軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意志と執念の饗宴

◇【カトレア・シュトラミウス】◇

迷宮外で待機していた軍勢。

それらはカトレア・シュトラミウスがまとめていた。

迷宮消失後は、彼らも参戦する準備を整え始めていた。

音玉は使用されたらしいが目的達成の合図ではない。

あったのは――ヴィシス遭遇の合図。

まだ中で戦いが続いているなら、何か援護できるかもしれない。

そして――準備を終えて王城を目指す途中、その報告は飛び込んできた。

「王都内――この周囲に聖体が溢れてきているようです! どうも、地下から出てきているようでして……ッ」

カトレアはすぐに思い至った。

「地下に保管してあったという、神族の世界の侵攻用として製造された聖体とみてよさそうですわね……」

「い、いかがいたしましょうっ!?」

ふむ、と考えるカトレア。

聞いていた情報の記憶を辿る。

本来、地下の聖体は今使うべきものではないはず……。

「つまり、迷宮突入組がヴィシスを追い詰めている――こう見るべきでしょう」

であれば、

「迷宮範囲内のどこか……おそらく王城方面で今、まさに突入した者たちが戦ってるはずですわ。となると――地上に溢れてきた聖体は、ヴィシスが彼らを阻害するために出してきたと考えるべきです」

カトレアは鞘から剣を抜き放つ。

そして自身の位置を示すように剣を掲げ、振り向く。

「ならば……わたくしたちは、中で戦っている者たちに余計な邪魔が入らないよう聖体の駆除を行うべきですわね。おそらくはこれが――この女神討伐戦、最後の戦いとなるでしょう」

角笛が吹き鳴らされ、旗も振られる。

「あのっ」

振り向くと、迷宮外に残った勇者たちが集まっていた。

先頭で引き締まった顔をしているのは、カヤコといったか。

「私たちも……戦います」

本音を言えば、彼女たちをここであまり危険に晒したくはない。

アヤカ・ソゴウのことで色々聞いているからだ。

しかしここで彼らの申し出を断るのも、違うであろう。

彼らだって決して弱くはない。

それに――あの様子では、彼ら自身も待機で納得はしまい。

「わかりましたわ。ただ貴方がたは馬に乗れませんから、歩兵部隊と共に後方を固めてくださいまし。これからわたくしたちはあの大通りを行って突撃をかけますが、背後から挟み撃ちにされてはたまりませんもの。わたくしたちが敵に回り込まれた場合、背中は――任せましたわよ」

「は、はいっ……みんな、戦いの準備をしてっ」

カヤコが勇者たちに指示を出していく。

カトレアは側近に顔を近づけ、こっそり指示を出した。

彼ら勇者の安全を確保しやすい戦い方をすること。

それから――目を離さぬように、と。

ふぅ、と息をつく。

(ここで勇者に死者を出したら、勝ったあとわたくしも気まずいですものね……)

「陛下さんっ」

「あら」

カトレアの馬の隣に、二匹の巨狼がつけた。

一つには、

「最果ての国で四戦煌さんたちに、身の守り方だけはちょっと教えてもらいましたのですニャ!」

神獣のニャキが乗っていた。

彼女の乗る巨狼が唸った。

戦意がみなぎっている様子だ。

ニャキは巨狼の頭の横を撫で、

「この巨狼さんも速いだけではなく、とっても強いのですニャぁ!」

「パキュ~」

もう一匹の巨狼には、スレイが器用に乗っかっていた。

やけに愛くるしい第一形態のため、おそらく戦力にはならない。

ただ、聖体はそれなりに分散している。

そばに置いておく方がむしろ安全かもしれない。

カトレアはそう判断した。

周りと背後にはネーア聖騎士団が揃っている。

現団長、エスメラルダ、旧団長は不在。

しかし十分、彼女らも腕に覚えがある者たちである。

突撃の準備も整ったようだ。

一部ではすでに、こちらへ向かってくる聖体との戦いが始まっている。

「それでは、わたくしたちも……」

カトレアは馬の腹を蹴り、前へ進む。

「行きますわよっ」

彼女の背後や、その少し離れた東西の先。

そこでは他国の軍も戦闘準備を終え、すでに動き出している。

ポラリー公爵率いるアライオン軍。

ヨヨ・オルド率いるミラ軍。

彼女は体調が優れないらしい。

しかし周りの制止を無視し、

『陛下もチェスターも、高齢者だからって気を遣いすぎだ。つーか、この歳になるともう体調がいい日の方が少ないもんさ。慣れてるんだよ、体調不良なんてね。ふん……何より皇帝と次期当主があの先で命を賭けて戦ってんだ。ここで働かなくて、何が選帝三家だって話さ』

