軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

殺戮の道

俺たちは順調に魔物を蹴散らしながら北方魔群帯を進んでいた。

のだが、

「今の、悲鳴のような声――」

突然、それは起こった。

地が震え、魔物たちが大移動を始めたのだ。

セラスが俺を見る。

「トーカ殿、これは……ッ」

周囲の状況に視線を走らせながら、頷く。

「ああ」

似(・) て(・) い(・) る(・) 。

「 ピ(・) ギ(・) 丸(・) 」

判断は、迷わなかった。

ピギ丸との融合――合体技。

――ミシッ――

太いタコ足を思わせる大量の触手が形成され、宙に蠢く。

強化の影響だろうか。

ピギ丸の触手は、その太さを増していた。

ドバァ!

俺の後背からそれらが放射状に広がる。

夥しい数の魔物が前後左右の茂みから飛び出してきた。

この数……。

さっきの声で、点在する地下遺跡から出てきた可能性も高いか。

そして当然、

「目についた俺たちを狙ってくるわけだ」

長さ、太さ、本数を変化させ、360度に広がる触手を放つ。

「キしィぁッ――」

「【パラライズ】」

「う、ゲ……ぇ」

触手の先端から及ぶ射程内に入っていた魔物たちを麻痺させ、置き去りにする。

射程的に間に合う魔物に【バーサク】をかけ――コンボで始末。

走行中のため、麻痺状態の魔物すべてを範囲内に収めるのは難しい。

髪を風になびかせながら、後方で墳血死する魔物たちを見やる。

「……あの口寄せが、どこかで発動しやがったらしい」

音はかなり遠かった。

が、確かに”あの絶叫”に似た声だった。

そして、魔物たちは揃って北を目指している。

口寄せは北の方角で発動したようだ。

小型の魔物を剣で斬り伏せたイヴが、タイミングの悪さを呪う。

「よりによって、こんな時に……ッ」

その時、一匹の白い鳥が戦車目がけて近づいてきた。

セラスが弓を構える。

「待て」

俺は制止した。

金眼ではない。

何より、

「あの鳥から、何か言葉が――」

『手短に、伝えるわよ』

セラスと目を見合わせる。

「エリカか」

この鳥は彼女の使い魔らしい。

使い魔が俺の肩に乗る。

迎撃のおかげか、今、襲いくる魔物の勢いはやや鈍っていた。

が、まだ離れた場所では大量の魔物が移動している。

近辺の魔物もまだゼロになったわけではない。

戦闘態勢は継続したまま、先を促す。

「話してくれ」

『ここからもう少し北へ進むと、魔防の白城があるのは知ってるわね』

その城の位置はすでに魔女の棲み家で確認した。

対魔群帯用の城とのことだったが……。

『そこが今、大魔帝の軍勢と魔群帯の魔物に襲撃されてる』

「……そこを避けて、ルート変更しろって話か?」

『逆』

「逆?」

『さっき、魔防の白城の周辺で確認できた軍旗はアライオン王国とバクオス帝国、そして――』

使い魔の瞳が、セラスを捉える。

『ネーア聖国』

「!」

セラスに動揺が走る。

『ネーアの軍を率いているのはおそらく、カトレア・シュトラミウス』

例の姫さまか。

「――アライオンの軍もいるんだよな? ヴィシスは?」

『使い魔の耳を通して得た情報だと、ヴィシス……それから、キリハラというS級勇者は一時的に離脱して東へ向かったみたいだけど……』

桐原はともかく、クソ女神が不在か。

対抗手段のない現状では、むしろ朗報だろう。

「他は?」

『悪いけど、他にどんな勇者がいるかはわからなかったわ』

「……そうか。いずれにせよ、行く以外の選択肢はねぇけどな……だろ、セラス」

「はい」

迷いなく、頷くセラス。

「お願いいたします」

『気をつけて、トーカ』

エリカが忠告を発する。

『きみたちを探す前に観察した感じ、大魔帝の軍勢にはおそらく側近級がまじってる。しかも城は、北方魔群帯の魔物とその軍勢に挟まれる形になってるわ……中にはおそらく、人面種も』

……口寄せの発動は、大魔帝側が仕組んだのかもしれねぇな。

俺やエリカの理論通りなら根源なる邪悪は人面種を直接生み出せない。

人面種は強力な魔物だ。

なら――すでに存在する人面種を利用しようと大魔帝が考えても、不思議はない。

『人面種もだけど、側近級もまずい』

「そいつら、強いのか?」

『根源なる邪悪の次ぐ強さを持つ幹部級と考えればいいわ。なんていうか……大魔帝側のこの動き、もうこの一戦で決めにきているようにすら思える……』

勇者を含め人間側の戦力が把握できない以上、楽観視はできない。

『トーカ』

エリカが、言った。

『このエリカが与えた武器、遠慮なく使ってちょうだい』

「…………」

『説明した通り耐久性無視の試作品ばかりだから使い切りみたいなものだけど、威力は保証するわ。この魔戦車も後のことは考えなくていいから存分にやっちゃって――とにかく急いで、北の城へ』

