軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話

刺し子の運針の練習は一ヶ月くらい続くので手の空いた時に手を動かしていればいいと言われた。布巾を量産していても飽きるだけなので、木綿の布袋に運針することになった。薄手の柔らかい平織りの木綿布、いわゆるガーゼっぽい布を複数枚重ねて巾着袋に仕立てたものに刺し子を施す…といっても並縫いをチクチクしていくだけなんだけどね。前世のアジアンショップでそんな袋を見た様な記憶があるぞ。

(共)「滅多に複数枚の布を重ねたものに古代エルフの刺し子はやらないんだけどね、糸を引く練習にはいいだろうよ。糸を引きすぎたら布が つ(・) る(・) し、日和って引かなすぎだと糸が浮いて布が不安定になる。糸こき、つまり布を 扱(しご) いてやれば つ(・) れ(・) は緩むが、やりすぎたら布が傷むよ。まぁ、実際に刺してみることだね」

(共)「はい、頑張ります」

(共)「沢山作っておくれ。完成品は『手習いポーチ』という商品名で冒険者ギルドに卸ろされるんだ。まぁ、ヒト族の販売網に乗せるから売れ残らないよ」

注意事項は、縫い糸が抜けない為の玉留めを布の表に出さない様に始末すること。針で指を突いてしまった時に出る血で布を汚さないこと。巾着袋に縫い針を残さないこと。この三点。

一つ作ると銅貨一枚の工賃が貰える。それを商業ギルドが銅貨五枚で買い取り、ヒト族の冒険者ギルドに銅貨七枚で卸し、冒険者には銀貨一枚で売っているのだとか。ちなみに、原価が銅貨三枚。職校には銅貨一枚、オロール先生には銅貨一枚のマージンが入る。工賃ショボって感じだけど、慣れたら一時間で五〜六袋に手習い運針を施せるので、二〜三時間も手を動かしていたら夕飯のエール代くらいは稼げる。縫っても縫ってもオロール先生のエール代に化けるんでしょ? 俺、知ってる。

俺に入る工賃は商業ギルドから振り込まれるんだって。誰が何を何枚納品したのか商業ギルドがチェックしてる訳か。

(共)「巾着袋の他にもね、クロースアーマーやらローブやら、敷物だ布団だ、縫うものを変えていくらでも手習いは出来る。誰かの仕事を奪うとかの心配は一切ないから安心しておくれ」

オロール先生は相変わらず「手習いした物は売れるから安心しろ」と言ってくるけど、それって本当? 今一つ信用出来ないんだけど…。まぁ、小銭とはいえ工賃は稼げるから許す。

その傍らで、オロール先生は 本(・) 物(・) の刺し子を刺し始める。パット見で四十センチ四方の布をチクチクと刺し始める。

(共)「それは何ですか?」

(共)「ランチョンマットだよ。魔麻布に魔綿糸、基本の魔導刺繍のセッティングだ。これを敷いて食事をすると軽い毒までだったら無効化出来る…という模様を刺すよ」

(共)「凄い!!」

(共)「これがまた、お貴族様相手にいい小遣い稼ぎになる。テーブルクロスとセットにしたら時間は掛かるが儲けの額は格段に上がる」

そんな雑談を交わしながらチクチクと刺していく。

(共)「ほら、口は動かしていいから手は止めない!!」

朝イチの講義が刺し子。空き時間とお昼ご飯を挟み、午後イチの講義が 小(しょう) 鍛冶師の包丁砥ぎの実演なので、それまでは巾着を刺すか昨日の琥珀の研磨の続きにするかの二択です。

コンコン 「ミーシャ=ニイトラックバーグはいたかね?」

「はい、ボクはここです」

「午後一時から大会議に出席するようにと商業ギルドより連絡がきている。会場は商業ギルドの大会議室だ。失礼のない格好で行く様に。まぁ職校ツナギで何の問題もないがな。あと、学生証を出したら課外授業に出席扱いになるので極力提出するように」

うん、予定外だよ。オロール先生は「一年あたりの稼ぎを確定しておいで」とニコニコしながら送り出そうとしているし。夕方までに琥珀の研磨を進めておきたかったから、刺し子の講義が終了したら速攻で出来るだけ磨こう。学園帰りにラルフロ=レーンさんにコカコッコの蹴爪と特売の琥珀を見せようと思っているのだ。でも、ラルフロ=レーンさんの工房には独りで行きたくない…のでリンド=バーグさんに付き添ってもらうことになっている。アポ取りはリンド=バーグさんにお願いしてあるよ。そうそう、パート君、包丁研磨の晒し者役、頑張れ!!

さて、琥珀だ琥珀。一号こと虫入り?琥珀はだいぶ表面の脱水由来のクラックを消せた。気持ち残っているのは仕方ないか…。二号のかりん糖っぽいのは表面を整えただけで保留中。三号のブルーアンバーかもしれない切り餅は六面全部綺麗にしたよ。ノートにメモも記入したし、コカコッコの蹴爪のスケッチもしてある。【 魔海鞘(まボヤ) 】も一つだけはスケッチした。そうだ、刺し子の記録ノートも作ろう。琥珀と蹴爪は『キーボックス』に仕舞い、ノートと画材、【ホヤッキー】と【 魔海鞘(まボヤ) 】は鞄に突っ込む。当然だけど出かける時は色鉛筆タイプが楽。いつかカラーインクの水性ペンみたいのが出てくれたら嬉しい。

お昼ご飯をサッと済ませ、商業ギルドへ向かう。まぁご近所なので大慌てで移動しなくてもよいんだけど、やっぱ十分前行動だよな。