軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「そうか」

「――――――――」

意識が、覚醒する。

傍らの懐中時計を確認。

……ほとんど、寝てないか。

意識が落ちてから10分経ったかどうか、という程度だ。

セラスは、

「…………」

背を向けて横になっている。

起きてはいるみたいだが――

「……、……?」

違和感。

今の俺の上半身は巻かれた包帯のみ。

肌の露出した胸元を中心として”それ”はあった。

不思議な余韻。

他より少し、高い温度……。

違和感はもう一つ。

口元に手をやる。

唇。

……あたたかな湿り気。

妙な具合に、濡れている。

俺は無言でセラスの背中を見やった。

恥じらい、

緊張、

驚愕、

後悔、

罪悪感、

……自覚。

入り乱れ合う感情が、読み取れた。

「…………」

くしゃり、と。

上体を起こし、俺は自分の前髪に触れた。

声を、かける。

「……まだ、眠れないか?」

セラスの丸い肩がピクッと反応する。

彼女は深く、息を吸った。

「申し訳、ありません」

果たしてそれは、何に対しての謝罪だったのか。

「なんで謝るんだよ」

「す、すみません……」

「…………」

ここは、気づいてないフリをすべきだろう。

「スキルで眠らせてもいいか?」

今のセラスにとっても多分それがいい。

身体をかすかにキュッと縮めると、セラスは答えた。

「お願い、します」

「――【スリープ】――」

ほどなくして、規則的な寝息が聞こえ始めた。

セラスが寝返りを打ち、仰向けになる。

横目で様子をうかがう。

……完全に熟睡しているようだ。

「………………………」

息を、つく。

薄々勘付いてはいた。

シビト戦以降、セラスは俺と適度に距離を置いていた。

そう――意識的に。

おそらく俺に気を遣っていたのだろう。

そ(・) う(・) い(・) う(・) 感(・) 情(・) が、復讐の旅の邪魔にならないように。

にしても、

「思ったより、大胆なやり方できたな……」

少し驚いた。

いや、

「でもまあ……そう、なるのか」

効果が 覿面(てきめん) すぎた。

心身共に疲弊し切った孤独な逃亡の旅路。

その 路(みち) の途中でようやく気を許せそうな相手と出会い、

あの追い詰められた局面で、

あんな風に、助けられてしまったら。

もし、俺が逆の立場だったら。

セラスにそうやって、助けられていたら。

「惚れちまってもおかしくはない……ただ――」

意識が落ちる前。

俺はセラスが寝た後で寝るつもりだった。

なのに――意識が、落ちた。

セラスの膝の上で、完全に意識が落ちた。

完全に。

「そうか」

規則正しく胸を上下させているセラスを、眺める。

「俺も」

いつの間にか、

「おまえにそこまで気を許すように、なってたのか」

休息を終えた俺たちは洞穴を離れ、 一路(いちろ) 先を急いだ。

出立直後、まだ辺りは暗かった。

が、ほどなくして空は薄闇から朝焼けへと移り変わっていった。

この日の朝の魔群帯はいやに静まり返っていた。

清冽に澄み渡った空気が、心地よく肺を満たした。

さしたる障害には遭遇しなかった。

先日の殺し合いで近辺の魔物が減ったせいだろうか?

あるいはこの辺りが魔物たちから危険地帯と認識されたか。

とにかく、

「トーカ」

イヴが、俺の隣に立つ。

「ああ」

地図を確認。

ここから先はいよいよ魔女の棲む領域に入る。

俺たちを示す光点と、魔女の位置を示す光点。

二つの光点の端と端が重なり合っている。

「もう引き返せないぞ、イヴ」

口端を歪める。

「ま……今さら引き返す気なんざ、ないだろうけどな」

うむ、と。

夢見た血闘士が、頷く。

「無論だ」

そして――俺たちは 魔女(禁忌) の領域へと、足を踏み入れた。