作品タイトル不明
第231話
オロール先生から出された課題は “ 【 魔松(マツ) 】の枝を磨く練習をすること ” だった。刺し子の授業と全く関係ないんだけど…。表皮を剥いた木材の、表面から芯材までの部分に魔力を流す通り道『魔導管』と使用者の思念を伝える『 思管(しかん) 』があり、それを整える様に研磨しなくてはいけないのだという。材ごとに性質も性格も違うので、そこを見極めながら魔力の通り道を整えるのが魔銘木の製材の基本なのだと。俺はまだトマホークの柄用の細い枝を扱うだけだからそこまで難しくはないそうだけど、柱や建材になるくらいの太さの魔銘木だと調整も大変なのだとか。
(共)「本当はエルフが得意な作業なんだけどね……、エルフに発注するのも何だか癪だからミーシャに頼んだんだよ」
とか何とか勝手なことを言っていた様な気がするけれど、俺としては鉱石以外を磨くのも試してみたいから全然OKです。
(共)「そうそう、材に魔力が通るって感覚が分からないかもしれないからね、これを渡してあげよう。【妄想タケ】と【 駆魔(クマ) ササ】という植物の茎だよ。魔法使いのヒヨッコの杖に使うやつだね。【妄想タケ】は思念の通り道が分かり易い植物で、【 駆魔(クマ) ササ】は魔力の通り道が分かり易い植物だよ。まぁ、鑑定して色々試してみればいいだろうね。沢山あるから返さなくて構わないよ」
(共)「ありがとうございます」
(共)「そうだ、どうせなら【 念魔駆(ネンマガリ) タケ】も渡しておくか。【妄想タケ】や【 駆魔(クマ) ササ】は素直なんだけどね…、こっちはクセモノだよ。まぁ魔力も思念も簡単には流れない。その代わり整ったら良い魔法使い用の杖になる。違いを知るにはいいだろうからね」
謎の植物というか、見た目は前世の竹にそっくりな節のある、直径が三センチメートルくらいで長さが一メートルくらいの緑色をした棒を渡された。もしこれが本当に前世の竹の仲間ならば筍があるかもしれない。
オロール先生は今すぐにでも地元『ブルー=フォレスト』に行きたいみたいなんだけど、【黒猫印の配送便】の同伴転送の手配やら何やらの関係で出立までには数日かかる模様。先に長に宛てて書簡は出したとのこと。冷やかしだと思われないように商業ギルド支部長さんからの正式な依頼書も一緒にしたって言ってたな。
そんな皆がバタバタと過ごしている中、商業ギルドの調理室を使う許可が下りた。二週目九の日の午後三時から午後五時までの二時間のみ。どうせ蒲焼きを作るだけだからなぁ…。折角だから焼き鳥(タレ味)も焼くか。醤油仲間ということでオロール先生も巻き込もう。
暦は一週間が十日で、一ヶ月は第一週から第三週まである訳なんだけど、ドワーフ族には特に何日目が休みとかの決まりは無い。一応、毎週十の日が休息日扱いではあるが、職業や個々の作業状況で休息日が変動するから厳密に決められなかったのが理由らしい。まぁ、他種族との兼ね合いや作業効率やらを考慮して五の日と十の日を休息日にするドワーフが多いのは確か。ちなみに一年は三百六十日なんだけど、奇数年から偶数年に移る時に十日間の調整月が発生する。奇数年の年末に五日、偶数年の年始に五日割り込む形の暦調整で、この十日間は全種族一律休日になる。暦の神様が二年に一度十日間お休みを取る週で、公式な呼び名は『 暦休月(れききゅうづき) 』。今年はその『 暦休月(れききゅうづき) 』が年末に来る年だ。
何だかんだ悩んだ【 魔海鞘(まボヤ) 】の研磨に使うライン引き用のチョークは、建築や鉱山用の『耐水チョーク』が最適解だった。耐水と言われているけどしっかり水洗いすれば落とすことは可能。簡単に落とすのなら白スライムに頼るんだろうけどね。なので、職校の購買部で購入した。チョークのコレクションをしているみたいになってきたぞ。
コカコッコの蹴爪にも使えるけど色味的に見辛いので【 魔墨(イカスミ) 】でボタンにする為の裁断ラインを引いておく。それでも何の練習もなくいきなり切る勇気はないので、アクセサリー用に売られていた猪の牙で練習をしてみることにした。本来、猪の牙は中が中空なんだけど、売られていた牙には【魔 膠(にかわ) 】が流し込まれていた。『 鋸(ソーン) 山荒(・ポーキュパイン) 』の針を糸鋸の刃に使って裁断し断面を整えてみた。こんな感じで切ればいいなら蹴爪も大丈夫そうな気がする。
「ホーンラビットの角は無いんですか?」
「ごめんなさいね。ホーンラビットの角はヒト族の需要が多くて春まで入ってこないのよ」
購買部の職員さんにそう返されてしまった。十二の月から二の月にかけてはヒト族の男性が女性に恋のアピールをするイベントのある月だとのこと。ホーンラビットは繁殖力と突撃力の象徴。そのホーンラビットの角が恋愛成就の験担ぎのお守りとしてヒト族の男性に需要が高まる時期なのだという。ちなみに、ホーンラビットの尻尾はヒト族の女性に人気の魅力度が上がる装備品の材料で、ホーンラビットの前脚は幸運度の上がる装備品の材料だ。
うん、これは材料が手に入ればヒト族の男性相手にひと稼ぎ出来そうな予感。【愛の囁き】ことロードナイトとセットにするとか? 女性向けなら尻尾とローズクォーツあたりを組み合わせればいいのかな? ラルフロ=レーンさんかカーン=エーツさんに相談してみるか。