作品タイトル不明
第269話
来月、十一の月は学園の学生寮に泊まってみる事にした。オロール先生も居ないことだし夕飯もこちらで食べてみようかな。口に合わなかったら職校で食べよう。学園の寮に泊まる目的はカレー実験のため一択。学園には学生用の魔法薬実験室というものがあるのだ。事前に利用申請は必要だけど、誰に気兼ねすることも無くスパイシーな粉を調合する実験が出来ます。持ち込む薬品、薬草のリストを事前に提出しておかなくてはいけないけど。まぁカレーの材料は危険なものではないハズだし。その為にも薬草学の授業に何度か出席して薬種実験を許可してもらえる様にしておかないとダメだけどね。となったら職校の講義は炭焼きの実地と針打ちだけ参加して、今月は学園の授業に混ざってみるとするか。
頑張る。俺、頑張るぞ。カレーの為に白米と蕎麦も手に入れないと…。ウドンとナンは何とかなる。米も蕎麦もアテはある。そこにコネというか人脈が上手く繋がらないだけで穀物情報はあるからね。手っ取り早いのは商業ギルドというかカーン=エーツさんを利用する事だとは思っている。とは言っても会いたい時に会えないのがなぁ…。今はあの人、ウサギの耳になる為に奔走しているハズだし。ラルフロ=レーンさんといいカーン=エーツさんといい、利用したいけどあまりお近付きになりたくない系なのが何とも残念だよなぁ…。
そんな事を考えながら商業ギルドに戻ったらカーン=エーツさんの姿が見えた。
「カーン=エーツさんこんにちは。儲かりまっか?」
「おやミーシャはん、ボチボチでんなぁ…」
「例のホーンラビットの耳のカチューシャはどうなりました?」
「あ、アレな。兎の人もノリノリやって、ヒト族向けに商品化が決まりましたわ。それだけやあらへん。鮫の人も一枚かんでくれましてん」
「それは良かったですね」
「もう、毛皮の加工場が大変ですわ」
「で、価格は決まったんですか?」
「有り得へんレベルの安売りですわ。俺とラルフロ=レーンとミーシャはんに、メッチャ薄っす〜い権利金が入ってくんねんで」
「それって転売されません? もしくは偽物を作られてボッタクリ価格で売られるとか」
「それ、封じときましたわ。価格の中に神さんへのお賽銭をものゴッツ入れときましたん。パチモン作って売ったら神さんのバチが当たりますわ。そいつ、多分禿げるんとちゃいます?」
「うっわ〜、エグっっ」
「どや、エグい仕掛けやろ? 兎の人も鮫の人も過去のアレコレで信心深うなっとるし。信心も大事やけど、神さんへのお供えとかお賽銭はもっと大事やで」
商品名、兎耳カチューシャは【ハニー・バニー】になりそうなんだとか。 “ 愛しのウサちゃん ” って意味なんだって。後一ヶ月もすればヒト族領内で売り出されるのか。売れればいいよね。
「売れればいいですね」
「その辺りは何とかしますわ。 商人(あきんど) やら舞台女優やら、新しモン好きは仰山おるんで」
「流石カーン=エーツさん。顔が広いんですね」
「そないなことよりミーシャはん、お土産の【大蛇魚】食うてくれました?」
「えっ!? 【大蛇魚】ですか? ボクにお土産?」
「あっちゃーー、支部長なにしてくれてんの」
「何日か前にリンド=バーグさんとガルフ=トングさんが連名で【蛇魚】の仲間の収集を商業ギルドに依頼したのは聞いてましたが」
「【大蛇魚】、それとはちゃうねん。俺、二週目の十の日か三週目の一の日に一回戻って来てるんよ。そん時にミーシャはんにお土産やー、って商業ギルドの保管冷蔵庫に預けたんや。ミーシャはんに渡してもらうまで毎日預かり賃を払うとんねん」
「それ、ボク貰ってないですからね……」
「あんのボケが……。預け賃でエラい損しとるがな」
「今月最後の日に【蛇魚】の仲間の試食会をするのでそこで使わせてもらいます。それに依頼の中に【大蛇魚】もあるハズだから、もしかしたらカーン=エーツさんは損してないかもしれませんよ?」
「だったらええんやけど……、えっ!? お土産預けたんは依頼前やからノーカンやて???」
哀れ、カーン=エーツさん。
「そうだ、十の日にお時間があれば【蛇魚】の仲間の試食会に参加しませんか?」
「その日はアカンのよ。よりによってラルフロ=レーンと打ち合わせや」
「残念です」
「ラルフロ=レーンとガラス瓶の相談すんねんで」
「ガラス瓶ですか」
「それ、拭き草の茎を入れる瓶なんやけどな…。 木栓(コルク) も増産してもらわなアカンのよ。農業ギルドに行って……はぁ」
「お疲れ様です。【鉱夫飴】食べます?」
「おおきに。って、それええネタですやん。飴ちゃんあげるなーって【鉱夫飴】を渡したらお試ししてもらえますやん」
「だったら配る用の【鉱夫飴】には百粒に一つ程度『レアモン』って特別な形の飴を混ぜて、それを商人さんから貰えたら超ラッキーみたいな事にしたらいいんじゃないですか?」
「ミーシャはん、悪どいなぁ。買っても出てこない『レアモン』、 嫌(や) らしいわー、 面白(おもろ) いわー。『レアモン』はともかく、明日から飴ちゃん配らせて貰いますわ。商業ギルド支部長、おる〜?」
それ以降、独特の商人言葉を話す商人達が「飴ちゃんあげるなー」と言いながら【鉱夫飴】を配る姿が『ハポン=ヤポン』国内で見られる様になるのだった。