軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

死者たち

◇【カイゼ・ミラ】◇

ミラの帝都ルヴァ。

処刑場の晒し場にはこのところ、それなりの数の首が晒されている。

晒されているのは、野ざらしになった剣虎団の面々の首である。

剣虎団は先日、処刑された。

蠅のたかる生首を鴉がつついている。

初日には剣虎団の知人と思しき者が晒し場に侵入した。

首を抱擁し、慟哭していたという。

剣虎団は、あの白き軍勢を操ってミラを混乱に陥れた犯人とされている。

ミラの民の溜飲を下げるには、効果的だったと言えるであろう。

…………

宰相のカイゼ・ミラは、城の地下牢にいた。

『――――、……白狼騎士団の犠牲は仕方ありませんでした。ソギュードさんの犠牲は人材的に痛手ですが……まあいいでしょう♪ これも、大魔帝の心臓を手に入れるために必要なことだったんです。まー許可をしたのは私ですが……最終的には、キリハラさんの意思ですし?』

その男は大きな背中をこちらに向け、絨毯の上に座っている。

男は食い入るように”スマホ”を見ていた。

何度も何度も”リピート”している。

他にも、いくつかのヴィシスの声が”再生”されていた。

カイゼが声をかける。

「これで信じていただけるとありがたいのですが―― 白(・) 狼(・) 王(・) 」

あの大侵攻の時――マグナルの王都に大魔帝軍が攻め込んだ。

ミラ軍はマグナル軍と共に戦い、激戦の末に辛勝した。

この戦いのさなか。

マグナルの白狼王は行方不明になったとされている。

実際は、乱戦で傷を負い意識不明の状態にあった。

その報告を受けた狂美帝は、白狼王をこっそり自国へ”持ち帰った“。

通常、王の不在は国にとって大きな痛手である。

力のある王であればあるほど、それは顕著となる。

そして白狼王は、力ある王と言ってよい人物であった。

その白狼王の治めるマグナルは女神寄りの国である。

狂美帝は、敵陣営寄りの国の王を”行方不明”のままとした。

これにより、マグナルの弱体化を図ったのである。

白狼王はこの地下牢の奥の部屋で治療を受けつつ、囚われの身として過ごしていた。

扱いは丁重だったが、一方で警備は厳重だった。

また、囚われの白狼王は特に焦った様子を見せなかった。

どころか、常に泰然としていた。

『この身を捕らえようと、我がマグナルには弟のソギュードがいる。あやつが次の玉座につき、次の王となれば、我がマグナルは問題ない』

そう話していた。

しかし今、その状況が変わった。

ヴィシスは人類の敵であり、そして……。

白狼騎士団を――

ソギュード・シグムスを、己が目的のために犠牲にした。

スマホから流れていた声が止まり、長い沈黙がその場に 揺蕩(たゆた) った。

「カイゼ・ミラ」

白狼王が、背中越しに口を開いた。

「キリハラは……蠅王がくだした、と言ったな?」

「と、聞いております。証拠として、保存されたタクト・キリハラの 死(・) 体(・) が、ただいまこの帝都へ向けて運ばれているそうです」

「許さん」

「…………」

燃え立つような憎悪が、白狼王のがっしりした背中から放たれていた。

「王として、兄として――――ヴィシスを許すわけにはいかん……ッ!」

カイゼは奥の部屋を出て、外で待機させていた兵たちに指示を出した。

王の装備を白狼王にお返しするように、と。

(白狼王が心変わりしてくれたと……ここは、そう信じるしかあるまい。今はこのような状況で、猶予も限られている……)

カイゼは一度振り向き、今ほど出てきた部屋の扉を一瞥した。

(時には直感を信じ、思い切ってことを先へ進めるのも必要になってくる……か)

カイゼは上へ戻る階段の方を目指して進み――

途中、足を止めた。

「準備はできたか?」

「ああ」

カイゼに応じたのは――剣虎団の団長リリ・アダマンティン。

彼女の背後には、支度を終えた剣虎団の面々が立っている。

「まさかここであたしらを駆り出すとはな。狂美帝ってのは、怖いお人だ」

リリがそう言うと、大柄な剣士のフォスが咎めるように言った。

「違うぞリリ、あんなことをやったおれたちをこうして殺さずにいてくれたんだ。しかも表向きは処刑されたってことにしてもらったから、人質になってる拠点のみんなに危険が及ぶ可能性も少ない。全部、狂美帝の取り計らいのおかげだ」

