作品タイトル不明
706.お見舞いは手短に
どうしても外せない会議がある。残念そうにそう告げて、ヘンリック様は王宮へ向かった。今日の会議にバルシュミューデ公爵が同席する予定と聞いて、伝言を頼む。ラルフも体調不良で心細いだろうから、手紙でもいいから送ってほしいと。
「そうだな、きっと喜ぶだろう」
ヘンリック様はそう笑って伝言役を引き受けてくれた。見送ったら、皆でラルフの様子を見に行く。食事は卵粥のはずよ。前世の記憶で作り方を教えた料理長が「栄養のある療養食」とメモしていたから、間違いないわ。
ラルフは横になっていた。近づくと気づいて起きようとする。
「ダメよ、寝ていて」
「らめぉ!」
レオンと手を繋いだローズが真似する。でもラルフが見えないのが不満で、唇を尖らせた。こればかりはレオンでは無理なので、私が……と思ったらユリアーナが抱き上げる。
「お姉様は以前に腰を痛めたでしょう? お父様と一緒で再発するわよ」
この年齢で腰の心配をされてしまったわ。苦笑いして、素直に引く。無理を通してもいいことないもの。ユリアーナが抱き上げたローズが、足を揺らした。靴を脱いで乗りたいのね?
「ローズ、ベッドに乗るのはダメよ」
言い聞かせる間に、壁際で控えるリリーが椅子を用意した。ユリアーナがその上にローズを下ろす。座ったことで目線が高くなり、ラルフが見えるのでローズもそれ以上ごねない。見ていた侍従がもう一つ椅子を用意した。
「あら、レオンの分ね」
目を輝かせたレオンが「ありがと」とお礼を言ってよじ登る。大人用の椅子は少し高くて、頑張るレオンのお尻を侍従が支えた。お陰で安全に登れたわ。微笑んで小さく頷いた。
「助かったわ」
一言添えて、椅子の背もたれに手をかける。
「朝食は食べられた?」
「はい」
声が掠れている。視線を走らせたサイドテーブルには水、果物が用意されていた。問題なさそう。
「ぼくね、卵だった」
レオンがにこにこと会話を続ける。朝食のおかずの話に、ラルフも口を開いた。どうやらお粥にスクランブルエッグを乗せたのね。私達の朝食用に作った卵を乗せるのは、いいアイディアだわ。卵を避けて食べることもできるから。
好き嫌いの把握が完全じゃない相手に作るなら、調整できる料理は最適だもの。少し話して、ラルフが大きく息を吐いたところで切り上げる。残念そうなレオンとローズに「今日はここまで。また明日ね」と言い聞かせた。
「今日はレオンやローズと過ごすわ。だからお姉様は看病してあげて」
ユリアーナの思わぬ提案に、驚いて動きを止める。その間に、ローズとレオンの手を引いて、ユリアーナは扉に向かった。二人とも振り返って、こちらを見ている。
「ランドルフ様が元気になるには、お姉様が必要なの」
我慢できる? と聞かなかった。ラルフが気にするからでしょう。レオンが頷くのを見て、ローズも小さく首を縦に振る。なら、言葉に甘えて……私はラルフのそばにいるわ。ありがとう、ユリアーナ。