軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高雄樹

◇【ヨミビト】◇

イツキタカオは,、脅威に 非(あら) ず。

その”異変”がイツキに起こるまで、ヨミビトはそう分析し戦っていた。

この姉妹の要はヒジリタカオの方にある。

そう確信したためだ。

ヒジリの方を殺せば終わる。

二人とも、斬り殺せる。

一方で、こうも感じていた。

――天晴れ 也(なり) 、ヒジリタカオ。

あれだけの傷を受けながら表情がほとんど変わらない。

ここはヴィシスの情報通りでもあった。

かつてヴィシスと戦った時、ヒジリは重い傷を負った。

が、表情が変わらなかった――ヴィシスはそう語った。

”何も感じていないように見えた”

”スキルか何かで痛みに反応せぬよう細工していたに違いない”

ヴィシスの分析――誤と判断。

経験則――ヴィシスの情報は、信頼性に欠く。

ヒジリは、決して痛みを覚えていないわけではない。

ヨミビトは目がよい。

これは、視力だけの話ではない。

ある種の洞察力も含まれる。

刀傷を負うたび、ほんのわずかだがヒジリには反応があった。

痛覚がある以上、人はそれを完全には無視できぬ造りになっている。

痛みとは本能――”命の危険”を警告する知らせだからだ。

一方、神徒となって以後のヨミビトには痛覚が存在しない。

ゆえに代替として発達した――危機察知能力。

つい先ほど不可視の刃で耳の端が裂けたヒジリを、つぶさに観察する。

刃で裂けた際、反応していた。

反応、してしまうのだ。

強靱な精神力の持ち主であっても例外はない。

しかしこの反応がヒジリの場合、驚くほど微弱なのである。

あれではヴィシスが気づかなかったのも無理からぬこと。

つまり――ヒジリはその意志や精神が、尋常ならざる領域にある。

言い換えれば、過剰に我慢強い。

抑制的なのだ――とても。

だが痛みを覚える以上、ほんの一瞬であれその動きは鈍る。

本人が捨て身の攻撃を仕掛けようとしても。

本能が命の危機を察知し、後退の指令を出す。

意思よりも本能が優先される。

ゆえにヨミビトはヒジリの攻撃を”読める”。

ヒジリは何も反応を見せていない――そう思っている。

が、こちらは視えている。

微弱な反応をよく見て捉え、そこを算段に入れて動いている。

余裕をもって、合わせられる。

だというのに……

――見事 也(なり) 、ヒジリタカオ。

事ここに至っても、まだヒジリは諦めていない。

それがわかる。

指を二本失おうと、静かなその戦意はまるで減じていない。

どころか、妹を気遣ってすらいる。

今も必死に次の一手を探ろうとしている。

その無比なる精神力たるや――

なれば、最期の時まで見届けねばならぬ。

手は決して抜かぬ。

その類い 希(まれ) なる精神力に敬意を表し――

我もこの戦いに、死力を尽そうではないか。

――ア、とても眩シい。

アァ素晴らシきかな、あの命の輝キ……。

ヒジリの刃傷が増えてゆく。

が、致命傷は紙一重で避けている。

しかも失血を防ぐべく、傷口を焼きながら戦っている。

焼く際にもその沈着な表情は苦悶には至らぬらしい。

短い悲鳴すら上げぬ。

揺らがぬ。

まさに――もののふ。

その時だった。

”大好き”

と。

妹に向かってヒジリが、そう口走った、

言葉と共に発された強固な覚悟。

言霊のようにそれは、ヨミビトの中を駆け抜けた。

諦めてはおらぬのに――

ここを死地と、決したか。

よかろう。

ならばその覚悟、全力をもって斬り捨て――

「 【 始號(カウント) ・ 雷人(ゼロ) 】 」

刹那――

危機察知能力が、ほぼ全力で も(・) う(・) 一(・) 人(・) への警鐘を鳴らした。

突如として、もう一人のタカオが”化けた”らしい。

そう――己にとっての脅威に。

本能が 爛々(らんらん) とそう告げている。

何が起こったのかヨミビトも理解はできなかった。

両手両足に雷撃のかたまりを纏わせたイツキが、迫る。

イツキは――泣いていた。

「姉貴! スキル――スキルが、進化した! やれる――アタシまだ、やれるがら! ぐすっ……やる、やるよ! やる、から!」

纏う雷撃の重圧感が、これまでの比ではない。

「……――、……、――……」

イツキのステータスは、表示されたままになっていた。

ヴィシスの神徒であるヨミビトには勇者のステータスが視える。

先ほどヒジリに注意を割きつつ、イツキの妖力は確認した。

妖力――エムピーが、減っていない。

あの新たな姿はエムピーを消費しないのか?

