軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

突入

一番手は、十河綾香。

ベインウルフと十河が手短に言葉を交わしたあと、

「必ず……無事に戻ってきてね、十河さん」

周防カヤ子が十河に、とても心配そうに声をかけた。

……あの周防も、あんな顔もするようになったんだな。

「綾香ちゃん」

「委員長っ」

他の居残り組も十河に声をかけていく。

少し前に一応挨拶は各自済ませてある。

なので、正直一秒でも早く行って欲しい気もしなくはないが……。

ま、直前の気の持ち方が今後にとって重要って場合もあるからな。

俺は改めて辺りを見回した。

やはり聖体やヴィシスの手の者らしきヤツの姿は確認できない。

王都入り目前にやった前哨戦以外、ヴィシスは迷宮の外側に手駒を配置してないってことか。

「…………」

この迷宮。

ある種の”ズル”が使えるのではないか――と。

俺はそのことについて、ロキエラに確認を取っていた。

『入場者側の人数制限のことだが……まず、ヴィシスが迷宮の外に自分の手駒を100人以上待機させておくとするだろ? で、迷宮の発現直後……俺たちが王都へ到達する前にそいつらを迷宮に突入させておく。そうなると、すぐ人数制限いっぱいにできる気がするんだが……これをやられたら、俺たちはもう迷宮に入れず立ち往生するしかない。これは、どうなんだ?』

俺が尋ねると、ロキエラはこう説明した。

『おーキミもそこに思い至ったんだねぇ。実はね……同じことを考えた神族が過去にいたんだよ。でもそれは無理だった。なぜか? あの迷宮は“生きている”――要するに、意思がある。で、迷宮は公平性を欠く“ズル”を察知して、それをさせないようにするんだ。発動者の意思を構造に反映させられるってことは、逆に言えば迷宮と意識が繋がるってことでもあるからね。つまり発動者の“ズルをしよう”って意思も隠しようがなく伝わっちゃうわけ。まーこれは迷宮としての……そう、いわば概念自身の 自尊心(プライド) みたいなものなのかな? どこまでが“ズル”にあたるのかが不明瞭な点も、この迷宮の面白いところとも言われてたんだけどね』

……なるほど。

この神創迷宮。

どこまでが迷宮にとっての“ズル”にあたるのか。

ある意味、そのルールの穴をつくのも戦略の一つってわけか。

その時、

「トーカ」

今が機といった風に声をかけてきたのは、狂美帝。

「迷宮入りにはやはり、余も加わる」

「……よいのですか?」

狂美帝は仮にも一国の皇帝である。

「陛下のミラからは今回、オルド家きっての豪傑と聞くチェスター・オルドも参戦してくださいます」

ちなみに、当主のヨヨ・オルドの方は迷宮入りしない。

高齢なのもあるし、進軍中に風邪をこじらせ健康を損なったのもある。

何より彼女の場合、単独戦力で見ればそこまで高くはない。

が、皇帝でありながら帝国最強と名高い狂美帝となると――

「陛下が参加してくださるのはありがたいですが……参戦は、ヨヨ殿や他のミラの貴族たちから強く止められたのでは?」

元々、これより前から狂美帝も迷宮入りは申し出ていた。

が、ミラ陣営の者たちからの非常に強い反対に合った。

体調を崩していたヨヨが、

”ならば陛下の代わりに自分が”

などと、体調不良をおして参戦しようとしたほどには。

彼女に限らない。

狂美帝――ファルケンドットツィーネ・ミラディアスオルドシート。

この若き皇帝は、ミラの者たちとって意地でも失いたくない人物なのだ。

「まさか陛下は、ミラの者たちに黙って迷宮入りを――」

狂美帝はその問いに、

「説き伏せた」

そう答えた。

俺は半信半疑で、

「……ミラの者たちが、よく納得しましたね?」

いたずらっ子みたいに、狂美帝が微笑む。

「ふふ、皆……あれほど強行に”わがまま”を口にする余を見て、面を食らっていたわ。あれは、なかなか見物だったぞ」

狂美帝はどこか晴れ晴れした表情で、

「余がここで亡き者となろうと、ミラの次期皇帝としてはルハイトが問題なく機能する。いや、ここしばらくの成長を見ているとカイゼも次期皇帝として十分機能するであろう。次期皇帝の器が二人もいるのだ。元より、ヴィシスを討ったあとで余は退位するつもりだったしな」

