軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

624.ろじぃ、嫌い、なんない?

ここからの数日、ローズはあれが嫌、これが嫌と大騒ぎを続けた。ヘンリック様もある程度は許したけれど、ユリアーナを叩こうとした手は止める。驚いて固まるローズの手の甲をぺちりと叩いた。さらに大泣きしたけれど、抱っこしたヘンリック様は泣き止むまで待つ。

難しいことを、さらりとしてのけたわね。前世の経験のある私だって困る状態なのに。そう、ローズのイヤイヤ期は稀に見る激しさで……お父様が「これはすごい」と苦笑いしていたわ。

手が触れたら嫌、でも離されたらもっと嫌! そんなこと言われても「じゃあ、どうすればいいのよ」と言いたくなるでしょう? この理不尽さが子育ての本質なのかも。

生まれてすぐは動物状態なのに、一人の人間に育て上げるの。社会のルールや最低限のマナーを教え、やっていいことと悪いことを躾ける。成長すれば楽になる気がするのに、口答えや反抗期のせいでさらに大変さが増すのよ。

子育てを終えたら、その時点でご褒美が欲しいくらいね。貴族夫人は乳母や侍女を雇い、その苦労をお金で回避する。我が家でもそれは可能だった。私がローズやディを完全に乳母に預け、ヘンリック様も距離を置いたら完成。

そんな無責任なことはできないけれど。イヤイヤ期も慣れてきたら可愛いのよ。混乱しているヘンリック様にそう伝えたら「俺はまだそこまでたどり着けない」と肩を落としていた。

「では、執務もありますし……僕達は戻ります」

「生徒が待っているからね」

真面目なエルヴィンは、管理人のオスヴィンが心配なのね。お父様も教室で子供達に文字や計算を教えている。あまり長く留守にしたら、勉強が滞ってしまうわ。お土産に焼き菓子を多めに持たせた。クッキーのように日持ちするものから、ふわふわのスコーンまで。

ユリアーナが侍女達と焼いてくれたの。オイゲンの分も作って、こっそり送ったのも知っているわ。別に知っても揶揄ったりしないのに。恥ずかしかったのかしら?

ティール侯爵夫人であるハンナ様から、丁寧なお礼状が届いてバレた。受け取ったのがフランクだったので、報告を受けてユリアーナに手渡す。開封された封筒に事情を察して、慌てていたわ。

「お父様、エルヴィン。気を付けてね」

「またね、じぃじ、える」

レオンと一緒に見送る。馬車が見えなくなった途端、ローズの泣き声が聞こえた。自分で見送らないと言ったのに、今になって不満を訴えたみたい。仕方ない子ね。

「お母様、ろじぃ……嫌い、なんない?」

「ええ、大好きよ。レオンが同じことをしても、大好き。ラルフやディでも同じね」

誰が我が儘を言って「イヤイヤ」しても大好きと伝えた。不安になった息子は頷いたあと、顔を上げてとんでもない質問をした。

「お父様、でも?」

「っ……そ、そうね。大好きよ」

顔が赤くなるのを両手で隠した。