作品タイトル不明
630.同じベーコンでも嫌なの!
卵は嫌! 全身で示すローズに、選択肢を示す。
「ローズ、食べたいものはあるかしら? ベーコンとサラダ、スープ、パンよ」
卵料理以外を並べた。先日はサラダが嫌で騒いだけれど、今日も同じとは限らない。ヘンリック様の抱っこは嫌じゃないようで、大人しくこちらに視線を向けた。
「ん!」
持っていたスプーンで指した。でも失礼だしダメね。
「わからないわ」
またイヤイヤが始まるかも。そう思ったのに、ローズは「べぇん」と言葉を声に出した。どうやらベーコンみたいね。フォークで一つ示して「これ?」と尋ねる。私が何をしているか理解できないヘンリック様が、こてりと首を傾げた。なぜか腕の中のローズも傾く。
真似しているの? ふふっと笑い、隣のベーコンを示す。
「こっち?」
「うん」
頷いたローズに左側のベーコンを取り分けた。イヤイヤ期って不思議なのよ。その頃の気持ちは覚えていないから、推測するだけになるけれど。右のベーコンは嫌で、左のベーコンはOKだったりするのよね。自分で選べば、ぐるっと回って同じベーコンでも問題ないことも。
自分が選んだという事実が優先される。あとでヘンリック様にも教えて差し上げたら、ローズを理解しやすくなるでしょう。手元に届いたべーコンをヘンリック様が切り分けたら、それが嫌だと泣き出した。困った顔のヘンリック様が助けを求めてくる。
なぜかしら、大変な場面のはずなのに……おかしくて。口角が上がってしまうの。笑顔になった私に、ヘンリック様は困惑顔。意地悪しているつもりはないけれど、そう見えるのかもね。
「ローズ、自分で切ってみる?」
「ん!」
なんでもやってみたい。上の子がいれば、真似をしたいのよ。その点、レオンはイヤイヤ期の時期に一人だったから、あまり背伸びしなかったのかもしれない。エルヴィンやユリアンが来てからは、何とか同じように出来ないか頑張っていたもの。
ローズは最初からお兄ちゃんがいるから、お兄ちゃんと同じように振る舞いたい。でも無理で、いら立ちが募ってイヤイヤ期が早く来たのね。女の子のほうが精神的な成長が早いことも影響していると思う。
「ローズはお父様と一緒にやってみましょう。レオンも最初は私と一緒に始めたのよ」
比較例を出すと、ローズは大きく頷いた。ヘンリック様が恐る恐る手を出しても、何も言わない。小さな手を添えたナイフとフォークで、綺麗に切り分けた。口に運ばれたベーコンを頬張り、にこにことご機嫌だ。
「ろじぃ、いい子」
食べ終えたレオンが褒めると、嬉しそうに足を揺らした。ヘンリック様の脛が蹴飛ばされているけれど……我慢ね。ここで咎めたら泣くでしょうし。こうして子供の成長を見守りつつ、振り回される夫を見るのは楽しいわ。意地悪じゃなくて、幸せを実感するから。
「そういえば、ユリアーナはどうしたのかしら?」
着替えに行った妹が顔を見せないので、気になって声に出した。今朝は一緒に起きたのよ?
「休みたいと仰って、自室におられます」
侍女の説明に瞬きする。昨夜は普通だったのに、どうしたのかしら? 体調不良かもしれないから、顔を見に行きましょうか。