作品タイトル不明
第299話
気付いたら『 鉱坑(こうこう) 息子』のメンバーが一人『スワロー』に向かって出て行ってしまっていた。これ、炭焼き組は今夜だけでなく明日の朝食も拭き草の茎料理になるって事じゃないのか? いつ馬車を引いてここに戻ってくるか分からないけど、食事の買い出しと配達の依頼をしてないよ。俺は『スワロー』に戻るからいいけど、皆そこに気付いてる?
「葉は切ったから『浄化』を掛けて干しておくぞ」
「お湯が沸いたら茎を茹でておいてね」
「【リュートの樹】があったから、葉っぱでお茶を淹れるー」
「学生さん、料理は何人分必要なの?」
「一、二……八、九……十一。十一人です」
「拭き草の茎と細切りラザニア入りスープと 重曹(ナトロン) パンだけで御免ね」
「ありがとうございます」
「あの、料理の配達依頼をするのはどうすればいいんですか?」
「今からだと明日の朝食分からだね」
「茹で芋と拭き草の茎を入れたミネストローネで良ければ、明日の朝は『 脈(みゃく) 見役(みやく) 』で提供できるけど」
「職校側の持参保存食は堅焼きパンと干し肉だ。個々で食べたい物を発注するのは一向に構わないからな」
「私達も拭き草の茎の調理の準備をしよう」
「【ポキポキ草】も採ってきてるし【食用マンドラゴラ】も持ってきているのです」
「うちらは野草の温サラダを作るさかい、欲しい人は予め教えといてな」
「俺たちは麺みたいに細長く切った拭き草の茎とパスタを使ってスープパスタにする。後は 桑(マルベリー) の葉で淹れたお茶だ」
うん、見事に蕗料理だ。流石に蕗の葉で蛙を包んで焼いたりはしないみたいだけど。いい加減、陽が傾いてきた。そろそろ職校に戻ってお風呂に入りたい気分。皆には悪いけど、食堂でマヨトーストでエールを飲もうと思っている。
「明日は薪を拾いに行くけど学生さんで同行したい人はいる?」
「あっ、俺行きまーす」
「じゃあピーターは薪の番は早番で頼む」
「ボクはもう少ししたら帰ります。皆さん炭焼き窯を宜しくお願いします」
「ミーシャ、俺達に任せとけ」
「パートさん、後で拭き草の茎料理の感想を教えてね」
「ミーシャさんも食べていけばいいのに…」
余計な一言を言ったか!? …と思っていたら後方でバサバサと何かがはためく様な音がした。そして、ギュ〜ン という謎の鳴き声。
ギュ〜 ギュキュウ〜
……ボテッ ある日突然、空から謎の座布団が降ってきた……。
ギュ〜 ムキュウ〜
謎の座布団が俺に迫る。座布団、地面を走るの下手くそだぞ。仕方ないか、座布団だしな。そして座布団はいきなりダッシュしたかと思うと俺の背中を駆け登った。背中に座布団。うん、暖かいな…。
キュウ キュウ キュウ ムキュウ
「えっ!? 座布団が ボクに……たすけて」
ムキュウ キュウ
俺の背中で謎の鳴き声を出し続ける座布団。どうしよう、これ……。
(「ヒヒーン ヒンヒン ブルッ 権限、貸すからお話し…してみて」)
(「ムキュウ キュウ おうまさん ことば かりるの」)
(「ミーシャ、お話ししてみて」)
(「えっ!? ワギュ? 何???」)
(「たちけて… たちゅけて…」)
ワギュが念話の権利を座布団に貸与した模様。と言うわけで今俺に向けて語りかけてくるのは背中に張り付いている座布団。助けてって言ってるけど俺のほうが助けて欲しい!!
(「あたち、カーバンクル。でも、あたちの カーバンクル石(カーバンクライト) きもちわるいって」)
(「カーバンクル!? 君はカーバンクルなの?」)
(「あたち、カーバンクル。ドワーフ、あなた まじゅうのにおい してる」)
(「おっ、落ち着いて」)
「あの、ボクの背中に座布団がいるんですけど、カーバンクルらしいんです」
「はあっ?」
「それ、カーバンクルなのか? 飛びリスじゃなくて?」
(「ドワーフ、あたちの石 あげる」)
(「ボクに? くれるの?」)
(「あげる あげる あげる あたちの石 あげるの」)
背中の座布団カーバンクルが俺の頭に移動してくる。バランスを崩しそうになり思わず頭に手をやると、右手の中にゴロリと硬いものが転がり込んできた。
えっ!? 思わず右手を離して手の中の硬いものを確認する。そこにはゴツゴツした不定形で茶色いような黒いような謎の石が一粒。
(「あげる あげる あげる あたちの石 あげるの」)
左手にまた硬いものが転がり込んで来る。あ…鑑定!!
(簡易) カーバンクル石(カーバンクライト) : カーバンクルの額にある石。
(鑑定) カーバンクル石(カーバンクライト) : グライダー・カーバンクルの額にある石。アンドラダイト・タイプ。
グライダー・カーバンクル!? 亜種ってこと??? そしてアンドラダイトってことは、もしかしなくてもレインボーガーネットか!! カーバンクルの額の石はガーネットだと言われていたり…だったよね。つまり……気持ち悪い石って表現は、これがレインボーガーネットだから!!
「あ、カーバンクルさん、そんなに石を出さなくてもいいよ。ボクにくれるなら一粒でいいから」
(「あげる あげる あげる あたちの石 あげるの」)
「貰っていいの? ありがとう。ボク大事にするから、もう泣かないで」
ムキュウ キュウ キュウ
「素敵な石だよ」
キュウ キュウ
いきなりアンドラダイト・ガーネット。どんなご褒美だよ!! 結晶が薄い積層構造で成長した結果、虹色の干渉が出るんだったっけ。確かに、真っ赤なカーバンクル石になるかと思って磨いたら、オパールも真っ青な遊色効果というか多色が見える石になれば気持ち悪いと思われても仕方ないかもしれない。ヤバい、この石、今直ぐ磨きたい。
(「ますたー ますたー よろちく」)
(「ミーシャちゃん、仲良くなったのね」)
(「あたち なかよし」)
(「えっ、ワギュ?」)
(「ほら、ミーシャちゃんはカーバンクルから石を貰ったから…」)
「あの…この子、座布団じゃなくてグライダー・カーバンクルです。仲良くなりました」
「え……」
「マジ?」
「レディはテイマーなのかな?」
「いや、テイマースキルは持ってません」
「ミーシャ=ニイトラックバーグ、炭焼きはいいから今直ぐ冒険者ギルドに行ってこい!! 従魔登録のやり方は分かるか?」
「あ、はい。【 運魔(ウマ) 】と同じなら多分…」
「ちょっと違うかな」
違うんかーい!!