作品タイトル不明
608.兄妹喧嘩……かしらね?
翌日にはヘンリック様が仕事に出かけた。さすがに王宮の仕事が溜まっていると思うわ。エルヴィンは借りた資料を夢中になって読み耽り、朝が起きられない。後で叱っておきましょう。
なぜかお父様は客間から出てこなかった。心配になってフランクに見に行ってもらったら……なんと! 図書室から借りた本を徹夜で読んだらしいの。こちらもエルヴィンと一緒に叱らないとダメね。珍しい本があるのは知っていたけれど、徹夜は体に悪いわ。
「お父様もお兄様も! しゃんとしてよ!」
私より早く叱りに行ったのは、ユリアーナだった。昨日は夕食に間に合う時間に帰ってきたの。ヴェンデルガルト嬢と刺繍したハンカチの交換をするとか。さすがに徹夜はしなかったユリアーナは、朝食後に二人を叱りに行った。
まだベッドから降りようとすると止められるから、助かったわ。朝食はさすがに車椅子で食堂へ行ったけれど、皆がまだ心配するの。ヘンリック様にも「車椅子を使うように」と懇願されてしまった。
「ぼく、絵かく!」
天気がいいのに、レオンは私達の寝室で絵を描き始めた。皆が褒めるからか、お絵描きが好きなのよ。その隣で、ローズもお絵描きを始めた。
「だめっ! やあ!」
うとうとしていたら、レオンが叫ぶ声が聞こえた。半泣きみたい? 慌てて身を起こそうとして、激痛で呻く。それでも根性で身を起こした。一度横に転がればなんとかなる!
「奥様!」
壁際に控えていたリリーが駆け寄り、声に反応した別の侍女も動き出す。クッションに寄り掛かった私の目に映ったのは……反応に困る光景だった。
ローズは唇を尖らせて機嫌が悪い。その隣で、レオンが紙を抱いて泣いていた。状況を説明するランドルフによれば、レオンが絵を描く隣へローズが座った。仲良く描き始めたが、ローズはだんだんと絵が大きくなり、隣の紙に浸食したのね。
問題は、浸食した先がレオンの絵だったこと。自分ではよく描けたと思ったのか、私に見せる前に上に描かれたのが気に入らないのか。レオンはぼろぼろと涙を零して大泣きしている。
「なんてこと……」
悲しんでいるレオンを慰めて、ローズに言い聞かせて叱る。でもローズはまだ理解しないわ。機嫌よく絵を描いていたら、突然紙を奪われて兄が泣いている。その因果関係がわからないと思うの。
「レオン、こちらに来て」
私が駆け寄って抱きしめられたらよかった。無理をして起きたので、腰の痛みが増した気がするわ。うわぁあ……そんな泣き声で立ち上がろうとするレオンより早く、ローズが走った。その様子を見て、さらにレオンが泣く。
もう……どうしたらいいの? 手が足りないわ。