そう言って、ミラ軍の指揮官として出てきた。

一方ウルザ軍は、

『おれは戦えねぇから、ほぼ置物にしかならないと言ったんだが……ウルザのやつらから”あなたはウルザの象徴でもあります! どうか!”なんて乞われて、士気向上目的の指揮官に据えられちまった……ま、やるからにはやるがね。あの先で命賭けてがんばってる連中のやつらの役に立てるなら、な』

竜殺しに指揮を頼んだらしい。

最果ての国軍は、ハーピーのグラトラが指揮している。

魔物や亜人たちは各軍にまざり支援をするようだ。

ドドドドッ、と馬蹄の音を鳴らし聖体の群れに迫る。

カトレアは空を見上げた。

最果ての国軍のハーピーの他に――

黒い竜たちが、飛んでいる。

バクオスの黒竜騎士団。

(今でも不思議な感じがしますわね……我がネーアを滅ぼした国の竜の騎士団と、今は助け合い……こうして共に、戦っている……)

なぜだろうか。

世界の命運がかかった戦いのさなかのはずなのに。

奇妙なことに、その胸の内には何か爽やかなものがある。

カトレアはそれから少し視線を下げ、

(そして――あなたは……)

遠くに望む王城を見据え、

(勝って、無事に帰ってきなさい―― あ(・) の(・) 男(・) と(・) 一(・) 緒(・) に(・) っ(・) )

カトレアは笑みを浮かべると、王城に目をとめたまま、声を張り上げた。

「でなければ――許しませんわよ、セラス!」

それは。

見た者がどこか、爽快さすら覚える笑みであった。

突然、女王の口から発せられた言葉。

しかし周りの聖騎士たちも特に不思議とは思わなかったようだ。

彼女たちもよく知っているからだろう。

ハイエルフの姫騎士に対するネーアの女王の思いを。

いや――”カトレア姫”としての、強い思いを。

これからまさに激しい戦いが始まるというのに。

女王を守る周りの聖騎士たちの口には、微笑みが溜まっていた。

カトレアが剣先で、前方の聖体の集団を示す。

「まずは、手始めにあそこを蹴散らしますわ! 第一陣、突撃ぃい――――――ッ!」

◇【女神ヴィシス】◇

「…………」

城内とその周囲の騒がしさが、増してきた。

想定より規模は小さいが。

起動した分の聖体は一応、地上に放たれているようだ。

しかしこの気配の増え方……。

聖体だけではない。

……なるほど。

一回目の音玉。

あれは未合流の仲間に送った合図。

そして、二回目の音玉。

おそらくそちらは……

合流済みの、その合図まで待機させていた仲間へのもの。

駒が揃った時――いよいよ何か、仕掛けてくるつもりか。

ヴィシスの腕刃が、アヤカの腕に裂傷を走らせる。

(他の敵が合流する前に決めてしまいたいが――)

思いのほか、アヤカが粘る。

深い傷には至らないが。

今は、ヴィシスの方がアヤカに対し優勢に転じていた。

どこまでも邪魔くさい――ゲロガキ。

「!」

新たな敵が、この中庭に姿を現した。

前期蠅王装。

仮面もしているため顔はわからない。

中身は、不明。

(自分以外でここにいる味方が、後期蠅王装の者とセラス……アヤカだけで、少し動揺しているようにも見えるが……)

あの中身は禁字族か?

ヴィシスは足の軸を動かし、前期蠅王装の方へ跳ぶ。

が、アヤカがそれを阻むように立ち塞がる。

刃をぶつけあった直後、一瞬でアヤカから距離を取る。

(……禁呪は打ってこなかった。打つ余裕がなかったか……あるいは、こいつは禁字族ではない? もしくは、ミモリだなんてことも……?)

