軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る、戦いの前に

”聖体軍が迫ってきている”

そう報告が入った。

あと半日ほどで、こちら側とぶつかる計算になるようだ。

すでに戦いの準備はほぼ整っている。

今はいわば、戦いの前の最終調整に近い状態にある。

俺は、新たな蠅王装姿で陣幕の中にいた。

カトレア・シュトラミウス率いる混成軍を味方につけたミラ軍。

この軍勢は改めて、

”女神討伐同盟”

そう称することになった。

指揮系統において実質的な最高司令官にあたる人物は二人いる。

狂美帝。

カトレア。

この二名である。

当初、最果ての国からリィゼロッテ・オニクを加えて三名とする案も出た。

しかしリィゼの要望で、形的に最果ての国は狂美帝の指揮下で動くことになった。

『アタシは実戦経験豊富ってわけでもないし……こんな大規模な戦いの中で軍を動かした経験もないもの。なら、きっちり動かせる人材に任せる方がいいでしょ』

とのこと。

元々混成軍だったアライオンやウルザの戦力はカトレア指揮下のまま継続。

”今までそれで動いてきたのだからこの方が動きやすいだろう”

そういった判断である。

勇者組は一応、狂美帝の指揮下ということになった。

浅葱班だけ別枠感はあるが、表向きは同じカテゴリーに含まれる。

なので勇者たちは、狂美帝が自由に動かす権限を持つという感じだ。

しかし実際のところは、

『勇者たちをどう動かすかはトーカ――そちに任せる。余に言ってくれれば、そのように指示を出そう』

となっているため、俺の裁量で動かす権限を与えられている。

ちなみにニャンタンは最果ての国勢の中に組み込まれた。

まあ、彼女の場合はニャキと一緒にいた方がいいだろう。

で、俺たち蠅王ノ戦団は今まで通り自由に動く遊撃部隊的ポジションである。

「報告を聞く限りそれなりに大規模な戦いになりそうだけれど――私たちは、まだ温存ということでいいの?」

俺の隣でこう聞いてきたのは、高雄聖。

聖の隣には双子の妹の高雄樹もいる。

二人とも蠅騎士装だ。

陣幕の中なので、仮面は外している。

「できるだけ高雄姉妹の生存は、隠しておきたいんでな」

樹が歯を見せてニヒヒと笑いながら、

「まーアタシはともかく、姉貴は死んだと思われてるだろうしーなぁ」

クソ女神に対してどこか、当てつけるみたいな言い方だった。

高雄姉妹の固有スキルが使用された際、正体がバレる可能性はあるだろう。

軍魔鳩などで報告されるのも考えられる。

今のヴィシスならではの聖体を用いた他の伝達方法もあるかもしれない。

「死んでる人間は勘定に入らない。これが、隙を生み出す決定打になってくれる気はするんだが……」

聖が横目で俺を見ている。

彼女は、視線を前方へ戻した。

「何か引っかかるというか……思うところがある?」

「ロキエラの話を聞く限り、ヴィシスの他に厄介そうなのが三人いる」

「私もその話は聞いたわ。ヴィシスの因子を持つという、神徒という存在ね」

ちなみにロキエラは今、狂美帝やカトレアのところにいる。

軍議の場に参加し、聖体に関する情報などを与えているようだ。

セラスもそっちに行っている。

今、その場では全体の各軍の配置確認などをしているはずだ。

規模の大きい人数を動かす云々なら、俺よりセラスの方が向いてるしな……。

「俺としては……ヴィシスとの直接対決で決め手を使う時に、聖たちをそこへ組み込もうと考えてた」

「私たちの生存をヴィシスに対してそこで初お披露目、というわけね」

「だが……その直接対決の前に、神徒とやらがでかい障壁になる気がする」

「神徒を倒しうる戦力を考える際に、私たち姉妹が勘定に入ってくる――こういうこと?」

俺は一拍置き、

「そうだ」

ロキエラの話を聞く限りだと。

神徒ってヤツらからどうにも、厄介そうな印象を受けた。

「俺のスキルで問題なくやれればいい。が、もし効かなかった場合はおそらく純粋な戦闘能力同士のぶつかり合いになる」

「ロキエラさんの話によれば、ヴィシスの因子を持つ神徒には【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】を付与できないのでしょう?」

この話は少し前、ロキエラに質問して回答を得ている。

ただしロキエラは、

『まー”通常であれば”って話だけどね……。あの三体はちょっと特殊な感じがある。ヴィシスが付与できるよう、手を加えててもおかしくはないかな。可能性としては考慮しておくべきだと思う』