これは……戸惑い?

あァ……

なんて――――――――なんて、眩シくて。

本能が。

今のイツキは優先すべき危機であると、判じた。

ヨミビトは再び、戦いへと赴く。

戸惑いを切り裂き、己も確かなもののふとして受けて立つ。

この敵を、討つ。

ヒジリへの警戒も怠らない。

諦めていなかった以上、まだ何かしてくるやもしれぬ。

危機察知能力はイツキに大きく振り分けられているが――

ヨミビトの目は、常に、視界の端にヒジリを捉えている。

「……――、……、――……」

片や、

「絶対に倒す! こいつを倒す! アタシ、まだ姉貴と一緒にやりたいごどがバカみたいに――あるから! 助けてもらってばっかだったからッ……今度はアタシがッ――アタシが、姉貴を助ける! 全部終わらせて、絶対に姉貴と一緒に帰る! 一緒にだ! 一緒じゃなきゃ、絶対ヤだから!」

「樹……」

無駄口――しゃべる、ということは。

限られた容量を幾分そこに割く、ということ。

感情的になる、ということは。

危機察知能力を鈍らせる、ということ。

にもかかわらず。

むしろ――速度が、上がっている。

重圧が増している。

これまでわずかに見え隠れしていた隙も、塞がれていく。

理解不能。

イツキが、斬撃をくぐり抜けてきた。

迎撃――否、 危(・) 険(・) 。

ヨミビトは距離を取ろうと自らの動きを調整するも、

ドゴォッ!

圧縮された雷撃のこぶしに手甲が、砕かれた。

”ごっそり削り取られた”

そう言っても、よいかもしれない。

四本腕のうち三本はイツキの対処へ回している。

できるならすべての腕を使いたい。

しかし、ヒジリへの警戒を完全に解くのは危険に思えた。

腕一本は、ヒジリの方へ残しておきたい。

そこでヨミビトは、この局面にきて硬力の移動を試みた。

初めての試み。

元来、これはヲールムガンドの業である。

あれは便利な業と思っていた。

けれど、ヨミビトがやれたことは一度もない。

が、やれなければここで敗北の二文字を刻むかもしれぬのだ。

やるしかない。

ヨミビトは――他から硬度を一カ所に集め、イツキの雷撃打を受け止めた。

や(・) れ(・) た(・) 。

――ビリリッ――

「……――、ッ!?、――……」

受け止めるのには成功したが。

雷撃が内部――核にまで、通電してきた。

これまでの戦いではなかった感覚がヨミビトを襲う。

具合が微妙に、悪くなった……?

吐き気がする――、……吐き気?

果たして、それはいつぶりの感覚だっただろうか。

今まで受けた攻撃ではそんなことはなかった。

が、あれを食らい続けるとまずい。

外殻の中で逃げ場もなく、どんどん具合が悪くなっていく……。

まずい――ではなく。

嫌だ、と思った。

いよいよヨミビトは、イツキを 嫌気(けんき) してゆく。

しかしやはりここでも――ヒジリへの警戒は、外さず。

ヒジリにはまだあの【グングニル】が残っている。

捨て置くなど――愚昧の極み。

が、

「姉貴! よくわかんないけどMPが減らないみたいだ! だから――ここで決める! ア(・) タ(・) シ(・) が(・) こ(・) い(・) つ(・) を(・) 倒(・) す(・) ! 倒しきってみせる!」

ヨミビトは、選択を迫られていた。

攻めに転じられない。

まさかイツキがこれほどの戦才の持ち主とは思わなかった。

完全に、想像の埒外。

この強さはおそらくスキルのみにあらず。

ヨミビトは、そう判断する。

元々開花しきっていなかった戦才。

この局面でそれが完全覚醒し、狂い咲きを遂げたか。

純粋な闘争に限ればヒジリを遥かに凌駕しているだろう。

ここまで斬撃が当たらないとは思わなかった。

少し前までとは、まるで別人。

が、このような局面にあっても――

ヨミビト、ヒジリへの警戒を完全には緩めず。

それは。

先ほどの連係が、何度も脳裏に再現されるからであった。

おそらく【グングニル】をとどめとして使用してくる。

あるいは【グングニル】で核を露出させ、イツキが【始號】とやらで決める。

現状、こちらは攻めに転じられないだけの話である。

防戦に回りさえすれば現状は維持できる。

否――むしろそれがあちらの狙いか?

