作品タイトル不明
740.こっそり行ってあっさり
馬車の中では落ち着かなくて、首を出そうとして止められた。
「アマーリア、バレてしまうぞ」
「そうだけれど、気になるじゃない」
言葉が崩れても叱る者がいない。揺られながら、クラネルト子爵令嬢の情報をお浚いした。昨日、ヘンリック様が持ち帰ってくれたの。王宮の資料だから、性格などの情報は少ない。
クラネルト子爵家は、先代……つまり子爵令嬢の祖父の代に男爵家から 陞爵(しょうしゃく) している。領地を大きく発展させ、立派な街道を通した。そのことで、周辺の領地も潤って税収が増えたのね。王家から見ても目立つ家だったようで、すぐに声がかかった。
クラネルト子爵家は男爵家だった頃から、評判が良かったそうよ。夫妻の穏やかな性格に惹かれて、上位の貴族からよく誘いがあったらしい。夜会や晩餐会は政治的な意味合いが強いから、家の格や役割を基準に呼ぶ。でもお茶会や朗読会などは、奥様達の社交だった。
家同士の繋がりを強くするため、派閥の貴族を呼ぶこともある。同時に、私的なお茶会として気の合う人を呼ぶ場合もあった。クラネルト男爵家が呼ばれたのは、私的な集まりばかり。侯爵夫人や伯爵夫人から誘われるのは、レギーナ嬢の祖母が一緒にいたいと願われる人だったのね。
子爵家になって領地が大きくなっても贅沢をせず、堅実な領地運営を続けたらしい。
ケンプフェルト公爵家にいるけれど、ユリアーナの肩書きは「シュミット伯爵令嬢」だわ。子爵令嬢となら、格差の心配もない。仲良くなれて、いい友人としての付き合いが始まるのが理想ね。
「アマーリア、止まるぞ」
言葉と同時に引き寄せられ、ヘンリック様の胸に倒れ込む。停車の衝撃はなく、静かに揺れが止まった。二人で移動して窓から覗く。上下に棒の入った目隠し布が固定されているため、ずらして隙間から目を凝らした。
「あのお店ね……あっ、ハンナ様だわ」
左側に視線を動かしたら、見覚えのある馬車が停まっていた。その窓から見える夫人の後ろ姿、首が伸びて引っ込めて……すごく共感してしまう。
「合流しよう」
「ええ。そうね」
御者に馬車の向きを変えてもらい、裏側になった扉から外へ出る。音を立てないよう移動して、ティール侯爵家の馬車に近づいた。すぐに護衛の騎士が取り次いでくれる。降りてきて挨拶を交わしていたら、聞き慣れた声が飛んできた。
「お姉様とオイゲンのお母様も、え? お義兄様や侯爵様まで!」
何をしているのと聞かないのは偉い。理由はとっくに気づいているんですもの。腰に手を当てて怒っていますよ、と示す妹ユリアーナの姿に眉尻を下げた。
「ごめんなさい……気になって」
私達ケンプフェルト公爵夫妻とティール侯爵夫妻を前に、呆れたと溜め息を吐く令嬢……すごく目立っているけれど、いいのかしら?