軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

FROZEN

俺は公爵に背を向けた。

「イヴ」

「うむ」

「公爵の命乞いを聞きたいかもしれないが、始末は手短に頼む」

イヴはすぐ返事をしなかった。

死体を数えるのを中断して、俺は言った。

「気が進まないなら、俺が――」

「いや」

イヴが口を開いた。

「我に、ケリをつけさせてくれ」

「わかった。終わったら、俺のところへ来てくれ」

一つ頷くと、イヴは公爵の前に立った。

その手には剣を握りしめている。

俺は死体の数合わせを再開する。

「ぬ、ぉ……ぐ、ぎぎ……っ、ひ……ひ、ぃぃ……っ」

いよいよ公爵は現実から逃げられなくなった。

背後から伝わってくる。

公爵の恐怖が。

「喋れない状態はむしろよいのかもしれぬ。言葉で惑わされる心配もない……我は、単純だからな」

イヴの声は凍りついていた。

氷のような冷たさだった。

「我を陥れただけなら、まだどこかに許す気持ちが湧いたのかもしれぬ。だが……あの子にまで手を出そうとしたのは、悪手だったな」

「ぎ、ぐ……ぐ、ぅ、ぅ……」

「涙を流そうとも、もう騙されん」

「ぎ、ぎ、ぎ、ぃぃ……ッ」

「さらばだ」

ごく小さな短い悲鳴が聞こえた。

最後にイヴが口にしたひと言。

普通に考えれば公爵へ向けたものだろう。

しかし見方によっては、甘さのあった過去の自分へ向けた言葉だったのかもしれない。

足音が一つ、背後で止まった。

「トーカ」

「……ケリは、つけられたか?」

「うむ」

思ったよりイヴは晴れ晴れとした感じだった。

「トーカ殿」

セラスがリズの手を引いて林から出てきた。

今は変化を解いている。

精霊の力は対価が必要となる。

本来、変化の力も使用しないに越したことはない。

まあ、今は変化の力も必要あるまい。

セラスが辺りを見渡す。

「終わった、ようですね」

リズはセラスの服の裾を握っていた。

セラスの腰あたりに身を寄せている。

俺は言った。

「リズ、もし死体を見たくないなら――」

「だ、大丈夫ですっ……」

「本当に?」

「おねえちゃんと旅をしていた頃にたくさん見てきました……わたしたちを、襲ってきた人たちの……」

死体を目にするのは初めてじゃない、か。

しかし小刻みに震えているのは確かである。

まあ一概に見慣れて得するものとは言えないだろう。

「セラス、俺はこれからイヴと少しやることがある。おまえは、リズを連れて先に出発の準備をしててくれるか?」

「承知しました。では、置いてきた荷物を回収してから、まだその辺りをうろついている馬を捕まえておきましょう」

「頼む。ああ、それと」

「何か?」

「あの弓矢での援護、助かった」

自信なさげな顔をするセラス。

「あれも、指示にない自己判断だったのですが――」

「前も言っただろ。おまえの自己判断は、信用してる」

言葉を噛み締めるようにして目を閉じるセラス。

彼女はそのまま、胸に手をあてた。

「はい、ありがとうございます……」

「もうおまえはこの”傭兵団”の副団長の位置だ。おれが指示できない時の判断はおまえに一任する。イヴとリズも、それでいいな?」

「うむ」

「は、はいっ」

イヴとリズが答えた。

微笑むセラス。

「今後ともよろしくお願いいたしますね、二人とも」

「それと、セラス」

「はい」

「出発の準備をする前に、荷物の中から例のアレを取ってきてくれるか? あとで使うことになると思う。そうだな……その辺りに、置いておいてくれ」

セラスはすぐピンときた顔をした。

「はい、かしこまりました」

大体の合流位置を決め終えると、セラスは林の中へ向き直った。

「あの、セラス様」

気後れした様子で、リズが立ち止まった。

「どうしました、リズ?」

「わ、わたしにも……手伝わせてください」

リズの声は震えていた。

「先ほどトーカ様は、傭兵団の一員にわたしも含めてくださいました……」

「リズ?」

リズの目尻には、涙が溜まっていた。

「わたしも何か、お役に立ちたいです……」

自分は悪いことをしている。

なぜかリズにはそう思っている感じがある。

セラスが、リズの頭を撫でた。

「わかりました。では、あなたには荷物運びの手伝いをお願いします。いいですか?」

「は、はいっ……感謝します、セラス様っ……」

二人はそうして、林の中へ消えて行った。

リズは自分の意思を口にするのを怖がっている。

それがいけないことだと思っているのだ。

あの女主人との生活による影響だろう。

ヤツらは否定する。

子どもが自分の意思を持つことを。

自分の考えを持つな。

ただ言われたことに従えばいい。

そうやって頭ごなしにおさえつけてくる。

すると子どもは、自分の考えに自信が持てなくなっていく。

やることなすこと、間違っているように思えてくる。

次第に感情も凍りついていく……。

リズが受けた心の傷は、深そうだ。

「イヴ」

「なんだ?」

「あの子が負った傷は、おまえが時間をかけて癒してやるんだな」

「あの子のことは、鈍感であった我にも責任がある……当然、そのつもりだ」

俺はリズの消えた林を見た。

「一緒に旅をする間は、俺とセラスも協力するさ」

「ああ……礼を言う、トーカ」

「それでトーカよ、我とそなたで何をするのだ?」

辺りに散らばっている死体。

俺たちは先ほどまで死体を数えていた。

討ち漏らしはゼロ。

全滅。

毒状態だった連中も、今は物言わぬ死体になっている。

「…………」

イヴにも説明しておくか。

俺は懐に手を入れた。

「こいつを見てくれ、イヴ」

「これは氷、か……?」

俺の指先が摘まんでいるもの。

小さな氷のかたまり。

イヴが目を細めてそれを観察する。

「ふむ? 氷漬けになった虫に見えるが……」

「そうだ。これは生きている虫を【フリーズ】のスキルで、凍結させたものだ」