作品タイトル不明
絶望へと導くための解法
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まだ日が落ち切っていなかった頃……。
残る勇の剣を探しに行く途中、二人の男を見つけた。
外見の特徴から一人はナンナトット。
もう一人は――二強の一人、サツキだとわかった。
当然、真正面からやり合う気などなく――
不意打ちと 搦(から) め手を用いて、俺は二人を絡め取った。
結果から言えば【バーサク】状態となったナンナトットを、サツキが切り捨てる形となった。
ちなみにすでにその時、サツキは【ポイズン】状態になっていた。
俺はそのサツキに【バーサク】を追加した。
次に【バーサク】の【意識対象指定】を使用。
意識の向かう対象を定め、サツキの誘導を行った。
どこへ?
他の仲間たちの元へ。
勇の剣において二強の一人とされた”残刃”のサツキ。
しかし、二つ名の意味を俺が理解する前に術中に落ちた。
ただし、前評判通り桁外れに強いのはわかった。
正面からまともに戦えば俺では敵うまい。
シビトの取り巻きだった五竜士よりも遥かに格上。
だがそれは、
”まともに戦えば”
の話である。
張った蜘蛛の巣に引っかかれば――それまで。
策で絡め取ってしまえば、どれだけ強かろうと関係ない。
サツキたちは近くに潜んでいた俺の圧を甘く見た。
一緒にいたピギ丸の気配も感じ取ってか、余計に取るに足らぬ相手だと思ったのだろう。
誰も彼も、警戒するのはいつも格上の相手だけ。
自身に実力の迫る格下ならまだしも。
歴然たる差のある格下を警戒する強者は稀だ。
相手の力量を推し量る能力が、高ければ高いほど――
それが、仇となる。
指示通り大分後方からスレイがついてきているのを確認しつつ、俺はサツキを誘導していった。
やがて、他の勇の剣たちがいると思しき場所まで辿り着いた。
プランとしてはそのままサツキを突撃させ、注意を逸らすつもりだった。
仲間が【バーサク】状態で襲ってくればまず動揺する――隙ができる。
闇にまぎれつつ、豹変したサツキに戸惑う残りの連中を一網打尽にする。
ピギ丸との合体技を用いた遠距離からの奇襲攻撃。
そんな流れで、決めるつもりだった。
が、当初のその目論見は一転して水泡に帰すこととなる。
ヤツらは”防壁”を建てていた。
しかもその壁には何か不自然さがあった。
木や石で作られたものではないのは、確かである。
なんというか……。
まるで白い砂嵐の映像が、極薄のディスプレイに投影されているかのような。
おそらくは魔導具の力によるものだろう。
当初の算段が――そこで狂った。
ピギ丸との合体技の際に用いる予定だった状態異常スキル……。
発動条件の中には”対象の視認”が含まれている。
含まれていないのは【スロウ】のみである。
この”視認”は、必ずしも”全身”でなくていい。
重要なのは対象を”認識”できているかどうか。
そしてこの”認識率”の割合が低いと、発動に至らない。
確実なのは、対象の視認情報を極力多く得ることだ。
そして少なくともこの位置では、発動可能な”認識”を確保できそうになかった。
防壁には隙間があり、中に人がいるのがわかる。
が、待てども確実と呼べる”認識”は確保できそうにない。
警戒感が異様に強いのだ。
まるで、姿を捉えられることをひどく恐れているような……。
そこで一つ疑問が湧いた。
”あいつらは俺の状態異常スキルの発動条件を知っている?”
いや――それはない。
即座に俺は、その可能性を否定した。
俺の存在やスキル特性を事前に知っていたなら辻褄が合わないからだ。
もし知っていたら、トアドは自分が何をされたかピンときたはずである。
が、トアドは自分の身体が動かない理由に思い当たる様子はなかった。
ナンナトットやサツキにしても、知っていればもっと警戒していたはずだ。
つまり、連中は状態異常スキルの存在までは知らない。
となると――
”単に矢などの遠距離武器による奇襲攻撃に備え、防壁として使っているだけ”
今は身を隠して状況把握に努めている……。
そう考えてよさそうか?
ならば、まだこちらに有利。
手品の種までは、知られていない。
俺は、ここからクリアすべき課題の整理をすることにした。
その間、残りの勇の剣たちの存在にサツキが気づいた。
見ると、サツキはすでに防壁の方へ駆け出している。
この距離となると、俺が下手に動くと位置を知らせることになる。
他の勇の剣どもの距離も遠い。
あの距離だと【意識対象指定】も――射程外。
ここでサツキのコントロールは、諦めざるをえなかった。
なので、放っておいた。
やがてぎゃあぎゃあと混乱した声が聞こえてきた。
俺は、改めてクリアすべき課題の整理に取りかかる……。
まずゴールは、あの隙間のところまで接近すること。
この状況だといつもの”射程圏内に収める”でクリアとはならない。
今回は”視界”の問題。
が、隙間から中を覗き込めば相当な情報を視界から得られるだろう。
ほぼ確実に、発動可能な”認識率”へと至るはず。
特に、今回の相手は初手のスキル発動失敗のリスクが高いと考えるべきだ。
だから今回は、できる限り確実性を高める発動条件を揃えたい。
何より、防壁の前まで辿り着いて隙間から覗き込めば、まとめての付与も可能になるはず……。
「…………」
問題は、どうやってあそこまで近づくか。
喚き声の中に”ルイン”という単語がまじっているのが耳に入った。
あの中にはつまり、もう一人の最強であるルイン・シールがいる。
サツキがあの状態で現れた以上、より警戒を強めるだろう。
近づくための空隙を作り出す必要がある……。
難度は、高い。
俺は一度、後方へ下がった。
そして、待機させておいたスレイに指示を出す。
「八本脚を使って、足音で馬が二頭いるように走ってくれ」
セラスたちと別れた直後、すでにスレイは第三形態にしておいた。
首後ろの半球に魔素を注ぎ込むと光を発する。
その光を見られて位置を知られかねない。
なので、あらかじめ変身させておいた。
今回、スレイを連れてきたのはなぜか?
