだが。

「今日でミルズを去った傭兵もそれなりにいるみたいなんですよねぇ〜」

宿の主人がカウンターの向こう側でため息をつく。

今、俺はカウンター席で食事をとっている。

「なんでもね? 侯爵様がご所望だった竜眼の杯がもう見つかったらしいんですよ。まだ新層に他の宝があるはずだと言って、残った傭兵もいるみたいですけど」

目玉の消えたクジ引きみたいなものか。

「おかげで昨日まで一杯だった部屋もポツポツと空きが出てまして。ミルズも次の新層発見まで、また静かになるのかなぁ……あの侯爵様のことだから、いずれ次のお宝が欲しくなってまた新層探索は始めるんでしょうけど……」

独り言まじりにブツブツとつぶやく主人。

ただ、もはや慣れた流れという感じもあった。

新層発見はひと時のお祭りみたいなものなのかもしれない。

「ああそうだ、ハティ様」

「なんでしょう?」

「とはいえ悪いことばかりでもなくてですね? 竜眼の杯を見つけた話題の人が、今この宿に泊まっているんですよ〜。実はその人、発見前からこの宿を選んでくれていましてね?」

主人が声を潜める。

「しかも、すごい美人なんですよ」

主人には部屋に客人を招くかもしれないと先ほど伝えてある。

が、招く人物の名は出していない。

招くのがその竜眼の杯の発見者とは思っていないようだ。

ちなみに部屋に客を呼ぶと伝えた時、

『わかっておりますよ〜』

下世話な顔で主人にそう言われた。

娼婦でも呼ぶと思われたのだろうか?

ともあれ、ミストは難なく宿を取れたようだ。

「この宿は料理がオイシイですから、また食べたいと思われたのかもしませんね」

「竜眼の杯の発見者が泊まった宿ってことで、宣伝にならないかなぁ〜」

夕食を終えると、ピギ丸の分の食事を手に俺は部屋へ戻った。

炙り肉とサラダを嬉しそうに食べるピギ丸。

「モキュゥ、モキュゥゥ〜♪」

ピギ丸が食事を終える頃、ドアがノックされた。

素早く水晶化するピギ丸。

「ハティ殿」

懐中時計を確認。

「ミストです」

約束の時間、ピッタリだった。

「私を護衛として雇いたい、ですか?」

意外そうな顔をするミスト。

「ああ、もうひと稼ぎどうかと思ってな。といっても、竜眼の杯の報酬で路銀はもう十分かもしれないが」

我ながら嫌な言い方をしている。

竜眼の杯を譲った件を遠まわしに持ち出しているのだから。

「ただ、金はどれだけあっても困らないだろ?」

「そうですね……あるに越したことは、ありませんが」

ミストはベッドの 縁(へり) に腰掛けている。

俺は質素な椅子に座っていた。

「あんたは確か、ヨナト公国を目指してるんだよな?」

「――はい」

購入した地図を手もとで広げる。

「薄々察してるだろうが、俺の目的は禁忌の魔女に会うことだ。つまり目的地は金棲魔群帯になる」

「ええ。ある程度、それは察していました」

「で――あんたがここからヨナトへ向かう場合、先を急ぐなら西のミラ帝国か北の金棲魔群帯を抜ける必要がある。まあ、陸路を取るならだが」

「ヨナトは原則としてミラからの船を受け入れていません。また、ミラはヨナトへ向かう西の海の航路を封鎖しています」

「ん? てことは、このウルザからも西回りの航路ではヨナトへ行けないのか?」

「はい。特に傭兵や旅人では難しいと思います。ミラとしては、ヨナトに聖勢志願者が集まるのが面白くないのでしょう。ミラの狂美帝とヨナトの聖女は、一説によると仲が悪いと聞きますし」

「ふむ」

狂美帝ファルケンドットツィーネ。

確か酒場で先日その名を耳にした。

やたらと長い名前(?)だったので印象に残っている。

で、その狂美帝とやらが治めるのがミラ帝国か。

「ですが北回りを取ると、大魔帝の勢力に近い 大氷海(たいひょうかい) を通らねばなりません」

「要するに選択肢は陸路しかない?」

「そうなります」

「それで、あんたはどっちを抜けるつもりだ?」

「それは――」

考え込むミスト。

難しい選択だろう。

聖勢志願者とやらを嫌う人物の治める国。

話を聞く限りミラ帝国を抜けるのは困難かもしれない。

ただ――本当にミストがその”志願者”なのかは、わからないが。

俺は言い添えた。

「俺が目的を果たしたあと、あんたが望むなら金棲魔群帯を抜けるまで同行してもいい。俺にはスケルトンキングを倒したあの力がある。魔物を倒す戦力には、なれると思うが」

「正直、私としてもミラを抜けるよりは金棲魔群帯を抜けられるならそちらを通る方が都合がよいのです。ですが――」

さらに黙考を深めるミスト。

目的地は魔”群”帯と呼ばれる場所。

当然、群れで魔物に襲われる可能性も高いだろう。

今の俺の背後にはピギ丸の”眼”がある。

ただし今のピギ丸はあくまで敵を察知するだけだ。

そして――

第二実験の強化剤では、ピギ丸の戦闘能力はほぼ上がらない。

たとえば魔物の群れによる前後左右からの同時攻撃。

これをされると俺一人では処理し切れないかもしれない。

死角を潰すための背後の”壁”を常に維持できるとも限らない。

そこで、戦闘に長けた者が背後に一人いると心強い。

ミストと共にミルズ遺跡を攻略してそう感じた。

安全策を取る意味で、元から戦士を雇うことは考えていた。

現状、彼女は適任に思える。

当のミストはまだ考え込んでいた。

迷いが生じているようだ。

この護衛旅にはおそらく一つの大きな問題がある。

が、俺には彼女の抱えるその”問題”の察しがついていた。

ミストはとても長い間、考え込んでいた。

何かを躊躇している感じでもある。

「…………」

少し、気は引けるが。

問題を取り除くために必要なことと割り切ろう。

まあ、成功するかどうかはわからないが。

俺は空気を緩めて言った。

「ま、答えを急ぐ必要はないさ。聖勢志願者のあんたとしては、ミラ帝国を抜けるかどうかは迷うところだろうしな。ところで一ついいか、セラス?」

「はい、なんでしょう?」

次の瞬間――

ミストが、固まった。

自分の口もとへ手をやるミスト。

まるで自らの失言を、自覚したように。

「――あ――」