そうだ。

先ほど感じた動揺も、演技かもしれない。

”最初に動揺していたやつだからヴィシスが意識から外す”

これを狙っているかもしれないのだ。

後ろに跳び、着地したヴィシス。

その後方では分身がセラスと戦っている。

分身の視界は確認できている――背後にも、目はある。

(禁呪は、紋持ちでなければ使えないはず……そして種としての変質がなければ、紋持ちは決して多くはない……だから紋持ちはいても一人か二人……多くともせいぜい、数人……)

ふっ、とヴィシスは微笑む。

忌々しい禁呪。

けれど。

だからこそ私は禁呪を――禁字族を、研究してきた。

時には捕らえた禁字族の人体まで使って。

中には――紋持ちもいた。

この私が何も考えていないと、思わないことだ。

ゲロカスども。

「…………」

やや前屈みの状態で、ヴィシスはアヤカとの間合いを測る。

にわかに近くが騒がしくなってきた。

戦いの音だ。

なるほど、と把握する。

(この場に聖体を近づかせまいと……ミモリの仲間どもが今、この周囲で必死に戦っているわけか)

決戦の邪魔はさせない、ということらしい。

そして――

前期蠅王装を身に纏った者たちが続々と、この場に姿を現した。

他に蠅王装を身につけていない者もいる。

おそらくあの蠅王装たちを守る役割を果たすのだろう。

(前期蠅王装……いくらか体格が不揃いではあるが、なるべくおまえに近い者を集めたようですねぇ……)

しかもトーカ・ミモリの体格など、うろ覚え。

召喚時は”学園の制服”という他と同じ格好のものを着ていた。

そしてミモリの姿は召喚から廃棄までのごく短い時間しか見ていない。

また、神徒の視界から見た時は後期蠅王装で身を包んでいた。

あのゆったりした装束なら、体格を隠せる。

(ち……しかも微妙に前期蠅王装をいじって、身体つき……胸の 凹凸(おうとつ) ですら男女か否かを判別できなくしてやがる……)

胸は布を巻いて潰し、目立たなくする方法だってある。

ヴィシスは――ステータスの強制表示を行った。

アヤカのステータスウィンドウが強制表示される。

しかし…… 集(つど) ってきた前期蠅王装の中に、勇者はいない。

(やはりミモリはなんらかの方法でステータスウィンドウが表示されないよう、小細工をしている……と、そう見ておくべきだろう)

ステータスウィンドウの有無で後期蠅王装の中身の確定はできない。

ただ、アヤカのウィンドウは表示されている。

要するにアヤカは、未合流組だったと思われる。

多分この場で合流したのだ。

だから、ウィンドウを隠す小細工を施せなかった。

(つまり……合流済みだった仲間の中に、その小細工をやれるやつがいた)

やはりロキエラだろうか?

まあ……一人限定でしか小細工を施せない可能性も、なくはないが。

(……それと)

すでにまともな戦闘ができる状態にはなかったようだが、

(タカオ姉妹……)

ヲールムガンド戦の時は、あの姉妹の姿もなかった。

ならばアヤカと同じく未合流だったと思われる。

少なくとも姉の方は、まだいくらか戦力として使えるだろう。

合流していたならヲールムガンド戦で使わない手はない。

だから、未合流だったと考えていい。

そして小細工なしなら、ここでウィンドウが表示されるはず。

つまり――今いる前期蠅王装の中に、姉妹はいない。

(もちろんどこかで邪魔をしてくることも十分、考えておくべきだろう……)

というか、

(二回目の音玉を使う機の決定権があった点から、後期蠅王装の中身はミモリでほぼ確定かと思ったが……)

この前期蠅王装の中にミモリがいる可能性もあるのだ。

いや……。

二回目の音玉使用の件も本体確定の証拠としては、やや弱い。

ある程度の決めごとがあれば誰でもやれることだ。

それに、ミモリだけではない。

(むしろ…… そ(・) ち(・) ら(・) の(・) 可(・) 能(・) 性(・) の(・) 方(・) が(・) 、 高(・) い(・) か(・) )

そう……

この前期蠅王装の中に、あの銀髪の禁字族がまじっている可能性――――

「……………………いいだろう」

ヴィシスは……静かに、構えを深くした。

「受けて、立ってやる」

女神討伐戦――――――

決着の 刻(とき) が、迫ろうしていた。