以前、帝位を退く意思については聞いている。

「陛下……」

「それと、もうよい」

「?」

「どこであっても、他の者と同じような調子で余と話して欲しいのだ。この戦いが、あるいはそちとの今生の別れとなるかもしれぬのだしな」

「……では、どうお呼びすれば? いや……どう呼べばいい?」

「ふふ、ツィーネでよい。ただ、あれだ――余の方のこの話し方は勘弁してもらいたい。物心ついた頃からずっとこの調子で、身に染みてしまっているゆえな」

俺は一拍置いて、

「いいのか、ツィーネ?」

狂美帝――ツィーネは声を潜め、

「我がアサギと近い順番で入る。アレを引き入れたのは余だ。最後まであれの面倒は、余が見よう」

気をつけろよ――、……は、不要か。

今の言い方。

浅葱に何か違和感を覚えているのは承知の上なのだろう。

俺は言った。

「俺が一番乗りか、ツィーネ?」

「? どういう、意味だ?」

彼の兄カイゼから聞いた”友”の話。

「ツィーネ・ミラに初めてできた 友(・) 人(・) は、トーカ・ミモリになるのか?」

「――――――――」

やや、間があって。

ツィーネは淡い微笑みを、ごく自然に浮かべた。

「……そうだな――そうらしい。ふふ……どうやら、そのようだな――」

それは――

「トーカ」

やはり、年相応の微笑みに映った。

「それじゃあ、行ってきます」

挨拶を済ませ背負い袋を担いだ十河が、居残り組に言った。

「この戦いが終わればようやく帰れるわ――みんなで、元の世界に」

ひと言、聖が声をかける。

「十河さん」

聖の呼びかけに、頼もしい顔つきで一つ頷く十河。

その口もとにはやはり頼もしさを覚える笑みが浮かんでいる。

入り口へ向かって歩き出す十河に、俺も声をかけた。

「そいつを頼んだぞ、十河」

「――ええ、任せて」

十河は俺を横切って、転送部屋に足を踏み入れた。

あいつの背負い袋の中には対ヴィシス用の魔導具が入っている。

預けるなら、あれを単独で発動させられる余裕を持てそうなヤツがいい。

人選は、イヴやロキエラと話し合って行った。

『エリカはこの魔導具について、発動場所の半径内にエノーがすっぽり収まるよう範囲設定したと言っていた。ゆえに、この迷宮は完全に効果範囲内に収められるだろう』

イヴのその説明を聞いたあと、俺はロキエラに尋ねた。

『ある程度、武器や荷物の迷宮内への持ち込みは可能みたいだが……こういう魔導具の効果ってのは、迷宮の外で使ってもちゃんと中まで効果は届くのか?』

俺の問いに『微妙なとこだね』とロキエラは答えた。

『その魔導具の効果があの外膜に”弾かれる”懸念もなくはない。念のため、中に持ち込んでから発動させるのがいいと思う』

発動させるなら一番手。

かつ、単独で”ほぼ確実に”発動させられるであろう人物。

俺やセラス、高雄姉妹も候補に挙がったが――考えた末、十河となった。

十河なら敵と遭遇しても銀騎士や浮遊武器を盾に自分が動く時間を稼ぎやすい。

一番手なのは、もちろん以後に入った者が最大戦力の十河と合流しやすくなるからである。

その時、転送室の中が光に包まれた。

光が収束すると、十河の姿は消えていた。

これで……いよいよ始まった、と言えるか。

最後の戦いが。

入場は一人ずつ。

転送が終わってからでないと次の者は転送室に入れない。

他の誰かが転送室の中にいると、半透明の膜を通過できなくなる。

それから、突入は先発組と後発組に分かれる。

後発組は少し時間を置いてからの突入となる。

先発組は神徒に対応できそうなメンバーを中心に揃えた。

一方の後発組は、ほとんどが各国の選抜志願者である。

なぜか?

