軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Birthday

「クッチャ……クッチャ……」

俺は胡坐をかきながら朝食を食っていた。

ビーフジャーキー、一枚。

「クッチャ、クッチャ……」

毒々しい色のリザードマンたちを睥睨する。

皆、紫の泡をふきながら眠っている。

その後ろには四足歩行トカゲの死体が広がっている。

俺の左右斜め前には、横たわる二体のドラゴンゾンビ。

こちらも紫に変色している。

時おり、うめき声のようなものが上がる。

「グ、ぎ、ゲ……ぇ、ェ……っ」

苦しみの滲む鳴き声。

個人意思の介在した命奪。

それを可能にするのは――確かな殺意。

俺の中には”殺し”の因子が存在しているらしい。

うめく魔物を眺めながら目を細める。

二体のドラゴンゾンビ。

ふと、腐った醜悪な顔が実の親とダブった。

あいつらはその日も、頭を抱えて丸くなる俺を蹴っていた。

あれは、夕食後のことだったと思う。

俺の夕食は大抵両親の食事の余りものだった。

母親は昔からスーパーで食品を買い込みすぎる癖があった。

父親とはそれが原因でよく喧嘩していた。

しかしそのおかげで余った分の飯が俺の食事となっていた。

『頑丈なガキだぜ! ちっ! もっと泣き喚けば、ちったぁ面白ぇんだがなぁ! おらぁ!』

『殺さないでよねー? 今、世間の目が厳しいんだからさ〜』

『うるせぇ! 死んだら死んだでいいだろうが! くたばったら事故だよ、事故! 知らぬ存ぜぬで切り抜けんぞ! むしろこのガキが死ねば、たっぷり香典とかもらえんじゃねぇのか!?』

『てゆーかダーリン、あたしにも蹴らせんさーい! おら! おら! おらぁ! 痛ぇか!? 辛いか!? けどあたしらはなぁ、もぉっと辛い日々の仕事のストレスに耐えてんだよ! つまんねー仕事のな! だから、偉いん、だよ! ガキのてめぇにゃわかんねーだろ!? おらおらおらぁ! なんか言ってみなよトーカぁ!? 死ね! 死ね! 死ね!』

『イイ酒の肴だぜ! ぐび、ぐび――ぷはぁっ! いいぞ! そのままぶっ殺せ! スカッとするぜ!』

『おらおらおら――あぁ!? ちっ! 隣のやつがまぁ〜た騒音とか言って文句ほざきに来てやがる!』

『おい! またおせっかいで児童相談所とか呼ばれたらしんどいぞ!』

『そ、そうだね……はいは〜い、すみませ〜ん! 静かにしま〜す! ほんと、ウチの子どもがうるさくてすみませんねぇ〜っ』

イツカ、殺ス。

殺サナイト、殺サレル。

俺ニ、モット”力”ガアレバ。

何モカモヲ踏ミ潰ス”力”サエ、アレバ。

殺セ。

内ナル何カガ訴エテクル。

殺セ。

殺ス。

殺シテ、ヤル。

「…………」

あの時期、俺は”殺意”を知ったのだろうか。

「なら、感謝しないとな」

あいつらに。

殺意という因子を、与えてくれたことに。

他生物への殺意を、培ってくれたことに。

「元の世界に戻るようなことがあったら……捜し出して、礼の一つくらい言いに行ってやるのもいいかもな……」

叔父夫婦にも感謝しかない。

こちらは皮肉ではなく、心から感謝している。

叔父夫婦は俺を”普通”にしてくれた。

大事にしてくれた。

人のぬくもりを教えてくれた。

優しい心を、教えてくれた。

本当にお礼を言いたいのは、俺を引き取って育ててくれた叔父夫婦にだ。

「……優しい心、か」

魔物たちをぼんやり眺める。

最初に絶命していったのは四足歩行トカゲだった。

毒による死をひたすら待つというこの殺し方。

「ゲっ、ガっ!? グぇェ――」

【レベルが上がりました】

爽快感も何もない。

ひどい光景だ。

たとえば、虐殺。

そう――俺が、やった。

恐ろしい行為。

優しさの完全に欠落した行為。

「ふ、ぐっ……」

涙が、溢れてきた。

「くそ……なんなんだよ、これ……っ」

この時になって俺はようやく、自分のした行為の恐ろしさと凄惨さに苦悩――

するのだと、思っていた。

「しない」

ま(・) る(・) で(・) 、 し(・) な(・) い(・) 。

目から涙が伝い落ちる。

何も感じない自分の非情さに驚いたのだ。

驚きのあまり溢れてきたのが、涙だった。

俺は”毒”されたのだろうか?

殺しへの抵抗感は”眠り”についたのだろうか?

殺しへのまともな感性は”麻痺”したのだろうか?

なんとも思わない。

なんとも思わない自分が、怖い。

涙を拭う。

「フゥゥゥ……、――」

細く息を吐く。

涙はもう、消えている。

「仕方、ねぇだろ」

ここで生存競争してるうちに、こうなっちまったんだから。

受け入れるしかない。

受け入れろ、今の俺を。

新しい俺――

トーカ・ミモリを。

おまえたちが俺を殺そうとする。

俺もおまえたちを殺そうとする。

実にシンプルな 摂理(ルール) 。

本身(ほんみ) の殺意には――容赦なく蹂躙を、決行する。

濃い闇と見つめ合う。

「よぉ」

どうやら俺はもう”おまえ”が怖くないらしい。

恐れていた闇は今や、手を取り合う友となったのかもしれない。

「ギゃッ! ぎェ!」

「ぐェ!?」

「グぎャ!? ぎェぇ!?」

連鎖していく断末魔の声。

リザードマンが、次々と息絶えていく。

死の合唱。

「ご、ゲぇェ――ッ、……」

「ひギ、ぇェ、ェ゛――ッ、……」

ドラゴンゾンビも力尽きたようだ。

惨たらしくも、毒々しい光景。

このあと上のエリアへ移動する途中、俺は、思い出すことになる――

【レベルが上がりました】

自分の口端がこの時、笑みを形作っていたことに。

【LV549→LV665】