軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仮面を、外し

頼りになる援軍なのは事実だろう。

特に豹煌戦団――というか、あの男。

ジオ・シャドウブレード。

まだヴィシスが隠し球を持っているなら。

この戦いが、激戦と化すのなら。

戦力としてあいつの存在は強みになる気がする。

それに……ミラの大宝物庫にあった頼まれものも、届けられるか。

狂美帝は、

「使者を送り、援軍の要請をするつもりだ」

と言った。

入国用の鍵は狂美帝も譲り受けていたはず。

また、今いる野営地は最果ての国と近い位置にある。

使者が到達するまで日数はそこまでかかるまい。

狂美帝はこれも想定し、野営地をここにしたのだろう。

「最果ての国との会談の時にいたルハイトやホークを、使者として立てられたらよかったのだがな」

「顔の通った使者が、いないのですか?」

蠅王ノ戦団の者ならもちろん、顔は通っているが……

「いや、問題ない。あの会談のあと、こういう状況も見越して使者用の顔見知りは何人か作らせておいた」

そこは抜かりない、か。

狂美帝もミラ軍の指揮を執らねばならない。

ま、俺たちが使者として最果ての国を再訪する案も取れなくはない。

ただ、短いとはいえ……

ここで日数を食うのは――どうだろうか。

ヴィシスの明確な動きが見えてこない以上。

ここで蠅王ノ戦団は、できるだけ東――アライオン方面へ進んでおくべきな気もする。

「時間が許せば、そちたち蠅王ノ戦団が使者として最果ての国へ赴いた方がよいのかもしれぬ。決戦前の交流という意味でもな。しかし……余としては、今回の進軍で蠅王ノ戦団の不在は避けたいと思っているのだ。こちらの意向で、すまぬが……」

いや――

「陛下のおっしゃることは、ごもっともかと。肝心な時にワタシたちが最果ての国へ赴いていたために間に合わなかった……そんな事態は、ワタシも避けたく思いますゆえ――それから、陛下」

「?」

俺は、

蠅王のマスクを――――脱いだ。

狂美帝が口をへの字にし、目を軽く見開く。

やがて、

「…………それが、そちの素顔か。想像より若いな……しかし、なぜだ?」

「ワタシが陛下に正体を隠していますと――」

俺は高雄姉妹を見て、

「彼女たちも少々、やりにくいようですので。この機会に、陛下にはワタシの素顔と本来の名を明かしてもよいかと。信頼の証としても」

ふっ、と狂美帝が微笑む。

「なるほど――余も、ようやく蠅王から厚い信頼を得たわけか」

信頼の証。

ここで俺が正体を明かすのに特にデメリットはない。

このカードを効果的に切るタイミングも、ここくらいだろう。

なぜなら今は正体を隠すメリットをほぼ失っている。

桐原の件から、ヴィシスにはもう正体がバレているはずで。

十河の件から、浅葱を含む浅葱グループも蠅王の正体を知ったはずだ。

高雄姉妹も知っている。

あとは――安と、アライオンにいる勇者たちくらいか。

そう。

今、異界の勇者とバレて困る相手はこの世界にいない。

そう言っていいに等しい。

まあシンボルとしての”蠅王ノ戦団”――

蠅王装は、まだある程度役立つだろう。

たとえば士気を上げたり。

他に、考えていることもある。

ただ、狂美帝相手に隠し続ける意味はなくなった。

「ワタシの本来の名はトーカ・ミモリ……そうです、お察しの通り――タカオ姉妹やアヤカ・ソゴウ……タクト・キリハラと同じ、異界の勇者です」

ヴィシスに廃棄遺跡へ落とされたこと。

生存し――復讐を、誓ったこと。

俺はそれを明かした。

「――そうか。呪術の正体も異界の勇者の……すべて、得心がいった」

蠅王ノ戦団はシンボルとして使いたい旨も伝えた。

考えていることがある、とも。

「わかった、そちの言う通りにしよう……、――」

「?」

狂美帝が顔を背け、

「トー、カ」

……微妙に照れがまじってるのか。

しかし表情がわかる位置に顔を戻した時には、もういつもの平静な皇帝だった。

「今お話しした通り、蠅王装は着続けます。ですが呼び名は――もはや、そこまで重要ではないでしょう。陛下のご随意に」

「いや……表向きはまだ、蠅王ベルゼギアと呼ぼう。それでよいか、トーカ?」

「はい」

まあ、そこは好きにすればいい。

「トーカ」

「はい」

「一度、話をまとめよう」

こうして、俺たちは細部の詰めに入った。

一段落すると狂美帝が俺たちをぐるりと見渡し、

「では、アヤカ・ソゴウとタカオ姉妹の存在はできるだけ隠すように計らおう」

「特に、ヒジリはヴィシスから死んだと思われているはずです。生存は一応、隠しておきたいと考えております」

「トーカから頼まれていたタカオ姉妹用の蠅騎士装も用意してある。彼女たちは蠅王ノ戦団の一員として扱い、出自は蠅王派の元アシントで……別行動をしていたが最近合流した――で、よいのだな?」

