軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第517話

古代エルフの刺し子は糸目、つまり 経糸(たていと) と 緯糸(よこいと) が交差する箇所の隙間から針を出し、目の数を数えて針を刺し……の繰り返し。原理的には拾う目の数で幅の変わる並縫いだ。布の右端から左端まで目を拾ってゆき、左端まで来たら布の上下を返しまた右端から左端まで目を拾っていく。その繰り返しで布を埋めてゆく。そして模様の構成を理解していないと拾う目の数を間違えるという悲劇が起きる。刺し子の作業は楽しいというより何かの修業に近い。

一方、一般的な刺し子は下描きされた柄を並縫いで刺していく。縫う人によって針目の幅は違うけど、基本的に針目の幅は一定。ペンのかわりに並縫いされた糸で線を引くって感じだ。これは刺し終わった個所の柄も分かりやすいので縫ってても楽しかったりする。

そんな訳で納品するのは一般的な刺し子の技法で作った手習い品になる。布巾…いやランチョンマットだな。キルティングの押さえとして刺し子を施したりも出来る。刺し子の線で囲まれた箇所に綿を詰めてプックリと模様を膨らませることも出来、そうした細工布はクッションカバーになったりベビー服の材料になったりする。

でも、ぶっちゃけ下請けだよなぁ……。

オロール先生が言うには、規格に縛られない手習い品で技術を磨けるのは最高なんだって。確かに納期も検品も不要なんだから練習用としては最高なのか。

(共)「 他人(ひと) の仕事で技術を磨くんだよ。そうしたら自分用には最高の品を作れる」

それは職人として言ってしまってもいい発言なのだろうか?

(共)「自分の為に 他人(ひと) の仕事で腕を上げるんですか?」

(共)「次こそは自分用……って言いながら外の仕事が続くけどね。気付いたら 他人(ひと) の仕事でも最高の技が使える様になっているものなのさ」

(共)「古代エルフの刺し子、糸を引く力加減が難しくて……」

(共)「そこは数を熟して手に覚えさせておくれ」

一朝一夕は身に付かない系だよ。糸を引きすぎると布がつり、引かなさすぎると糸が浮く。いい角度で糸が引かれると糸目を通るうちに糸に艶が生まれるけど、悪い角度だったら糸が毛羽立つんだよ。最悪、糸が傷んで千切れるし。

(共)「でも、納品出来ない手習いが溜まる一方ですよね」

(共)「最初のうちは 鉱石(いし) のお布団にしてやればいいよ。その次は従魔の為の敷布。数が増えてきたら接ぎ合わせてミーシャが寝る敷布にすればいい。魔力は無くても悪夢避けにはなるだろうしね」

(共)「自家消費があった。 鉱石(いし) のお布団って響きがいいですね」

(共)「その代わり、納品してお金が入るわけじゃないからね、普通の刺し子を納品してエール代を稼ぐんだよ」

(共)「研磨した鉱石を卸してもいいんですよね?」

(共)「それだと仕入れ値がかかるだろう? 消耗品にもお金がかかる。その点、端布処理の手習いで渡される布はタダだからね。かかるのは糸代ぐらいだよ」

(共)「あ……、そうですよね。もらった鉱石や依頼品を磨いて卸していたので失念してました」

(共)「そういった鉱石なら卸してもいいんじゃないかい? それこそ 遊(・) ん(・) で(・) いるうちに技術が上がるじゃないか」

(共)「はいっ!!」

(共)「それならミーシャにはもっと【ホヤッキー】や【魔ボヤ】を渡してあげないと……だね。」

うぐっ……、墓穴を掘ったか!? そこにまさかの【ホヤッキー】。最近すっかりその存在を忘れていたというのに。

(共)「オロール先生、【シリマ石】をアクセサリーに加工してもらうのには何処に依頼すればいいと思います?」

(共)「おや、懇意にしている職人はいないのかい?」

(共)「いると言えばいますけど」

(共)「そこに出すのが一番だろ?」

(共)「少し不安で」

(共)「技術がかい?」

(共)「いえ……技術じゃなくて、 「いい石持ってるな」 って狙ってくるので」

(共)「取られたことがあるのかい?」

(共)「いえ、まだ取られてはいないんですねど、ボクの手持ちの石が狙われているのは確かです」

狙われているのはアンディーの石なんですけどね。狙われるのが怖くてアリさんの石も【 運魔(ウマ) 石】もラルフロ=レーンさんには見せてないもん。

(共)「強化石専門店にアクセサリー加工依頼で持ち込むか、宝飾系の職人に持ち込むか。悩み過ぎる前に商業ギルドに相談する手もあるね」

(共)「強化石専門店の方に聞いてみるのが良さそうですね。最近、その方からお仕事を貰ったんです」

(共)「だったらそこに持ち込むのがいいんじゃないか? 加工代を通常の倍も支払えば良くしてもらえるだろうよ」

となると強化石繋がりでジョンノ=レーンさんに聞いてみるのがいいかな。そのままラルフロ=レーンさんに加工のたらい回しをされる可能性はあるけどね。

(共)「そうですね。その線から当たってみます」

(共)「自分でどうこうしようと考えるんじゃないよ。パンはパン屋、アクセサリーは細工職人だからね」

先にリンド=バーグさんとアリサお姉ちゃんに相談して、その後にジョンノ=レーンさんに見せて…だな。松茸狩りの段取りもあるから今日は早上がりしておこう。

(共)「オロール先生、今日は早目に作業を修了して【シリマ石】の相談にいってきます。夕飯と言うかお風呂の時間までには戻ります」

(共)「いいよ、今から行っておいで。それと布端の処理に使う木綿糸と麻糸、それはどこの店の品でもいいから買っておくんだよ。針は購買売りの一般品質の物でいいよ。後、折れ針入れの瓶を買っておくんだよ」

危ない、糸がなくて稼げなくなるところだった。