各国主力組織の選抜志願者の大半――

基本として、彼らは対ヴィシス戦のみを想定したメンバーだからである。

なので、神徒と戦っていたずらに数を減らすのを避けたい。

気休め程度だが、そういった理由で少し突入時間をずらした。

そのタイムラグの間に先発組が神徒をくだしておく。

叶うなら、それが最も望ましい。

……さて。

次の転送者は――

「行ってきます」

ムニン。

順番としては十河とセラスで挟み込む。

十河綾香とセラス・アシュレイン。

突入メンバーの単独戦力ツートップ。

どちらかとの合流を期待しての、このムニンの順番である。

ムニンが転送室に入る。

「ムニン」

そうひと言声をかけたフギに、ふふ、と微笑みを返すムニン。

「またあとでね――フギ」

ムニンが、転送される。

次はセラス。

転送が、始まる。

「先に行ってまいります、トーカ殿」

「ああ、また中でな」

「はい」

「ピギッ」

「パキュリ!」

「ふふ、お二人もありがとうございます。それでは――行ってきます」

その言葉を言い切ったのとほぼ同時に、セラスは転送された。

次は――ピギ丸。

「ピユリ~、ピユ、ピユ」

跳ねて、転送室に入るピギ丸。

転送直前にスレイがピギ丸にエールを送る。

俺も手を挙げ、

「あとでな」

「ピギッ!」

ピギ丸の転送が終わる。

次は――俺。

俺は、転送室に入った。

この次はロキエラになっている。

で、その次が高雄姉妹。

俺の状態異常スキル。

上手くいけば、こちらの消耗がほぼなしで勝てる力。

叶うなら。

状態異常スキルで神徒を早めに処理できるのがベスト。

そうすれば、他を温存した状態でヴィシス戦に臨める。

いや――

やれるのなら、もちろんヴィシスをさっさと仕留められるのが一番だが。

とはいえ、ヴィシスにはあの【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】がある。

あるいは万が一それが神徒にまで付与されていた場合……

この戦い、俺とムニンの合流は絶対条件となる。

条件によっては、誰よりも俺はムニンとの合流が重要になってくるわけだ。

ちなみにイヴは順番を少し後ろにずらした。

これは、ランダム性を考慮したためである。

”必ず順番が近い位置に転送されるわけではない”

ここを考慮しての”分散配置”。

と、俺が自分の転送直前にスレイのエールに応答した――

その時だった。

耳鳴りにも似た音が――

――……キュィィィィイン……――

迷宮の内側から外へ――感覚として――抜けていった。

あるいは”音が煌めいた”とでも言おうか。

順番待ちをしていたロキエラが一瞬、

「んっ――なるほど、こういうことか……」

そんな、違和感を覚えたような反応をした。

転送室の出入り口から覗く迷宮の外側に広がる景色。

空気がキラキラと、光っていた。

転送される直前に見た今の光景……。

そう、まるで……光の雪が降っているようにも見えた。

……耳鳴りに似た音がした以外、俺は特になんともない。

「…………」

俺は、すでに迷宮内部に転送されている。

視界には白い通路と……白い壁。

通路は元いた世界の学園の廊下より少し広いくらいか。

音は――聞こえない。

静かだ。

……さっきの転送直前の音と、光。

そして、ロキエラが発したあの反応。

「そうか、さっきのは……」

おそらく先に突入した十河が、 対(・) ヴ(・) ィ(・) シ(・) ス(・) 用(・) の(・) 魔(・) 導(・) 具(・) の(・) 発(・) 動(・) に(・) 成(・) 功(・) し(・) た(・) 。