単純な話だ。
スレイの存在は、戦略の幅を大きく広げてくれる。
ピギ丸。
スレイ。
敵に空隙を生み出す協力者として――こいつらの存在は本当に大きい。
「――こういうルートで頼む。距離は十分に保ってくれ。矢や術式による遠距離攻撃には、特に警戒しろ」
「ブルルッ」
「で、ピギ丸だが――」
「ピギッ」
「スレイに乗せてもらって移動したあと、あっちの方で目いっぱい巨大化してくれ。一度巨大化したら、すぐ元の大きさに戻っていい――巨大化の目的は、おまえの存在感を相手に知らしめることだ」
ルインたちのいる方角を一度振り返り、続ける。
「おまえたちが動き出して数秒ほど経ったら、俺が一度あいつらに適当な言葉を選んで呼びかける。その声で、一瞬だけヤツらの注意をこっちにひきつけられるはずだ」
一度、移動中のピギ丸とスレイから意識をこちらへ向けさせる。
意識を、逸らす。
俺は、蠅王のマスクに装着している拡声石を外した。
「巨大化で存在感を示した後は――」
拡声石をピギ丸に渡す。
器用に突起を使って、ピギ丸がそれを抱え込む。
「思いっきり、鳴き声を発してくれ」
「ピッ!」
スレイの立てる足音。
突如として出現する巨大スライム。
そして――響き渡る、耳をつんざく大音量の鳴き声。
この三つで、連中の 空隙(スキ) を作り出す。
その 間(かん) に、俺があの防壁まで一気に接近する。
「今回の作戦はおまえたちも命を落とすリスクがある。怖いなら、セラスたちのところへ戻ってかまわない……安心しろ、責めはしねぇよ」
ピギ丸も。
スレイも。
微動だにしない。
”何を今さら”
そんな風に言っているようにも、見えた。
ありがたくて、思わずフッと笑みがこぼれる。
「これが終わって……あの魔法の皮袋から次に何かよさそうなもんが出たら、俺の分はおまえらにやるよ」
「プユ♪」
「パキュ♪」
俺は、無言で一つ頷いた。
各々の仕草で、ピギ丸とスレイが応える。
立ち上がり、俺は蠅王のマスクを被る。
それが――作戦開始の合図となった。
▽
作戦はすべて、予定通り進んでいた。
「ピッ、ギィィイイイイィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――――――ッ!」
巨大化を終え元のサイズに戻ったピギ丸が、打ち合わせ通り鳴き声を発した。
あとは――
「――【スロウ】――」
駆け出しざま、俺は【スロウ】を発動。
発動時の声はピギ丸の鳴き声が、かき消してくれる。
【スロウ】は、範囲内に入った”俺”以外の対象すべてに遅性を付与する能力。
範囲内にいる相手からは、俺が超高速で動いているように見えるだろう。
が、実際は相手側のすべてが遅くなっているだけだ。
遅性の世界ではすべてが遅く――鈍くなる。
そう。
反射神経すらも。
これは、基礎能力で劣る俺がルイン・シールへ”近づく”ための【スロウ】。
今こそ――この局面こそが、使いどころ。
急げ。
スレイも、ピギ丸も。
気配を隠さず音を発している以上、ターゲットになる。
敵に遠距離の攻撃手段があればすぐに攻撃へ移るだろう。
急げ――しかし、気は、静めたまま。
ギリギリまで、消せ。
気配を。
草と土を素早く踏みしめ、駆ける。
作戦の途中、勇の剣がそこいらに放り投げた光を放つ玉。
おそらくはこれも魔導具。
俺の姿もその光に照らされ、露わになっていた。
が、連中は今のところ完全にピギ丸に意識を奪われている。
――防壁が、迫る。
遅性の世界(スロウ) の射程圏内。
最後まで。
大胆かつ、慎重に。
「――――――――――」
目標距離へ――到達。
即座に【スロウ】を、解除。
視える。
四人、すべて。
認(・) 識(・) で(・) き(・) る(・) 。
腕はすでに、前へと突き出されている。
そして、
「【パラ――ライズ】」
気づいた。
一人。
肩越しに振り向き、そいつの目が、俺を捉える。
が、
「おま、え――――」
もう、遅い。
「おまえ一体いつから、そこにいたぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――ッ!?」
ここが、
「それじゃあ――」
おまえらの、終着点。
「始めようか」