「そうじゃな。ワシらが死んでいるなら、拠点は人質としての意味をなさなくなる。処刑されたと見せかけたのは、よい手じゃった」

そう続いたのは、ビグという老戦士。

あの晒し場の生首は、すべて偽物である。

生首は、元々処刑の決まっていた罪人たちのもの。

頭部に化粧などの手を加えて剣虎団に似せた。

さらに顔面を火で炙ったので、本人かどうかわかりにくい。

首を抱いて泣いていた人物も”仕込み”である。

剣虎団の知人を装わせたまったくの他人。

あれは、少々眉をひそめる性癖の処刑人を変装させた。

が、そのおかげで生首の抱擁にも抵抗感はなかっただろう。

「ぼくたちも正直、あの女神お抱えの騎兵隊でいるよりは狂美帝の下で働く方がいい気がするよ。捕虜なのに、ここまで待遇がいいとねぇ」

「ナハトは怠けすぎでしょう。もう身体も鈍っているのでは?」

「きつい……虜囚となっても、スノーちゃんは相変わらずきつい……」

アライオン第九騎兵隊。

隊長ナハト・イェーガーと、その副長のスノー。

最果ての国へアライオン十三騎兵隊が侵攻した時。

彼ら第九騎兵隊は、狂美帝やアサギ・イクサバらと対峙した。

そんな彼ら第九は――少し戦ったのち、すぐさま降伏した。

『あーだめだ……こりゃ勝てん。命を粗末にするのは、やっぱりやめよう』

隊長のナハト・イェーガーは、即座に白旗を掲げた。

そのため、第九騎兵隊は一割程度の人数が削れただけだった。

その後、捕虜となった彼らはこの地下牢で囚人となっていた。

「君たちの働きにも、期待させてもらう」

「ミラさんは悪くない待遇だったからねぇ。途中から命じられた労役も、これを見越して身体をなまらせないためだったんだろう? おたくらの皇帝もやるねぇ、まったく……」

スノーがカイゼに尋ねた。

「我々はヨナトへ向かうのですね?」

「そうだ。聖眼を守らねば、この世界の人間はいずれヴィシスに、永遠の苦しみを与えられる存在へと堕とされる」

するとリリがどこか収まりが悪そうに、

「にしても……助けてもらっといてなんだが、あんたらの皇帝さんも甘いっていうか――随分、寛大だよな。いや、あたしらを来たるべき日の戦力として考えてたってのもわかるんだが……あたしらがこの地下牢に来た時点じゃ、そこまで考えてなかっただろ? 蠅王にしたって……」

ちなみに。

模造聖体に関して彼女たちが持つ情報は、すでに狂美帝に伝えられている。

「要するに、何が言いたい?」

リリが言葉を探すように、後頭部を掻く。

「その、さ……蠅王がなんであの時あたしらを殺さなかったのか、今でも疑問でね。あたしら剣虎団は一人も殺されなかった。けど、不殺は普通に手間だろ? あの時、この今の状況まで読んでたってのは――さすがに、無理がある」

リリは思案顔で眉をしかめ、

「しかしだ。あの時点での聖体軍の脅威度を考えれば、あたしらをわざわざ殺さないように戦う意味なんてなかったはずなんだよ。どうもその辺が……ずっとしっくり、こなくてね」

「ミルズ遺跡の、13層だそうだぞ」

「ん? あー……ミルズ遺跡、って……あれか? ウルザの……新しい階層が見つかったとか言って侯爵が傭兵を集めてた……、――って、それがどうしたってんだよ? ええっと……13層ぉ?」

「俺もよくはわからんが、君らにはこう伝えてくれと蠅王から言われている。『ミルズ遺跡に魔物の変死体が溢れてた時、一緒に上に戻らないかと気遣ってもらった男がいた。あれが俺だ。純粋に心配してくれて、親切にしてくれたんだ。殺せるわけがない』と」

「…………」

リリが――呆けたように目を、まん丸にしている。

他の剣虎団たちも度肝を抜かれた顔になっていた。

全員、衝撃の事実に理解が追いついていない顔をしている。

リリは、

「は? 嘘、だろ……? あの時の坊やが……蠅、王……だ、った……って……」

そして、

「嘘、だろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!?」

「知らん」

言って、カイゼは再び歩き出す。

「俺は、その時が来たら剣虎団にそう伝えてくれと頼まれただけだ。ちなみにだが、君たちが処刑されたと見せかける案も蠅王のものだ。ああ、それから……もう一つ蠅王から伝言があったな」

カイゼは足を止め、伝書にあった蠅王の言葉を伝えた。

「『あの時は何気に嬉しかった』――だそうだ」