「エリカ」

俺は、使い魔をなでた。

「よく伝えてくれた」

使い魔が、頷いたように見えた。

そして俺の肩から飛び立つと、そのまま使い魔は離れていった。

使い魔を通しての会話はかなり消耗する。

エリカは、そう話していた。

一日ちょっとは動けなくなるほど消耗する、とも。

「消耗の話から考えると、ここから先しばらくエリカの使い魔には頼れなさそうだ。つまり、ここから先はもうリアルタイムの情報は手に入らないってことだな」

セラスが、感謝の念を表情に浮かべる。

「ですが、今の情報がなければ……」

「ああ……魔物どもが向かってる魔防の白城へのルートを避けて、別ルートを取ってたかもしれない。エリカには感謝すべきだろう。さて――」

言葉の間に状態異常スキルを挟み魔物を潰しながら、呼びかける。

「イヴ、セラス」

すでに戦闘態勢に戻っている二人が、返事をする。

「はい」

「うむ」

「最悪、姫さまの救援にはおまえたちがいない状態で駆けつけるパターンもありうる」

魔戦車の壁に備えられていた槍をイヴが手にし、跳ぶ。

器用に俺の隣に着地すると、槍を差し出してきた。

俺は水晶体の嵌め込まれたその槍を掴み、魔素を送る。

「我らが脱落した場合は魔女のところへ送り返す――念を押さずとも、わかっている」

「……特に、おまえは絶対死なせられない。少しでも命に関わる傷を負ったと判断したら、その時点でリズのもとへ送り返す。いいな?」

イヴが低く、グルゥ、と笑いを漏らす。

「承知」

言って、先端の光る槍をイヴが投擲した。

並走気味に近づいてきていた大型の魔物に穂先が突き刺さる。

刹那、

ボワッ!

