軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

崖上の戦い

「貴殿の策、見事にハマったであるな」

座る俺の横に立ち、ケルベロスのロアが言った。

左右の頭部はジッと俺を見つめている。

「ピギー」

ロアの背にはピギ丸。

伝令の装備だと上手く隠せなかった。

なので、他の魔物と一緒に行動させていた。

意外と先ほどの第十騎兵隊との戦いでも、他の魔物と協力しつつ活躍していたようだ。

「ミカエラの吐いた情報だと、アライオン十三騎兵隊は仲よしこよし……ってわけでもないらしい。となると、末端の兵士をいちいち把握してるヤツは少ないんじゃないか……と、俺はそう見た。だから、こういう策も選択肢に入ってくる」

団員一人一人の顔を把握してるようなヤツには効かない。

たとえば、セラスみたいなヤツには。

「あ、あの……もう少しジッとしていていただけるでしょうか?」

「ん? ああ、悪い」

俺の傍らではケンタウロスが血や汚れを拭いてくれていた。

時間経過で乾いたり跡の薄くなった血は怪しまれる。

汚れもできれば新しい方がいい。

近くに置いてある第十騎兵隊の装備一式に、目をやる。

「第十騎兵隊の装備も、確保できた」

「この策で潰していくのであるか」

「全部このやり方で始末できるといいんだがな」

敵が今回の規模くらいなら効果的だろう。

効果的なら何度だって同じ手を使う。

が、すべてこれでやれるほど甘くもあるまい。

特に敵の人数によっては難しい。

規模の大きい戦争となると、一人の力でやれる範囲は限界がある。

基本は、やはり決定力となる”数”が頼みとなるだろう。

「思ったよりドリス殿の戦い方は、泥臭いのである」

「綺麗な殺し合い、ってわけにはいかねぇからな。少なくとも俺の戦い方はそうだ。俺自身がやりたくねぇと感じなければ、俺はなんだってやる」

「うぅむ、わたしたちは 搦(から) め手が苦手かもである」

「俺の目から見て、純粋な戦闘能力で見ればあんたは優秀だけどな」

ケルベロス。

切れ味の鋭い巨爪。

大槌のような体当たり。

太い牙による噛みつき。

さらには、炎まで吐く。

最後は逃げの体勢に入った第十騎兵隊。

ロアはこれを追撃。

見事、すべて仕留めてみせた。

「機動力もある。魔物のまとめ役を任されてるのも、頷ける」

「貴殿は、褒めるのが上手である」

ロアが尻尾をぴこぴこ振り始めた。

照れてる、のか?

この感じ……。

意外と褒められ慣れてないのかもしれない。

左右の頭部まで、ちょっと照れてる感じだった。

「……竜煌兵団もそうだが、ここの魔物たちも思ったよりちゃんと戦えてる」

「ここにいるのは一応、魔物の中でも戦闘訓練を受けた精鋭たちであるからな。中に残してきた者たちよりは、戦闘向きなのである」

「…………」

元の世界のゲームとかだと敵に設定されてそうな魔物たち。

こっちの世界でも金眼の魔物は今まですべて敵だった。

仲間と呼べた魔物勢はピギ丸とスレイくらいだろう。

が、今は最果ての国の魔物たちが俺の味方として戦ってくれている。

「だが、今回の全体の動きもセ……クーデルカ殿の力が、大きいであろう」

セラス、と口にしかけたようだ。

慣れるまで名前の言い分けは難しいだろう。

「まあな」

今のところ全体の動きは悪くない印象だ。

セラスによる適切な配置、そして動かし方がハマっている。

さすが元聖騎士団長。

俺じゃ多分こうはいかない。

なんというか――スムーズなんだよな。

「報告します!」

伝令がきた。

こっちは伝令に亜人を使っている。

俺がやったような偽装を敵にされる心配はない。

「左翼方面! まだ遠いですが、さらなる敵影が確認されたとのことです!」

「矢継ぎ早だな」

左翼方面に敵が集まっている?