とのこと。

「付与できる場合、ムニンの禁呪で解除してからじゃないと俺のスキルは決められない」

「三体同時に襲ってこられたら、あなたの固有スキルを決める前にやられてしまいかねない。しかもその時は、ムニンさんの身の安全も守りつつ――こういう戦いになる」

「なるほど……なる、ほど」

理解が追いついてるのか。

いないのか。

樹は、微妙に判定に困る相づちを打っている。

「……変化球や個別の懸念点は一旦除いて、純粋な戦闘能力を整理してみようか。まず、最大戦力は十河で間違いないだろう」

「私もそれは同意ね」

「で、次点だが――」

「純粋な戦闘能力という意味でいえば、セラスさんじゃないかしら。彼女の場合、次点ではなく同等と言ってもよいかもしれないけれど」

実は以前、進軍中の野営地で高雄姉妹はセラスと剣の手合わせをしている。

むーん、とあごに手をやって複雑そうな顔をする樹。

「セラスさん、あんな強いとはなー。まさか姉貴が、ああもやられるとは……」

固有スキルなしで聖がセラスとやったところ、

『剣のみだと十回やってこっちが一回拾えればよいくらいの力量差かしら』

だったそうだ。

少し意外だったのは、樹の方が勝率が高かったことか。

といっても、十回やって三回勝てるくらいだったとのことだが。

俺は樹に、

「けど、スキルありだと互角くらいにはやれたんだろ?」

と聞いた。

樹は頭をかいて、

「そうだけど……でも、セラスさんの方は切り札の起源霊装を使ってないからなー」

そう。

セラスが使ったのは精式霊装まで。

ま、起源霊装は対価もでかい。

ポンポンとそう安易に使えない代物ではある。

聖も妹と似た感想を抱いたらしく、

「私もスキル使用でようやくまともに勝ちを拾わせてもらったけれど、向こうが起源霊装を使っていれば結果もまるで違ってきたでしょうね」

言って、聖は続ける。

「それでも、セラスさんの実力を私自身の肌感覚として体験できたのは大きかったわ。そうね、その経験も含めて言わせてもらうと……今のところ、この軍で純粋な個別戦力として十河さんに対抗できそうなのは、やはり彼女くらいだと思う」

小さいが、聖が感嘆に似た息をつく。

「剣の扱いを筆頭に、本物の戦才というのはああいうものを言うのね。ああいう領域の世界は、十河さん固有のものなのかと思っていたけれど」

あの高雄聖の分析だ。

精度は高いとみていいだろう。

「うちは十河とセラスの二枚看板がダブルトップ、ってわけか」

「あれだな――看板娘ってやつだな」

「……それはちょっと違うと思うわよ、樹」

こういう時の聖の真顔ツッコミ。

真面目なのか。

冗談なのか。

正直、俺も判断に迷うところがある。

ともあれ。

過去のセラス談に 則(のっと) ればだが――

攻の十河綾香。

守のセラス・アシュレイン。

こんな感じか。

「他は……」

トップ二人が突出しているが、他にも実力者がいる。

ジオ・シャドウブレード。

狂美帝。

この二人も個別戦力としてはやはり頼れるだろう。

ただこの二人は指揮官としても動く。

なので、一対一の戦闘にリソースを割き切れない可能性は高い。

「そこに最果ての国勢のキィルやグラトラ、あとから追いついてくるアーミア……ニャキの姉のニャンタン・キキーパット。他は、黒竜騎士団のガス・ドルンフェッドあたりが入ってくる感じか」

