作品タイトル不明
第438話
下拵えは完了した。後はミケヲさんの目の前で調理するだけだ。ドジョウの柳川鍋、きんぴらゴボウ、【渓流 鰮(いわし) 】のヒレ酒にペペロンチーノ。後はアレだ、【銘菓・ヒドラ饅頭】。
「そうそう、来月になったら今年最後の魔石採りに行ってくるから。一の週いっぱいぐらいの予定だよ」
「分かりました。だったらアリサお姉ちゃんの家に行かないほうが良いですよね?」
「別に泊まりに行ってもいいよ。でもリンドが鍛冶三昧だと思うから塩対応されそうかな」
「今回はどんな魔獣を倒す予定なんですか」
「うーん、ゴブリンは定番として、 隠れ穴熊(バジャー) と 突撃猪(アタック・ボア) 、 葡萄狐(グレープ・フォックス) 、 山魔(ヤマ) 鳩(バト) はちょっと無理かな?」
「ホーンラビットが狙い辛いのも困りものですよね」
「それね。困るんだよなぁ…。あ、 山魔(ヤマ) 楝蛇(カガシ) も獲るよ。マンバは獲らない」
どれも微妙な魔獣らしい。小さな魔石で凌ぎつつ、サイズの大きい物は交易で手に入れるから何とかなるのだという。
「小さい魔石でも並べ方で中サイズと同じくらいの魔力を出せるんだよね。昔の転生者でディンジ=ローウンという錬金術師が縦並びと横並びの秘術を生み出したのって凄いよね。もう秘術でもなんでもないけどね」
それは並列繋ぎとか直列繋ぎというものじゃないですか?
ミケヲさんが到着するまで少し時間が有ったのでアンディーとカトリーヌにオヤツを与えることにした。俺達だけお昼ご飯を食べたら恨まれそうだもんな。
「カトリーヌちゃんって拭き草食べる子?」
「好きみたいです。食べようとしました」
「魔獣にとっては美味しいのかもしれないけど、私達には微妙だよね」
「そうですね」
「ミーシャちゃん、試さなくていいからね」
うっ、先手を打たれた。
「そうだ、アリサお姉ちゃんって【 天河石(テンガ) 】の強化石って使った事ありますか?」
「えっ、【テンガ】だったら冒険者ランクの低い時はお世話になったよ。今でも有れば使うけどね。どうしたの?」
「あ、カーン=エーツさんから強化値がゼロの【 天河石(テンガ) 】を渡されました。強化石だったらどんな感じの修正が掛かるのか知りたかったので」
「あ、そういう事か。身体強化の方は底力が上る感じて、精神強化の方は悩まなくなるというか、思考がクリアになる感じかな。便利だよ。流石にA級冒険者は使わないと思うけど。その強化値ゼロの【テンガ】は何に使うの?」
「多分、今カーン=エーツさんが売り込みに行ってるヒト族の男女の出会いイベントで売ろうとしているアクセサリーに嵌め込むんだと思います。前に【黒薔薇】に成りかけと【百合の 星留(ホシル) 】を研磨しました」
「うん、ヒト族向けって感じ」
「小銭を稼げるし、研磨の練習になるからいいかな…って感じです」
「その調子で【 血肉石(コルネリア) 】もヨロシク」
「はい。そう思ってた矢先に岩塩で倒れましたけどね……、あっ、忘れてた!」
「どうしたの?」
「豆を茹でてない」
「豆?」
「はい、実験で作った【 蔓野豆(ツルノマメ) 】のヒョロヒョロ発芽と、水に浸しておいた【 増筋(ぞうきん) 豆】です」
「これまた変な実験だね」
「はい。餌用の実験なんです」
嘘です!! 俺が食べたくて実験しました。取り敢えずお湯を沸かして湯がいておこう。
「これはまだ双葉になってないんだ。でも、こんなに伸びるものなの?」
「暗い所で伸ばしました。この伸びた茎を食べさせるんです」
「【 増筋(ぞうきん) 豆】ってこの状態の物は初めて見たな」
「そうなんですね」
「だってドワーフは食べないからね。まさかミーシャちゃん……」
「毒ではないので、アンディー達に与える餌の味の確認で試食しますよ」
「偉いなぁ。だから従魔に懐かれるんだね」
「はは……」
嘘です!! 本当は俺が食べたいんです!!
茹で終わったモヤシ?と豆を試食する。推定=豆モヤシと水煮大豆に似た食べ物だ。これ、日本人なら食える。味が付いてないからバクバクとは食えないけど、 「素材の味が生きてますね」 って表現される状態だ。
「どうだった?」
「普通に食べられます。味は何も付いてませんけど」
「そりゃぁ餌だもん」
「煮た【 増筋(ぞうきん) 豆】は潰したらいい餌になりそうです。アンディーもカトリーヌも食べてごらん」
そう言って二粒ずつ与えてみる。過剰摂取させるのが怖いので二粒だ。
ムキュウ
(「おいちいの」)
プピッ
「あ、従魔的には美味しいんだね」
「アリサお姉ちゃんも試食します?」
「遠慮しておきます」
そうこうしているうちにミケヲさんと従者さん達が到着した。前世の感覚だと要人と会談するのが商業ギルドってのも妙な気もするが、セキュリティが一番整っているのが商業ギルドか錬金術ギルド、次いで冒険者ギルドなんだから仕方ない。魔法等による不意の爆発なんかの危険性を考えたら商業ギルドが一番安全だった。大使館なんて無いしな。
一応、俺とパイクお義祖父さま、名誉猫獣人と従名誉猫獣人への紋章授与の名目で来訪という事らしい。後、そのモチーフになった元ネタの道具の開発の為の対談ね。単にコタツを作ろうの会だとも言う。コタツにミカンもいいけど、卓上コンロで鍋もいいよなぁ。