「はい。説明を求められた場合は、そのように――二人もいいな?」

「わかったわ」

「おー」

ただし、と聖。

「使うべき局面と判断したら、私は迷わず固有スキルを使用するつもりよ。あまり生存隠しにこだわって目の前の戦局をギリギリまで危うくするのも、よくないと思うわ」

「そこの判断は任せる。ま、正体隠しは保険みたいなもんだと考えてくれ。隠し続けないとこの戦いにおいて絶対成立しない策がある、とかじゃないからな」

狂美帝が言葉を挟むべきタイミングを計ってから、話を進める。

「キリハラの方も予定通り、こちらで厳重に保管させる」

「ありがとうございます、陛下」

卓上の地図を狂美帝が細い指で示し、

「まず……我が軍はネーアの件を解決し、東へ再進軍する方向で動く……セラス・アシュレイン、まずはそちのカトレアと衝突を避ける方法とやらを試してみたいと思うのだが」

「かしこまりました。ではまず、一筆したためさせていただきたく」

「うむ、手配しよう」

その方法については俺も聞いている。

十河綾香という不確定要素がなくなった今なら。

成功率も高くできる気がする。

狂美帝は両手を卓につき、司令官然とした調子で――というか実質、総司令官だが――言った。

「いよいよ、ヴィシスとの戦いを本格化させる時が来たようだ。数々の困難を突破してきたそちたちの活躍に期待する。余も、全力を尽くそう」

と――幕舎の外で鈴が鳴った。

「この鈴の音……それなりに重要な用件のようだが」

目配せすると、聖が楚々と小さく頷いた。

姉妹は奥の部屋へ行ってカーテンを引き、隠れる。

俺はマスクを被った。

狂美帝が卓上の鈴を鳴らす。

入っていい、という合図。

ほどなくしてミラの臣下が入ってきた。

「陛下、アサギ・イクサバ殿とコバト・カシマ殿が参りました」

狂美帝が臣下を外へ戻した。

この幕舎へ来る途中、狂美帝は俺にこう伝えていた。

『ここへ戻ってきたあと、そちが野営地に来るならば会いたい――そうアサギが言っていた。コバトも、同様のことを言っていた』

十河や高雄姉妹はともかく、蠅王が野営地入りしたのを見た者は多い。

近衛騎士たちや家臣団にも姿を見せている。

ここで蠅王不在を通すのは厳しいだろう。

下手に浅葱や鹿島の中に不信感を生むのも、望ましくはない。

なので二人にはミラの者づてに、こちらも会う意思がある旨を事前に伝えておいた。

「先ほどお話ししました通り、彼女たちはワタシの正体に気づいております」

「会うのは今で問題ないのか?」

「ええ――今、会うべきかと」

いずれ、こうして話しておかねばならないとは思っていた。

戦場浅葱という人間を、見極める意味でも。

「…………」

奥の部屋の床上に置いてある布を被せた桐原は問題ない。

ただ、高雄姉妹と十河綾香の存在をここで浅葱に明かしてよいものか。

「聖は……隠れて、俺が浅葱とやりとりするのを観察してみるか?」

カーテンの向こうにいる聖に尋ねる。

返答まで数秒を要し、

「そうね。直接話して、私自身で彼女を見極めたい気持ちもあるけれど、まずは様子をうかがわせてもらおうかしら。そこのベッドに寝かせてある十河さんは――」

「一応馬車の方に戻して、隠しておいてもらえるか?」

鹿島は十河の身を案じているだろうが……。

十河の状態は、あとで鹿島にだけ教えるのも可能だ。

相手は戦場浅葱。

一旦、隠せる手の内は引っ込めておくとしよう。

各々準備が整ったので、浅葱たちを呼んでもらった。

やがて、

「うぃーっす、蠅王ちんはアタシの古い……ってほど昔でもねーけど、以前からのお知り合い――なんすよね? 暴露ポッポチャンネルによると」

幕舎に入ってきたのは、浅葱と鹿島。

鹿島はきょろきょろしたあと、蠅王面の俺を見て視線を伏せた。

どこか、申し訳なさそうに。

「あんまし騒がしーのもアレかと思いまして、グループ全員ぢゃなく代表二名で馳せ参じやしたー。まー中にはああいう別れ方で気まずい子もいるみたいだしネ。んふふー、ていうわけで……そのかっちょいいマスク、取ってもらってもいいかにゃん? あ、ツィーネちんの前じゃまずい?」