あるいは、そう思わせるための陽動か。

「ジオたちのいる中央方面は?」

「まだ敵の姿は確認できずとのことです。現在は、例の地点で待機中と……」

俺はロアを見た。

首を振るケルベロス。

「こちらも今のところ、この近辺に敵の姿は確認されていないである」

さっきまで第十騎兵隊の捕虜を一人確保していた。

死にかけだった。

が、楽に死なせてやるのを条件に情報を吐かせた。

さして有用な情報は得られなかったが……。

ともあれ、ひとまず現状得ている情報から察するに――

「アライオン十三騎兵隊は全体の配置や他の騎兵隊の動きを互いにあまり把握していない……基本は騎兵隊ごとに個別の判断で動いてる、って感じか」

つまり全体の統制が取れていないとも言える。

これは逆に、やりづらいといえばやりづらい。

全体としての動きを予測しにくい。

立ち上がり、伝令に言う。

「俺は一度ニコたちのいる左翼側に行く。馬を用意してくれ――行くぞ、ピギ丸」

「ピギー! ポヨ〜ン!」

ロアから飛び降り、俺の肩に飛び乗るピギ丸。

「ピニュイ〜♪」

”やっぱりここが一番〜♪”

みたいな鳴き方だった。

ロアが聞いた。

「わたしたちは、このあとどうすればいいであるか?」

「少し後退して、例の地点でひとまず待機……敵が来た場合は様子を見つつ応戦――とりあえず、そんなとこだな」

伝令を見やる。

「今話した俺の動きを本陣にも伝えてくれ。ただ、もしクーデルカが他の案を出してきたらそっちに従ってほしい」

「ハッ!」

引き返していく伝令。

「……スマホがあるといいんだがな」

「すまほ? それは、なんであるか?」

「離れてても会話ができる道具さ。こっちの世界じゃ、会話には使えない」

いや、充電すらできないか。

「音玉より便利そうであるな。あれば、心強いであるが……」

「逆に言えば、敵側も戦場全体の情報をリアルタイムに得る手段に乏しい、ってことでもある。画像や動画の撮影もできねぇしな」

ま、

俺みたいなのが動くにはうってつけの環境、とも言える。

◇【第十二騎兵隊】◇

「……くっ」

竜人が、背後の崖下を覗き込む。

緊張した面持ちで、その竜人は唾をのんだ。

「ここまで、か」

「ようやく追い詰めたぞい、亜人さんたちや」

第十二騎兵隊は、竜人兵たちを崖の前まで追いつめていた。

竜人たちの背後は崖である。

足を踏み外せば崖下へ真っ逆さま……。

その竜人たちの正面は、騎兵隊が固めている。

背後は崖。

前方は第十二騎兵隊。

亜人たちに、逃げ場はない。

「ふぉっふぉっふぉっ、まあ儂ら相手によくやった方じゃて。最初の勢いは……第四に勝って勢いづいてたのかもしれんが、儂らを第四なんぞと同じと思ってもらっては困るわい」

「そうですねぇ、おじいさん」

「他の連中の盾みたいになって先頭でイキってるのが、向こうの隊長格じゃな。他の連中から……ニコ様、とか呼ばれとったか?」

白髪の老齢の男――隊長のアルス・ドミトリーは目を細めた。

隣で馬首を並べているのは、副長のグレッチェン・ドミトリー。

副長は老婆だが、大柄で、顔以外は年齢を感じさせない。

グレッチェンは、いつもおおらかな笑みを浮かべている。

二人ともすでに 齢(よわい) 74になる。

けれど身体は頑強。

背も曲がっていない。

年齢の割には若々しいとよく言われる。

また、率いる兵の年齢も老年と呼んでいい者ばかりである。

アルス率いる第十二騎兵隊は別名” 吸精(きゅうせい) 騎兵隊”とも呼ばれていた。

「あの竜人たちも若そうじゃてぇ……たとえ亜人でも、若いもんを殺すのはやはりたまらん」

「そうですねぇ、おじいさん」

「若もんが苦しむ姿を見てると、気分が若返るんじゃあ」

「ですけど、最近の若い子は堪え性がありませんからねぇ。いびってあげると、すぐに辞めたいだのなんだの……きっと、甘やかされて生きてきたんですねぇ。世の中を舐めています」

