作品タイトル不明
31-2.(ランドルフ)見える景色が変わった
初めて猫に触れたときは、柔らかくて驚いた。無邪気にじゃれつく子猫は、真っ白だ。昔は足が汚れて黒かったと説明するのは、ユリアーナ嬢だった。アマーリア様の妹君だ。
猫の餌を足すレオンの後ろから「入れすぎ」と笑いながら半分に減らす。猫は綺麗好きな動物だと教えてもらい、驚いた。ネズミを狩るのも、汚いネズミが嫌いだからか? 興味を持って本で調べれば、猫は小鳥もよく狙うと書かれていた。
俺は飼わなかったが、兄上は昔飼っていたな。綺麗な青い羽の鳥で、頭の黄色い毛が飾りのようだった。ある日鳥かごを片付けていたので、理由を尋ねたら……兄上は微笑んだ。
「あの子は自由に空を飛びたかったんだろうね。あっという間に飛んで行ってしまったよ」
少し悲しそうで、でも憧れるような。あの頃は意味が分からなくて、生意気な鳥だと思ったっけ。あれから兄上は小鳥を勧められても、断っていた。
抱き上げた子猫は柔らかくて、ぐにゃぐにゃだ。どこを持てばいいか迷っていたら、使用人が抱き方を説明する。自然と礼を口にした。言い終えてから気づいたが、俺もいつの間にかケンプフェルト公爵家に染まっていたようだ。
感謝や謝罪が自然と口をつくのは、素晴らしいこと。アマーリア様は常々、レオンにそう教えている。隣にいて、俺も覚えたみたいだな。にっこり笑った使用人の嬉しそうな様子に、お礼は無駄じゃなかったと感じる。俺は気分が良くなるし、使用人も嬉しそう。
やっぱりアマーリア様の考えや言葉は、人を幸せにするらしい。
「かぁいい!」
サビーネと呼ばれる黒っぽい子猫を抱いて、レオンは笑う。大きな母猫が一番好きなのだが、触らせてくれない。いつか撫でさせてもらう。目標を決めて、レオンは少しずつ努力していた。こういうところ、俺にはないな。きっと諦めてしまう。
「ぁい!」
名を呼んで、追うが逃げられる。その様子に、使用人が慌てて止めに入った。
「若様、いけません。猫は追われると攻撃します。爪や牙を剥いて、若様を傷つけたら……叱られるのは猫達です」
「……うん」
しょんぼりしながらも、頷くレオンの前で使用人はいきなり這いつくばった。
「こうして目の高さを一緒にして、触れる手前でしばらく隣にいてください。何回か繰り返せば、危険がないと思ってくれます。それと……瞬きも効果的ですよ。こうやって」
実践しながら教えてもらい、レオンは大喜びで絨毯に寝転がった。いや、その絨毯……結構汚れてるぞ? 掃除はしているが、いいのか? いろいろ言いたい言葉を呑み込み、俺は隣で真似をしてみた。見える景色が違う。獣の臭いがするし、毛がつくし……でも、悪くないかな。
走り回る子猫が背中に飛び乗ったり、顔を近づけてきたり。そのたびにレオンは声を立てて笑った。
「いつか、アイに触れるといいな」
「うん! がんばゆ」
頭の中で翻訳しながら、俺は手を伸ばしてレオンの黒髪を撫でる。猫の毛みたいに柔らかかった。