時間を稼ぎ、何かを待っているとしたら?

やはり【グングニル】再使用までの時間稼ぎと考えるべきか……。

ヒジリが口にした再使用時間を、ヨミビトは鵜呑みにしていない。

いつ使ってきてもおかしくない――そう思っている。

それでも――

――ビリリッ――

炸裂音めいた激しい稲光を纏ったイツキの猛攻。

威力、

速度、

感性。

そのどれもが尋常でない領域へと突入している。

その姿はまるで、命を燃料として動いているかのようでもある。

今のイツキには、そのような凄みがあった。

この姉妹は。

どちらかのために。

どちらともが――賭けられるのか。

己が、命を。

イツキの絶え間ない必殺級の雷攻が、その苛烈さを増幅させる。

そして――

ドゴォッ!

ついに。

その時が、来た。

斬撃をかいくぐりヨミビトの懐へと潜り込んだイツキ。

二匹の終の雷虎を呼ばずとも。

始まりの雷鳥による、たった一撃にて――

腹を覆う外殻が破壊され、核が、露出した。

ま(・) ず(・) い(・) 。

命の危機を覚え、ヨミビトの生存本能が総動員される。

が、目の方はしかと今もヒジリを捉えている。

否――

違う!

イツキはこのまま自らの手で核を破壊できる……ッ!

しまった。

ヒ(・) ジ(・) リ(・) の(・) 方(・) を(・) 警(・) 戒(・) し(・) す(・) ぎ(・) た(・) 。

イツキにすべてを割くべきだったのだ。

間に合うのか――否――間に、合わない。

――――――――あァ、こんなにも――眩シくて。

ここにきて、ヨミビト。

よもやの――

再びの、進化の気配を 発(・) 露(・) 。

脅威たるイツキタカオから、全身全霊で己が命を守るべく――

今、

その予兆が、

始まろうと、していた。

ズブッ

「……――、?、――……」

外殻の脇腹――やや斜め後ろの辺り。

どちらかと言えば、背中に近い側。

何かが核に、触れている。

これは――手?

急変。

危機察知能力が――本能が。

しまった、と。

拍動を、はじめる。

しかし――なぜ?

なぜおまえが、そこにいる。

なぜ、そこにいて――

核(・) に(・) 触(・) れ(・) て(・) い(・) る(・) ?

外殻は?

そちらの外殻は一体……いつ、破壊された?

危機察知は?

イツキの方に振っていたから働かなかった?

けれど――視ていたはずだ。

確かに、視ていたはずなのに。

なぜ、外された?

機(タイミング) を。

ありえ、な――

「【グング――」

ヨミビトの進化の予兆は、対イツキのみを想定して起きようとしていた。

つまり進化の起点は今回、対ヒジリをまったく想定に置いていない。

しかし現在、生存本能は急激にヒジリの方へと引っ張られてしまった。

これによりヨミビトは進化の”起点”を喪失――

機を外され、その”起点”は行き場を失ってしまった。

輝く瞬間を、失った。

ヨミビト、その進化……

始まりの雷鳥ではなく――――

かつて女神に牙を剥きし神槍の使い手をもって、 不成(ならず) とす。

◇【高雄聖】◇

ヴィシスとヨミビトが共有している情報について、高雄聖は考えていた。

やはり過去の戦いの情報は共有している可能性が高い。

高雄聖が死んでいるとしてもあの女神なら語るのではないか?

哀れな反逆者をはね除け、最後には毒で殺すまでの”武勇伝”を。

ヨミビトの目がいいのは戦いの中で確信を得た。

視野も驚くほど広い。

樹と挟み撃ちの形で動いていた理由。

まず、この視野の広さを確認するためだった。

一方で視界に捉えきれない部分への反応――対処も確認された。

そちらはおそらく、気配や危機を感覚的に察知して反応している。

目のよさ。

危機察知能力。

ヨミビトはこの二つを備えている。

聖はまず、そう前提条件を作った。

これらを利用して空隙を作れないだろうか?

聖は思考を回転させた。

そして一つ気づく。

思った以上に、ヨミビトの動きが精確であることに。

精確さとは、逆にそれが乱れた時に隙を生みやすい。

では、どうやって乱れさせればよいか?

