軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして受け継がれるもの

女王の間には様々な顔ぶれが集まっていた。

安の他に、リンジとオウルの姿もある。

『トモヒロはともかく……おれとオウルはちょいと場違いじゃねぇか?』

リンジはそう疑問を口にしていた。

しかしそれを聞き咎めたリリが、

『昔、手練れ揃いで評判だった元剣虎団の顔ぶれが集まってる……で、それをまとめてるのがリンジさんでしょ? 現剣虎団のあたしらがここにいるなら、元剣虎団をまとめてるリンジさんがこの場にいても、おかしくはないですよ』

最終的には、

”女王が出席を認めているのだからいいのでは?”

との結論に着地した。

さて――軍議も、いわゆる詰めの段階にきていた。

”聖体軍が迫っている”

皆が囲む卓上には、この戦いに必要な地図などが散乱している。

聖女キュリアが言った。

「最終確認だ。このアッジズへの主な進入口は二つ。東門と南門。聖眼があるこの城は第一、第二、最終守護壁の三つの壁に囲われている。要するに……最終守護壁を突破され、敵がこの城に突入し聖眼を停止させられたら敗北……こういうことになる」

ルハイトが尋ねた。

「確認になりますが……聖眼に限っては、投石機などの壁を越えてくる遠距離攻撃を気にしなくてよいのですね?」

「ああ、問題ない。聖眼は透明な守護膜に覆われている。過去、どのような攻撃もあの守護膜を破壊することはできなかった。つまり聖眼に触れるには、この城内を通過しなければならない」

なるほど、と安は納得した。

聖眼は無防備な状態で晒されているように見えた。

が、見えないバリアのようなものがあるらしい。

白狼王が低く唸り、

「聖眼でなくこの王都の方だが……先の大侵攻では、どの守護壁も損壊していない。強固な壁とは聞いていたが、守護壁の方もそれほどとはな。聖眼と同じく、投石機や巨大魔導具による破壊を気にしなくていいのは助かる」

あの守護壁は、聖眼の初起動時に地中から”現れた”ものだそうだ。

今のアッジズは長い時を経てあの守護壁に合わせ、城や区画を変化させてきた。

聖眼の意思なのか、地下道や下水道も”都合よく”確保できているとか。

キュリアが皆の方へ真っ直ぐな視線を向け、

「しかし……聖眼への直接攻撃は無意味でも、守護壁がいかに強固でも、投石機の攻撃は壁を越えてはくる。当然、壁の内側にいる者たちに被害は出る。また、通常の攻城戦と同じく、攻城塔を用いれば壁を越えて敵は侵入はしてくる。いや……巨大な聖体がいて、それがそのまま聖体を”担いで”運んでくるかもしれない。あるいは……」

記憶を探る目をし、キュリアが続ける。

「あの大侵攻の時に手を焼いた大魔帝軍の側近級……ドライクーヴァのような聖体がいないとも、限らない」

ドライクーヴァは短距離転移能力を持っていた。

転移で守護壁を易々”跳び抜け”てきたという。

その奇襲によって、守護壁を内側から開放されてしまった。

ゆえにアッジズ側は甚大な被害を受けた。

「最終的には城の手前まで侵入を許し、最後の手段である聖騎兵で対応するしかなかった――それでも、アサギ・イクサバの案を採用してのギリギリの勝利だったがな」

アサギの名が出ると、女王が苦い顔をした。

一方でリリは懐かしむ風に、

「アサギかぁ……あとで聞いたけど、そういや少し前まであたしらと同じミラの帝都にいたみたいなんだよなぁ。けどミラじゃ会ってないから、結局、このアッジズで別れて以降は一度も会ってないわけか。訓練は素直に受けてたけど……なんというか、いまいちつかみどころのない子だったな」

他にも剣虎団の一人が懐かしむ顔になり、

「そういえばコバトちゃん、元気かしらねぇ? あの子、あの班にいるのが不思議なくらい素直でいい子だったけど」

(浅葱さん……鹿島さん……)

大侵攻の際、西軍の浅葱グループは剣虎団と共にヨナトで戦った。

(色んなところで、色んな人が出会って……つながってる……)