「いや、まずくはない。ついさっき――本名と異界の勇者だってのを、教えたばかりだからな」

「わお、なんだか口調までかっちょいい」

俺は――マスクを、脱いだ。

あっ、という顔をする鹿島。

前回正体を明かした時、マスクは取っていなかった。

つまり、素顔を鹿島に晒すのもあの廃棄の時以来となる。

「おー、雰囲気変わってるけどマジに三森君じゃないですかー……へー、てことは生存して脱出したわけ? 廃棄遺跡って、そんな名折れダンジョンだったのかい?」

「名折れダンジョンだったら、よかったんだがな」

てのひらに視線を落とす。

「生き残れたのは呪術――固有スキルのおかげだ」

「はいはい、あの女神ちゃんに効かなかったあれねー」

浅葱が距離を詰めてくる。

そして茶化すみたいに、肘で俺の腕をつついてきた。

「まーボスキャラが状態異常無効持ってるなんて定番っちゃ定番よ。いや、実は意外な状態異常が通るボスってのもゲームによっちゃいますけど……でもまー状態異常スキルなんてのは最近のソシャゲじゃ、敵が使えばマジに厄介&こっちが使う分にも高難度必須スキルだったりするからねぃ。優遇されてるゲームじゃとことん強ぇシロモンさ。もちろん――効きさえすりゃあ、だがね」

「……こっちの世界じゃ基本、使いもんにならないって扱いみたいだがな」

「そりゃあ”なんのためにこのゲーム状態異常が存在してるんすか? 敵に使われても大したことないし、戦闘終了したら余裕で治るし、こっちが戦うぶんにも普通にバフして殴った方が全然強いんすけど?”みたいなゲームも、いっぱいあるからね」

「俺の固有スキルはどうやら、おまえの言う厄介&高難度必須スキルの方だったらしい」

「ふふーん……こうなると案外、お城の食堂で話した説も合ってるのかもよ? ほら、神族にとって激ヤバスキルだったからガチで状態異常系統がナーフくらった説……女神ちゃんも意外と、無意識のうちに忌避感みたいの感じてたんでね? で、イラっとしたので廃棄したとか?」

「……ま、その辺はどうでもいいがな」

「あ、そっすか」

「あいつは虫けらみたいに俺を廃棄した――死ぬに決まってるとわかって、あそこへ送った。あいつは俺を殺しにきた……だから俺も、あいつを死ぬよりひどい目に遭わせてやりたい。単にそういう話なんだよ、これは」

浅葱と目を合わせる。

「それだけのために俺の生存を――正体を隠しながら、ここまで来た」

浅葱は数珠みたいな光沢をした瞳で俺の視線を受けた。

その目の上下の幅が、わずかに狭まる。

「復讐なんて、虚しくならないかい?」

「まったく」

「即答だ――迷いがない。へー……ブレがないね? 迷いとか、葛藤とかないのん?」

「葛藤してほしかったか」

「葛藤が魅力……ってタイプじゃないよね、今の三森君は。復讐の正しさ云々で葛藤するのはそそらんな。個人的に」

視線を外さぬまま肩を竦める浅葱。

「んじゃ、見捨てたクラスの子らにも復讐するんだ?」

「クラスの連中はそこまで気にしちゃいない。何人かはクソみてぇなとこもあるとは思うがな。ただ、クソ女神に復讐するために障害となるヤツは潰す――だから桐原は、俺が叩き潰した」

「ほー…… 殺(や) りましたか」

「ああ、返り討ちにした」

「”殺した”とは言わないのね。あ、そうそう……ところで――うちのクラスの大正義委員長サマが、そちらのお宅にうかがわなかったかな? かな?」

鹿島が不安げに「あ……」と反応する。

ずっとそれを知りたかった、というみたいに。

浅葱が両手を合わせ、

「ごめんよ~三森君、残念ながら綾香パイセンの相手はアタシらじゃ役不足だったんだよ~――あ、もちろん誤用の方の意味でね。んで、ポッポちゃんのコレ賭け説得も失敗に終わっちまってさー……ですので、そちらに綾香パイセンが凸してお邪魔をしちゃったんじゃないかと……思いまして、はい」

鹿島が息を呑み、俺の答えを待っている。

数拍あって。

俺は、

「浅葱」

「はい」

「一つ聞きたい」

「なんざんしょ?」

「おまえは、俺たちの味方か?」