”目がいい”

これは視力や視野に限った表現だけではない。

対応能力からして、観察力や洞察力も優れている。

逆に言えば、視界から”情報を注ぎ込める”ということでもある。

こうして聖は、傷を負うたびにごく微弱な反応をしてみせた。

傷を負う”予兆”は周囲に纏った風の流れが教えてくれる。

そして傷を負うたび、微弱な”痛み”の反応をしてみせた。

ヨミビトは、狙い通りこれに気づいた様子だった。

痛みに対する反応は完全には消せない。

恐怖を克服できても身体の方は反応してしまう。

痛覚がある以上、これは仕方のないことであり――絶対である。

聖もこれは承知していた。

ヴィシスと戦った時も痛みを覚えていなかったわけではない。

耐えていただけだ。

痛みがあれば、どうやってもその反応を完全には消すことはできない。

が、もし――

そ(・) の(・) 痛(・) 覚(・) が(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) な(・) ら(・) 。

聖が見せていた反応が、偽物であったなら。

しかし、では何をもってそれを可能とするのか?

補正値のHPは痛みを和らげる効果があるとされる。

けれど、それでも完全に反応を消すには至らない。

では何がそれを可能としたか?

それは――

”複数対象の能力強化と、単体対象への能力弱化”

”触れた相手のステータスを自らと同値まで引きずり降ろす能力”

上記は、戦場浅葱の固有スキルの能力である。

そして彼女の固有スキルの能力は、実は、もう一つある。

過去に起きた大魔帝軍による大侵攻の時。

ヨナトの王都防衛戦が終わったあとのこと……。

そう、その際に戦場浅葱がヨナトの負傷者に使用したという――

【 痛覚遮断(クイーンビー) 】

聖はこの話を聞いており、突入前、浅葱にこれを付与してもらっていた。

『聖たんからのこの協力要請は、あっしを信じてもらう証と受け取ってもよいのかにゃーん?』

『三森君が突入メンバーに入れると決めた以上、信じるしかないわね。だったら使えるものは使わせてもらう――どうかしら?』

『効果時間が切れる前に気まぐれで解除しちゃうかもよん?』

『その時はその時ね。まあ、嫌ならしなくてもいいけれど。お互いがんばりましょう。それじゃあ』

『いやいや、どこぞのスピードなワゴンさんみたくそうクールに去らんでくださいよぅ。じゃあさぁ、一つ質問してよい? 浅葱、ご褒美くらいほしいですのニャ!』

『どうぞ』

『聖ちゃん、恋愛的に男の選択肢ってあんの?』

『別に、あるわよ』

『あ、そうなんだ。へー』

『……ここでその質問? 変なことを聞くのね。質問の仕方も、まるでもう一方の性別にしか興味がないみたいな仕方だったし』

『だって聖パイセン、キャラ的におねーさまじゃんかー』

『? 双子だけど、元から私は一応お姉さんよ? あと、パイセンって何?』

『…………おねーさんさ、実はビミョーに天然なとこありマス? アタシ、微妙にキャラ読み違えてマシタ? えーマジかー……パーフェクトかと思ったら、存外こっち属性あったのかよー……マジでぇ~?』

天然扱いされたのは、ともかく。

付与はしてくれた。

そう、ゆえに――

実(・) は(・) 聖(・) は(・) 、 痛(・) み(・) を(・) 感(・) じ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) 。

周囲に発生させていた風を聴き、気配を察知し、 反(・) 応(・) を(・) 作(・) り(・) 出(・) し(・) て(・) い(・) た(・) だ(・) け(・) 。

単純に言えば――演技。

痛みを感じたフリをしていた。

これは、恐ろしく神経を磨り減らす作業でもあった。

回避できる斬撃を、

”反応を合わせられる”

そう感じた時だけわざと致命傷を避けて皮膚を斬らせ、反応する。

指を斬られた時はさすがに肝が冷えた。

想定外だったため、

”反応が遅れてはいけない”

少し、焦りが出た。

が、どうにか痛みの反応を合わせるのに成功したらしい。

ヨミビトの様子を見る限り、無痛状態は露見しなかったとみえる。

攻撃は、思うより躱しやすかった。

周囲に纏った風が刃の軌道と射程を教えてくれた。

もちろん余裕だったかといえば、そんなこともなく。

ギリギリでは、あったけれど。

ちなみに長剣でヨミビトの刀と打ち合った時。

あの時は痺れがあった――らしい。

感覚は痺れを”痛み”と判断したようだ。

だからあの時、手の痙攣状態から”痺れている”と判断した。

そして聖は最後の一撃を放つ時、この”嘘の反応”をやめた。

ヨミビトはこの痛みによる反応を加味し、動きを組み立てていた。

これによって、精確な対処ができていた。

だから乱した。

くるべき場所で、くるべき反応がこない。

聖が最後の一撃のため動き出す、その最初の”起こり”の一瞬――

一撃を入れれば”痛み”によって、ほんのわずか高雄聖の動きが鈍る。

それは、わずかな傷でもいい。

”それで一瞬だけ、聖の到達は遅らせられる”

