軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十河綾香と、その説得について

見ている。

こちらを――浅葱が。

鹿島は勇気を振り絞った風に、

「そ、十河さん……っ!」

と、声を上げた。

「……アヤカ・ソゴウ殿、ですか? ああ、あなたが彼女を説得すると……陛下から、そう聞いていますが」

「この前の大きな戦いの時……魔防の白城で、十河さんにお会いになったんですよね!?」

「ええ」

鹿島は震える唇を嚙み、

「聞かせて、欲しいんですっ……十河さんのこと……っ。どんな感じだったとか、元気そうだったとか……ちょっと前のことだけど、それでもいいんです。わたしずっと会えてないからっ……なんでも、知りたくて……っ!」

戦場浅葱の表情から、

”なぁんだ、そういうことか”

そんな心の声が、伝わってきた気がした。

すっかり興味を失ったように、浅葱は自分のグループの輪に戻っていく。

無理なく鹿島が”蠅王に話しかける理由”を作った――ようにも見えるが。

声を張ったのはあえて浅葱に聞かせるため?

鹿島は俺が”三森灯河”だと気づいていて、あえてそうしたのか?

わからない。

現時点では。

俺は広間のドアを見やり、

「少々ここは、賑やかすぎますね」

「え? あ、はい……そうかも、しれません……けど」

「あなたも人混みが苦手……そうですね? ちゃんと覚えています。この前の、最果ての国での交渉時のことは……」

「……ご、ごめんなさい」

実際、今も鹿島はあまり調子がよさそうには見えない。

「少しお待ちを」

俺は狂美帝のところへ行って二言三言交わし、戻った。

「陛下から許可もいただきました。ひと休みもかねて、場所を変えて話しましょう」

「あ――は、はいっ……」

鹿島を引き連れ、広間を出る。

浅葱が一瞬こちらへ視線を飛ばした。

が、特に不信感を抱いた様子はなかった。

多分、嘘がなかったからだ。

”なんでもいいから十河綾香のことを知りたい”

それもおそらく、鹿島の本心。

だから浅葱は”そう”だと信じたのではないか?

ここで真偽判定のできるセラスを呼ぶ手もなくはない。

が、そうすると浅葱の”印象”が変わりかねない。

……正直、俺にもまだわからない。

鹿島小鳩は本当に十河の話を聞きたい”だけ”なのか。

「…………」

もしくは……

「では、こちらの部屋で」

俺は、鹿島とその部屋に入った。

広間近くの部屋。

この部屋は、先んじて狂美帝に頼んで確保してもらっていた。

普段は夜会の合間などに、静かにひと休みしたい者が使う部屋だそうだ。

貴族なんかも使う部屋だけあってか、簡素な部屋ではない。

贅をこらした内装。

が、煌びやかではない。

休憩用だからだろうか。

落ち着いた色合いで統一されている。

椅子を勧めると、鹿島は緊張した面持ちで座った。

俺は、斜め前の長椅子に腰掛ける。

……互いの距離は1メートルくらい。

鹿島はそわそわ落ち着かない様子だった。

尾行はなかったはずだ。

外に人の気配もなし。

「アヤカ・ソゴウの話でしたね」

あっ、と弾かれたように顔を上げる鹿島。

「は、はい……魔防の白城の戦い、すごい戦いだったって聞いています。こっちが追い詰められていて……負けそうだったって。でも、あなたが助けに来てくれたおかげで……勝った、って」

鹿島は膝を揃えて姿勢を正し、頭を下げた。

「ありがとうございます! 十河さんを……みんなを、救ってくれて!」

「我々があそこに向かったのは、セラス・アシュレインの望みでカトレア姫を助けるためでした。しかし、結果として異界の勇者たちも救えたのはよかったと思います」

「……あの」

「はい」

「十河さん……どう、でしたか?」

「ええ。彼女は戦いのあと、律儀にも、ワタシに直接礼をしたいと訪ねてきまして――」

かいつまんで、あの時の十河の様子を伝えた。

蠅王ベルゼギアとして。

「――そう、ですか。十河さん……そんな風に……」

「自分は全力で、クラスメイトのみんなを守る……そして、誰よりも強くなる――そう言い放ったあの時の彼女からは、とても強い意志を感じました。そして今、彼女は大魔帝をも退ける勇者へと成長している」

「……はい、聞きました。それと、大魔帝がアライオンを奇襲した話……桐原君が裏切ったことも。聖さんたちが女神様を裏切って、今は行方不明なことも……」

そこは伝えてもかまわないと狂美帝には話していた。

浅葱グループもその辺りは認識しているようだ。

鹿島は悲嘆に暮れるように、両手で顔を覆った。

「聖さん……樹さん……大丈夫、なのかな……っ」

心から姉妹の身を案じているのがわかる。

鹿島小鳩と高雄姉妹。

元の世界だと接点があるようには見えなかった。

……そういえば鹿島は。

魔群帯でイヴと遭遇した時、高雄姉妹と一緒にいたんだったか。

”あの姉妹はカシマを捜していたようだ”

イヴはそう言っていた。

鹿島はその時、姉妹と仲を深めたのかもしれない。

元の世界と関係性も変わっている――ある意味、何もかもが。

「上級勇者の裏切り……もしかすると、女神の方がヒジリ・タカオたちを先に裏切ったのかもしれませんね。異界の勇者が女神に逆らうなど、ただごととは思えませんから」

「実は……」

ぽつり、と鹿島が言った。

「女神様はわたしたちを元の世界に帰すつもりがないんじゃないかって、浅葱さんが前に言っていたんです……」

あの食堂で話した時、浅葱本人からもそれは聞いている。

「こうなると浅葱さんの読み……やっぱり、正しかったのかもしれない。桐原君もそれに気づいて、大魔帝の方についたのかも……聖さんたちも同じく、それに気づいて……」

「そして狂美帝は、女神に頼らず元の世界へ戻る方法を知っている。つまりアヤカ・ソゴウに接触し、それを知らせ―――」

途中、俺は言い直す。

「 信(・) じ(・) さ(・) せ(・) る(・) ことができれば説得は成功する。そこで、あなたが説得役を買って出た」

「信じてもらえると、思いたいです」

一応、安もその役をできなくはない。

女神の指示で殺されるところだったのだ。

接触できれば十河は大きく揺らぐだろう。

ただ……安の場合”証拠”がないのが多少、不安要素でもある。

聞けば十河との信頼関係の積み重ねもなかったようだ。

十河が完全に信頼している人物による説得……。

あるいは、決定的な証拠を突きつける。

説得には、それが必要となるか。

「コバト殿はお好きなのですね、アヤカ殿のことが」

「え?」

「彼女について語る時の表情や声で、わかります」

「え、ぁ――その……好き、ですけどっ……だって十河さんは……その、なんでも持っていて……憧れで……何より、優しくて……」

そう、と鹿島は胸の上で両手を重ねた。

「優しいんです、十河さん……とっても。あんなに温かくて信頼できる人……わたし、初めて……」

心から想っている顔。

惚れている、と言ってもいいくらいに。

「女神には我々だけで勝てるとしても、大魔帝を倒すには彼女の力が必要となるでしょう……この戦い、彼女の説得の成功が鍵の一つといっても過言ではない。ワタシも陛下も、そう考えています」

「はい……だからこそ絶対、成功させてみせます……絶対……っ」

「何かワタシにお手伝いできることがあれば、なんでもおっしゃってください」

「ぁ……そ、十河さんのお話しを聞けただけで……もう、手伝ってもらったみたいなものです……あの」

「ええ」

「三森君、なんだよね?」