ルハイトが、キュリアに問いを投げた。

「門はありませんが、北や西の守護壁から侵入される可能性は?」

「ないとは言えまい。ある程度、その方角にも戦力は置くつもりだ。しかし――本命の守りはやはり、門のある東と南になるだろう」

守護壁――城壁は絶対的な防御力を誇る。

が、門は城壁ほどではない。

破城槌などで破られる恐れは、当然ある。

「そして、聖体軍の主力を正面から受け止めるのは東の門だと思われる。ゆえにこちらも最初、主力は東に集める。次に南門――残りを、北と西の城壁に回す」

そのまま、話は戦力の配分に移った。

「南門はミラ軍を中心とし、指揮はルハイト・ミラが受け持つ。そこに、元アライオン十三騎兵隊の第九騎兵隊が加わる」

アライオン十三騎兵隊。

安は最初その名を聞き、身の竦む思いにとらわれた。

が、事情を聞くと”あの騎兵隊”とは違うようだ。

軍議の場にも、第九騎兵隊の隊長と副長は参加している。

確かに――あの騎兵隊とは”違う”感じの人たちに見えた。

「東には、白狼王率いる両騎士団とマグナル軍、剣虎団、元剣虎団――そして、異界の勇者がつく」

皆の視線が安へと向く。

身がこわばるのを覚えつつ、安はぎこちない会釈を返した。

それでも――

隣にリンジがいてくれるおかげか、少し気持ちは楽だった。

そしてヨナトの女王が話し出すと、皆の視線はそちらへと戻った。

「我がヨナトの殲滅聖勢は、奇襲への備えも含めた城内の最終防衛を担いつつ、西と北の城壁を受け持つわ。また、戦況を見ながら戦力の足りない方面へ殲滅聖勢を振り分けます」

左右にアートライト姉妹が控える白狼王が、

「南門は大丈夫か……? ミラは主力の大半をアライオン方面へやっているのだろう? つまり、今ここにいるミラ軍は予備として王都に残っていた程度の戦力……しかも、その一部は国境近くの避難民を守るためそこへ残してきた。元十三騎兵隊とはいえ、いち騎兵隊がそこに加わった程度では、戦力に不安が残りそうだが」

白狼王はそう言ってから、マグナル軍を少し南に回す提案をした。

先ほど話題に出た国境近くに集まった避難民。

彼らはその大半がマグナルの民である。

ミラはその避難民を守るために戦力を割いた。

白狼王はそこを申し訳なく思い、今の提案をしたのかもしれない。

が、

”最も激戦になると思われる東門方面から戦力を割くのは避けるべきだろう”

こういった意見が、多数を占めた。

「それですが――」

機を見計らった風に、ルハイトが切り出した。

「行軍中、最果ての国から軍魔鳩が届きまして」

過去に会談の機会を持った際、最果ての国に軍魔鳩を渡しておいたそうだ。

「最果ての国を束ねる不死王が、予備戦力として残っていた竜煌兵団……いえ、戦える者すべてを率いて参戦してくれるそうです。現在、こちらへ向かっているかと」

「ふむ、最果ての国か」

「ただ、最果ての国も主力はアライオン方面へ向かったとのことです」

「いや――少しでも味方が増えるなら、ありがたくはある……」

(最果ての国……)

思い出す。

いや、忘れるはずなんかない。

あの時、自分を治療してくれたのも彼らだった。

竜煌兵団。

もしかしたら。

自分を治療してくれたあの竜人も、いるかもしれない。

(ここでも……)

つながっていく。

ちなみに。

ルハイトとは、彼の到着後に少し言葉を交わしていた。

”黒炎の勇者がいるなら話したい”

彼の方からそう言って接触してきた。

”安智弘の動向がわかったら軍魔鳩を飛ばし、蠅王に伝える”

蠅王と、そう約束していたのだとか。

ついでに情報を増やすため、安の近況を聞こうと思ったのだという。

軍議の方では――白狼王が、渋面を作っていた。

「それでも正直……先の大魔帝軍との戦いの疲弊で、こちらの戦力が心許ないのは事実。しかし……といって、おとなしくヴィシスにやられるつもりもない。そうだな?」

「ええ」

ヨナトの女王が、力強く頷く。

「それに……絶望的とも言い切れないのは――事態の解決へ向けて 別(・) に(・) 動(・) い(・) て(・) い(・) る(・) 戦(・) 力(・) が(・) い(・) る(・) こと」

「そうだな。狂美帝の率いるミラ軍、蠅王ノ戦団、最強の勇者アヤカ・ソゴウ――ヴィシス討伐のためアライオンに向かった別の戦力がいる。例の神徒……追放帝とやらの話が事実なら、ヴィシスが討たれればここへ向かっている聖体も消滅するはずだ。確かに……彼らの存在は、今の我々にとって希望と言っていい」