”十分、間に合う”

ヨミビトは、そう考えたに違いない。

聖の攻撃がヨミビトに届くのが、わずかに遅くなる。

であるからして――

聖への対処は、十分間に合う。

今はそれより高雄樹の方だ、と。

おそらくヨミビトはそんな判断を下し――

タイミングを、見誤った。

そう、発生させてしまったのだ。

聖を”致命的位置”にまで接近させる、ほんのわずかな意識の空隙を。

さて、ヨミビトの外殻はどのようにして破壊されたのか?

これは、風刃をいわゆる錐のようにし腕一本突っ込める穴を空けた。

今までで、最大の速度で。

また”仕込み”として、すでにわずかながら外殻全体を風刃で削っておいた。

これらは危機察知能力で気づかれなかったのか?

これまでの戦いでヨミビトは風刃をずっとスルーしていた。

風刃による攻撃はずっと続けていたが、一顧だにしていなかった。

”どうせ外殻が多少削れようとすぐに再生できる”

”内部に到達するほどの威力もない”

戦闘中、ヨミビトは己の感覚をその方向へと調整していったはず。

本来いらぬものに意識を割くほど無意味なことはない。

ヨミビトはこの戦い、実に合理的に戦っているように映った。

”だから無意味なリソースは使わないはず”

聖はそう判断した。

狙い通り、次第にヨミビトの風刃そのものへの警戒は削がれていった。

”風刃は問題ではない”

外殻に感覚がないだろうことは、すでに戦闘中に確認済み。

熱さや寒さにも反応しなかった。

”ある段階以後は、戦闘中の反応からして意識すらしていない”

聖はその判断に至った。

ゆえに風刃で穴を空けられていても”風刃”を意識できなかった――

こう考えることができる。

もしヨミビトに回避の手があったとすれば――

思考し、至るべきだったのだ。

樹の【終號】が圧縮による攻撃力の強化を可能とした時点で――

聖の風刃も同じことができるのかもしれない、と。

他にも風刃以外の風雷などで、聖は同じことをしている。

が――風刃だけは、このために一度もそれをしなかった。

できない、と思わせるために。

ただし――これらのいくつかの要素は、聖の想像にすぎない。

これのみが突破口を開いたかどうかは、怪しい部分もある。

なぜなら樹のスキル進化後は――

危機察知能力のほとんどが、樹へ向けられていたはずだからである。

高雄樹の存在がこの戦いの決め手となったのは言うまでもない。

この戦いで想定外だったのはやはり樹のMP問題とスキル進化。

おそらく樹は途中で【終號】を二回放つMPがなくなった。

これは樹の視線と反応から推測できた。

この時。

聖はリスクを負い【終號】の一回分を自分が受け持つ覚悟を決めた。

樹を責める気はなかった。

MPを【壱號】による回避に多く割かねば、避けきれなかったのだろう。

そもそも土壇場での敵の突発的な進化など明らかな想定の範囲外。

が、その後に起こった樹のスキル進化である。

それが、戦いの流れを完全に一変させた。

いや――そのおかげで”この結果”へと到達できた。

さらに樹の覚醒により、あらゆる勝利の確率が上昇していった。

妹の動きを見て自分の読みは正しかったと、そう確信した。

思った通り樹の戦才は自分を遥かに上回っている。

三本の刀と共に樹はヨミビトの危機察知能力の大半も引き受けてくれた。

ヨミビトは、前回の連係攻撃をいやでも思い浮かべていただろう。

樹が破壊し空けた穴に【グングニル】を撃ち込んでくる、と。

あるいは順序を逆にしても同じ箇所へ連続攻撃を叩き込んでくる、と。

樹がもし覚醒していなければ、確かにそれしか手はなかった。

より困難な道のり――過程が待っていただろう。

命を落とすのも覚悟しなくてはならない、そんな結末が。

しかし樹が――双子の妹が。

新たな未来への過程を、開いてくれた。

ゆえにこの命を差し出すことを考えずとも――

私はこの一撃に、辿り着けた。

あなたの片割れとしてこの世に生まれ落ちた奇跡を、

私は、心から誇りに思う。

さあ――――――――我が唱えを以て、その敵を穿て。

「【グングニル】」