「目上の者への敬意が足らんわい。誰より長く生きておられるヴィシス様がこの世界で一番偉いんじゃから、長生きしてるもんの方が偉いに決まっとるんじゃあ」

「はい、はい。ですがその若い子を殺すと……本当に、本当に……」

グレッチェンが面を伏せた。

彼女は、拝むように両手を擦り合わせ始める。

「わたしも、すっかり若返る気分で……殺しても何も文句を言われない戦場が、大好きですよぉ。ありがたや、ありがたや」

「おう。若もんを殺すと、その失われた命が儂へ流れ込んでくる気がするんじゃあ……若ければ若いほど、儂も生気がみなぎってくる……」

「赤ん坊なんかは、まあ、三年は若返った気分になりますねぇ……彼らの国へ辿り着ければ、赤ん坊もいっぱいいますかねぇ?」

「そこんところも、きっちり吐かせんといかん! のぅ!?」

声を上げ、勢いよく下馬するアルス。

彼が抜刀すると、他の兵たちも下馬し、鞘から剣を抜いた。

数では騎兵隊が勝っている。

「あやつらの背が崖となると、馬で一気に突撃とはいかんからのぅ。崖を背にして騎兵の強みを潰す策はハマったが……おのれら、見誤ったのぅ? この老体、下馬してもしっかり強ぇのよ」

「本当は弓を使って倒すのが楽なんでしょうけどねぇ。ですけど、弓で射殺すと……ねぇ?」

「生命力を吸い取れる気がしないんじゃあ。近くで殺すほど、若さを吸い取れる気がするからのぅ」

「しかし……微妙にのぼり坂ですよ、おじいさん」

「まー、腰にきとる兵には辛いかもしれんなぁ。儂らは、大丈夫じゃが」

ニコという竜人が腰を落とし、剣を構え直した。

背丈ほどもある長さの大剣を軽々と構えている。

「ほぅ。なかなか、堂に入っとる」

「あの竜の女は、やりますよ……おじいさん。あれは、わたしと二人で殺りましょう」

「そうじゃな……あれはちと、儂一人では危険かもしれん。油断するなよ、ばあさん」

「他は……数で簡単に押し切れますねぇ。見たところ、あまり戦慣れしていない」

「どうでもええ」

かかっ、と笑うアルス。

その笑みを不吉な形に変え、彼の目が据わる。

「問答無用で、全殺しじゃて」

アルスたちは勢いよく駆け出した。

ニコたちへと迫る精強な老兵たち。

と――

アルスが、足を止めた。

「!?」

他の老兵も足を止める。

「なん、じゃあ……?」

崖に追い詰められていた竜人たち。

彼らの、背後から――

竜人兵が、現れた。

さらに、魔物たちが続々と姿を現す。

数は、崖の上にいた者たちの三倍はいると思われた。

「崖下から……のぼってきた? じゃが、あんな数が一気に姿を現すことなど――」

そう。

崖をのぼってきたなら、あんな 一(・) 斉(・) に増えるわけがない。

「いや……待て……」

さらに、増えている。

続々と竜人兵が増えているのだ。

”険しい崖をよじのぼってきた”

そんな速度の増え方ではない。

「どういう、ことじゃぁあ……ッ!?」

「お、おじいさん……っ」

◇【ココロニコ・ドラン】◇

背後は、正確に言えば”崖”ではない。

ニコたちの後ろに広がっていたのは”緩やかな斜面”。

が、敵の騎兵隊からは角度的に”崖”にしか見えないのだ。

さらにはニコの演技。

彼女は崖の端で、

”深い崖下を覗き込んでいる”

そんな演技をした。

敵はこれで”背後が崖である”と思い込んだ。

が、実際は”緩い斜面”。

腹這(はらば) いや伏せの姿勢でその斜面に伏せていれば、角度的に敵から姿は見えないのである。

この辺りの岩場は隠れるのに適した場所がない。

だから、敵は伏兵の存在を疑わない。

まさかこの地形で伏兵が出てくるとは思わないのだ。

ゆえに――容易に、誘い込めた。

(蠅王の選んだ地形……そして、この地形を最大限活かすための戦い方……さらには、真実味を持たせるための演技方法……ここまで綺麗に、ハマるものか)

騎兵の強みの一つは”突撃”にある。

特に対歩兵には絶大な効果を発揮する。

これを防ぐには、どうすればいいか?