そうして軍議は進み、あとは聖体軍の到達を待ち構えるだけとなった。

一度、解散の空気になる。

リリが近寄ってきて、リンジと会話を始めた。

するとそこに近づいてきたのは、

「少し、よいか?」

白狼王だった。

彼の横にはディアリスが控えている。

話しかけられたのは、リリだった。

白狼王は一国の王を前に跪こうとするリリを制し、

「ディアリスから聞いたのだが……亡き弟ソギュードの忘れ形見とも言える、神魔剣ストームキャリバー……そなたが、次の使い手として選ばれたそうだな?」

「あ、はい……どうやら、そのようで」

さすがに王を前にしているからか。

リリも恐縮している。

大柄なのもあるが、白狼王にはいかにもな”王様”の風格がある。

ディアリスが腹部に手を添え、微笑した。

「もう一つのソギュードの忘れ形見であるこの子を宿した私が、その剣に選ばれるかもしれない……そんな期待はしたものの、私に応えてはくれませんでした」

ストームキャリバーは”回収された”のだという。

ソギュード・シグムスと、白狼騎士団が全滅させられた地から。

そして――ここで安は、白狼王の口から驚愕の事実を知る。

白狼騎士団を全滅させたのはなんと―― 桐(・) 原(・) 拓(・) 斗(・) 。

(桐原君が……?)

しかも彼は現在、死体となってミラの帝都にいるという。

桐原拓斗の死。

これは、安智弘を大いに動揺させた。

あの桐原拓斗が――死んだ。

一体、何があったのだろう?

そして、なぜ彼は白狼王の弟を殺したのだろう?

けれど。

話ぶりを聞く限り、白狼王も死の理由の詳細までは知らないようだ。

衝撃を受ける安をよそに、会話は続いている。

気まずそうに、リリが謝った。

「あ、なんというか――使い手があたしで、すみません……」

ディアリスは気遣いの微笑みをみせ、

「いえいえ、こちらこそ含みのある言い方に聞こえたならすみません。この前も言いましたが、むしろ一時代に使い手が一人いればよいとされる神魔剣……この局面で同時代に他の使い手が見つかったのは、喜ばしいことです」

それでもリリは微妙に気まずさを引きずり、

「お亡くなりになった王弟殿下はあたしと縁もゆかりもないはずなので……あたしもどうして自分なのか、さっぱり……」

「私たちにも理解の及ばぬ……何か、運命のようなものがあるのかもしれません。きっと、神のみぞ知る巡り合わせなのでしょう」

「ここでソギュード以外の使い手が現れたのを、おれは嬉しく思っている」

と、白狼王が割って入った。

「この戦いを……あいつと共に戦えるようで、な」

王の言葉に、ディアリスはどこか寂しげに目もとを緩めた。

それからリリに「ただし」と忠告した。

「こちらもこの前言った通りですが、その剣の使用には注意してください。強力な力を持った剣ではありますが……味方が近くにいる場合、味方にも被害を及ぼしかねないこと……そして、使用が長引けば正気を失っていきかねないこと。この二点があったために、その剣はソギュードも滅多に使おうとはしませんでした」

「わかりました」

そこで、ディアリスが何か思い出した顔をした。

「そういえば……一時代に使い手が一人いればよいといえば、例の詠唱専用の魔導具……軍魔鳩が”スマホ”と共に運んできた” 白壁雑音(ホワイトノイズ) ”という詠唱専用の魔導具には、キュリアが選ばれたんでしたね。アライオンに向かったあちら側では、使い手が見つからなかったとか」

「聞けば、蠅王が旅の途中でくだしたヴィシスの配下――勇の剣の一人から入手したものだそうですね」

言ったのは、いつの間にかディアリスの後ろに控えていたシシリー。

感じ入る顔になる白狼王。

「使い手を失った神魔剣と詠唱呪文の魔導具に新しく選ばれた者が、この短期間でどちらも揃うとはな……そこに加え、上位認定を受けた異界の勇者の合流……」

白狼王が、安を見た。

「これらが――何かのよい兆しと、信じたいところだな」

聖体軍を迎え撃つ準備がすべて整った、その日。

国境を越えた最果ての国の援軍が、王都アッジズの近くまで来ているとの報告が入った。

同刻――――――――アッジズ壁上より、迫る聖体軍を確認。

目視できるところまで聖体の大軍が迫ると、東門の壁上の空気は一変した。

壁上では安智弘も、その光景を見ていた。

砂まじりの微風が安の頬を撫で、通り過ぎる。

一歩前へ出て安の隣に並び、リンジが言った。

「いよいよだ」