ちなみに。

俺――蠅王は、五竜士率いる黒竜騎士団を過去に壊滅させている。

元アシントの蠅王ノ戦団が潰したことになってるからな。

……まあ少し前に顔を合わせた感じ、あまり俺への悪感情は持ってない印象だったが。

「竜殺しはやっぱりあの状態だと、戦闘は難しそうだしな……」

神族のロキエラの方も、力をかなり失っているとのこと。

『ごめん。ボクは戦うの、無理そうだ』

そう言っていた。

ムニンも戦えるが、戦闘能力はそこまで高いわけじゃない。

樹がそこで思いついた顔をして、

「あの女王さまとかは、どーなんだ?」

「セラスに聞いたところでは、武芸の心得はそれなりにあるみたいだけどな。といっても、そんなに”戦える”って感じじゃないみたいだ」

女王さまはやはり、指揮官寄りの性能なんだろう。

リィゼも軍師ポジションだから、個人の戦闘力は低い。

聖が十河とクラスメイト連中がいる方角を見て、

「勇者で神徒と戦えそうな人物となると、こちらも限られてくるわね」

「だな」

「さっき除外した戦力で言えば――浅葱さんのグループは、いわゆるジャイアントキリングが可能な戦力とは言えそうだけれど」

「実際、追放帝ってヤツも倒してるしな。ただ例の敵味方の話を別にしても、浅葱の固有スキルはその場の状況に左右されすぎる気もする」

俺の戦い方のように、搦め手が成立する状況でなければ決まりにくい。

そう。

たとえば。

あの固有スキルを決めようと思うなら。

浅葱自身が命の危険を冒す必要が出てくる――気もする。

「安定した純粋戦力と比べると、不確定要素が多い不安定な戦力ね」

「ああ」

…………。

勇者、といえば。

現存する上位勇者が、他にも一人いる。

A級勇者。

安智弘。

あいつは今、どうしてるだろうか。

十河との合流を目指しているなら……

案外、こちらへ向かっていたりするのかもしれない。

しかし現状、あいつの合流をあてにするのは危険だろう。

確実性のない戦力に頼るのは、博打がすぎる。

「他の勇者連中も、強くはなっているらしいが……」

十河や高雄姉妹以外のクラスメイトの中にはB級もいる。

が、十河との戦力差がありすぎる。

集団戦なら戦力には十分なるだろう。

これはミラの輝煌戦団や予備戦団も同じ。

他には、最果ての国の各兵団や魔物たち。

元混成軍の各国の軍とて、それは同じである。

集団として見るなら戦力としては大きい。

ただし、

「向こうは神徒だけ単独で出してくるわけじゃなく、もちろん聖体も出してくるだろう。こうなると、戦いの場で神徒を受け持てる個別戦力がやはり必要になる気がする」

「多対多の戦いでは、敵側の突出した戦力を抑え込むことが勝敗を分ける重要な要素となるケースもあるでしょうからね」

サッカーでいえば、エースを押さえ込むようなもんか。

「好きに暴れさせると形勢をジリジリと持ってかれる危険はあるだろうからな」

「だから、無用な被害拡大を防ぐための神徒の受け持ち役が必要になってくる――――」

腕組みをした聖が、こちらを見ないまま指を三本立てて見せる。

「これが、三枠」

「ああ」

高雄姉妹。

S級勇者とA級勇者。

かつて二人はヴィシスと 戦(や) りあったこともある。

その時の話は俺も聞いている。

負けたとはいえ、ヴィシスの”戦いの様子”を知れたのもでかい。

「十河、セラス――この二人に近い戦闘スペックを不確定要素をほぼ排除した上で出せるのは、高雄姉妹だろうと俺は踏んでる」

実は例の手合わせのあと、セラスの方からも高雄聖評を聞いている。

これは、その時の評を聞いた上での俺の判断である。

「だから必要だと判断したら、聖たちの判断で戦いに参加して――固有スキルを使ってくれてもいい」

「……話をまとめると、あなたは”死者”かつ”行方不明”の私たちをヴィシスとの決戦にカードとして切る予定だった。けれど、今後の状況によっては私たちがそれより前に正体が露見するのを覚悟で参戦するのも致し方なし――あなたはそう考えている」

固有スキルの使用は正体バレにつながりかねない。

が、

「まず、クソ女神のところに辿り着かなきゃ意味がないからな。対ヴィシス戦を意識して温存しすぎた結果、決戦の場に必要そうだった戦力が神徒にやられて残ってませんでした……じゃ、話にならない」

決戦までに被害を抑えるのも、必要になる。

「わかったわ」

聖はそう答えて、

「必要そうなら、私たちも正体の露見は気にせず早めに参戦する――もちろん、そうならず当初の予定通りいくことを祈るけれど」

「ま、決戦となるだろう対ヴィシス戦について考えるのは俺の役目だ。聖の生存が仮にバレても、そうなった場合の代替策は意地でも捻り出すさ」

「心強いわね。今の三森君なら、クラス委員も向いてそうだわ」

「それを言ったら、今の高雄聖もできそうだけどな」

「…………冗談よね?」

「いや、嘘判定でわかるだろ」

聖が頬に手を添え、ちょっとだけ首を傾けた。

「そうかしら」

聖が意外そうな反応を示している横で樹が、

「姉貴がクラス委員かー……アリかもー……」

脱力したほんわか顔で、ぽけーと妄想に勤しんでいた。

……ほんと姉が好きだよな、この双子の妹は。