敵の背後が”深い崖”ならば騎兵は突撃できない。

勢い余って崖下へ落ちてしまう危険があるからだ。

足場の幅が狭まるという意味でも、ここは騎兵に適していない。

となれば、

下馬して、戦うか。

弓を射るか。

攻撃術式を、使うか。

ニコは敵に弓騎兵がいないのを目視で確認していた。

交戦したところ、攻撃術式を使う気配もなかった。

が、弓矢や術式がなくともこの騎兵隊は強かった。

(先ほど相手をした第四騎兵隊という輩より、格段に強い)

敵があの強さだと歩兵と騎兵の相性差を埋められない。

ニコはそう判断した。

そこで、ニコは教えてもらったこの地形を使うことを決めたのである。

蠅王から与えられていた策を用いて。

そうして――撤退に見せかけて後退し、ここへ誘い込んだ。

伏兵、兼、予備戦力を置いておいたこの場所へ。

旗を掲げるニコ。

と、斜面の向こうからたくさんの矢が放たれた。

矢の雨。

「ほれ、盾を構えるんじゃあ!」

敵の老隊長の号令で盾を上へ向ける敵兵。

が、

「ぎゃっ!」

何人かは、盾が間に合わず矢を受ける。

ニコは足に力を込めた。

「――ゆくぞ、某に続け」

ニコが、駆け出す。

背後に湧いた竜人兵たちがそれに続いた。

敵の老隊長が、舌打ちした。

「ちぃっ! 馬どもが何頭かビビッて散り始めたわ! 儂の馬もじゃ! これだから最近の若い馬はいかん! たるんどるわい!」

老婆が声を上げる。

「おじいさん、敵の数が想定より多いですよ! 後ろに置いてきた、第四の子たちを呼びましょう!」

「老人になると、さすがに戦えるのは若いのより数が少ないからのぅ。数を補充するなら、嫌でも若もんを使うしかねぇ! よし、呼びにやれ!」

使いを出すよう背後へ声をかける老隊長。

今、人数比は拮抗している。

”騎兵”という強みを奪い、さらに突然の”人数の拮抗”で意表をつく――

敵の油断を、上手く誘った。

「増援が来る前にここで畳みかける! ゆけ! 誇り高き竜の戦士たちよ!」

発破(はっぱ) をかけ、ニコが敵の老隊長に斬りかかる。

老隊長がこれを、剣で受け止める。

ギィンッ!

「重みはあるが、技術がねぇぞ――若ぇの!」

「ぐ、ぬ……その老齢で、この 膂力(りょりょく) ……ッ!」

「おやまあ――」

ヒュッ!

ニコは、かろうじて身体を捻って避ける。

が、老婆の曲刀の刃が腰の肉をかすかに斬り裂いた。

竜人兵が、駆けてくる。

「ニコ様! 加勢します!」

「気をつけよ! この二人、かなり強い! 老人と思って甘く見るな!」

腕に力を込め、大剣を振り切るニコ。

弾き飛ばされる老隊長。

続けざま、老婆の方へ突きを繰り出す。

「この若造……ッ! あのでけぇ剣を本当に軽々振り回しやがるッ! こういう”若さ”を無意識に自慢してくるから――やはり、若者は嫌いじゃあ!」

「あれまあ! 老人に暴力を振るうなんて、本当に恐ろしい若者ですよ! 見識ある年長者が、責任をもって始末しませんと!」

「貴様らの身勝手な会話は聞いていたが――どの年齢、どの性別の者にも、善き者もいれば、悪しき者もいる。見識ある者もいれば、愚かな者もいる。そして貴様らは……悪しき愚か者というだけの話ッ! そんな貴様らは、ここにて――某が斬り捨ててくれる!」

「ほざけジャリガキぃ!」

「むかつきますよ! 年長者に対してまるで敬老の精神が見られません! この亜人は絶対に晒し首ですよ、おじいさん!」

「皆の者! ここからは時間との戦いだ! 敵の増援が来る前に、なんとしてでもこやつらを仕留める……ッ!」