青白い炎が発生し、魔物が火に包まれた。

魔物は絶叫し、火だるま状態で体当たりしてこようとする。

が、途中で力尽きて後方へ置き去りにされた。

「うむ。大型の魔物であっても、この魔戦車に積んできた魔女手製の武器があれば我でも戦えそうだ」

「俺自身も、状態異常スキルも万能じゃない。 す(・) り(・) 抜(・) け(・) はありうる――だから、これまで通りそういう魔物は任せるぞ」

「安心しろ」

イヴがエメラルドの瞳で俺を一瞥し、耳をピクピク震わせた。

「そのすり抜けを見逃さぬための、この眼と耳だ」

俺は口の端を吊り上げ、フン、と鼻を鳴らした。

魔戦車の砲塔に手をかける。

それから砲身の向きを変え、組み込まれた水晶へ魔素を送り込む。

先端が、青白く明滅した。

青白いレーザーが放たれ、迫ってきていた遠くの魔物を穿つ。

魔物は血を後方に巻き上げ、そのまま横転した。

「向こうに到着してからの武器も、ある程度は残しておかないとだが……今は、ここを乗り切るのが先決だ」

現状、大移動中の魔物に包囲されている状態に等しい。

この群れを蹴散らしつつも、なるべく早く魔防の白城に到着しなくてはならない。

セラスが――精式霊装を、展開。

彼女は戦車の上から跳び、氷刃の斬撃にて魔物を一刀にて斬り伏せる。

と、セラスが宙に投げ出された。

「しまっ――」

俺は触手を伸ばし、セラスに巻きつかせる。

そして、中空に投げ出された状態のセラスを引っぱり上げた。

彼女が再び、戦車の上へ戻ってくる。

「も、申し訳ありません……っ」

「気にするな。ただ、焦りは禁物だな。ま……気持ちはわかる」

立ち上がって戦闘態勢を取るも、セラスの表情は曇っている。

彼女は焦慮に囚われていた。

まあ、無理もない。

今まさにカトレア姫が命の危機に晒されているかもしれないのだ。

平常心を保てと言う方が難しいだろう。

が、こればかりはどうにもならない。

使い魔を通して現地の状況を知ることはもうできない。

今、魔防の白城付近にいる連中がどれだけ持ちこたえられるか。

……もちろん、敵を倒してしまえる戦力がいるに越したことはないんだが。

「…………」

触手を広範に再展開し、俺は状態異常スキルを放った。

どのくらい、経っただろうか。

そして――どれくらい、殺しただろうか。

魔戦車は速度を維持――否、速度を上げながら突き進む。

魔物の死肉を積み上げ、撒き散らし、ここまで走ってきた。

後方を見やれば、そこには死骸の道が築かれている。

中には、人面種もまじっていた。

同類の死体を乗り越え、魔物たちは目を剥いて間断なく追走してきた。

そのことごとくを、俺たちはぶっ潰してきた。

今や、魔戦車も所々が破壊されている。

セラスとイヴにも疲れが垣間見えた。

ピギ丸との合体技も、現在は解除されている。

MPが尽きるより先に、ピギ丸の方がまいってしまったのだ。

仕方ない。

殺して、殺し、殺した。

この殺戮の道を築くのは、生半可ではなかった。

常時と言っていいほど、北方に巣食う魔物どもは押し寄せてきた。

手持ちの状態異常スキルを駆使し、時には【スロウ】も駆使した。

おかげでどうにか、脱落者を出さずにここまで来たが……。

「はぁ、はぁ……ッ! トーカ殿……だ、大丈夫ですか? しばらく私とイヴに任せて、せめて、少しでも休息を……」

MPを消費し魔素を生み出し続ければ当然、負荷も続く。

増大、していく。

ピギ丸もそうだが、俺の身体の方も悲鳴を上げ始めているのは確かだ。

が、

「……大したこたぁねぇさ。レベルアップとステータス補正のある勇者だからこそ、普通のハイエルフや豹人よりも無茶が利く」

まあ、疲れていないわけではない。

合体状態を維持しつつの360度全面戦は、さすがに堪えた。

が、ここで疲労を悟らせるわけにはいかない。

何より、無茶が利くのは事実だ――嘘ではない。

大したことがないのも事実だ――廃棄遺跡の頃に、比べれば。

彼女が見破れる”嘘”ではない。

セラスの嘘を見抜く能力は、裏を返せば騙しにも使える。

嘘でないとさえ示せれば、セラスは”信じる”しかない。

「それより、間に合うかどうかだ」

セラスは、深刻な影をその白い細面に落とした。

それから、彼女はジッと北を見据えた。

軽傷を負い腕に包帯を巻いたイヴが後方を見やる。

「とりあえず、魔物の猛攻は一段落したようだが……」

そう、今のところ周囲に魔物の気配はない。

この辺りから俺たちの方へと移動してきた魔物を殺したおかげか、あるいは――

「 こ(・) の(・) 辺(・) り(・) に(・) い(・) た(・) 魔(・) 物(・) は(・) す(・) べ(・) て(・) 、 魔(・) 防(・) の(・) 白(・) 城(・) に(・) 行(・) っ(・) ち(・) ま(・) っ(・) た(・) か(・) 」

もしそうなら、

「魔防の白城が近いとも、考えられる」

しかし、あの尋常とは言い難い魔物の数……。

金棲魔群帯には想像以上の数の魔物がいるらしい。

多分、地下遺跡に潜む魔物が相当数いる。

もしそいつらがすべて地上に出てくるなんて事態になったら――

「…………」

想像もしたくねぇ。

俺は、蠅王のマスクを取り出した。

「おまえたちもそろそろ姿を隠す準備をしておけ。一応、イヴは腕輪を使って人間状態になっておいた方がいいだろう」

「トーカ、聞いてよいか?」

「ん?」

「元々の計画だと、我らはマグナル王国の王都へ入り、そこで南軍に参加する傭兵に紛れ込む予定だったはずだ。しかし、魔群帯の中から現れて参戦となると……傭兵で通るか? それに、エリカ手製の魔導具も問題かもしれぬが……何よりそなたの状態異常スキルの使用によって異界の勇者だとバレてしまうのは、正体を隠しておきたいそなたとしてはまずいのではないか?」

「……鋭いところは妙に鋭いよな、イヴは」

こっそり傭兵として紛れて暗躍する案は、ご破算になった可能性が高い。

女神不在とはいえ、謎の力で魔物を蹴散らせば嫌でも目立つ。

その謎の力の存在が女神の耳に入れば、三森灯河に行き着くかもしれない。

いくら外見を隠そうと俺のスキルだけはお披露目となってしまう。

スキルなしで勝てるほど、敵も甘くはあるまい。

となると……何か”隠れ蓑”を用意する必要が出てくる。

「要はごまかしが効けばいいわけだ。ま、即席感はぬぐえない苦肉の策だが……一応、俺なりに対策を考えてはある」

手もとの蠅王のマスクを、眺める。

「亡霊に、ご登場願おうと思ってな」

「亡霊、だと?」

「ただそれよりも今は、例の姫さまが俺たちが到着するまで無事でいてくれてることを祈らないとな……」

俺はマスクを被りながら、戦車の前方へ足を向ける。

「そう……姫さまが無事でいてくれなきゃ意味がない。きついかもしれないが、あともう少し――持ちこたえてくれ、スレイ」

返事めいて吠え猛ると、汗まみれのスレイは、さらにその速度を上げた。

もし俺たちが到着した時、すべてが片づいているなら、それはそれでいい。

が、リアルタイムな情報が得られない以上、最悪の事態を想定しつつ急ぐべきだ。

あとはもう、

「現地にいる連中がどれだけやれるかに、賭けるしかない」