作品タイトル不明
1-3.(ランドルフ)公爵閣下も怖くない
抱き上げたレオンが、俺をじっと見つめる。手招きするから素直に近づいた。
「手、つなんで」
手を繋げ? ときどき言葉が違っているが、もう解読できる。以前は公爵夫人が幼いレオンの言葉を聞き取るのが不思議だったが、今なら俺もできるな。これは慣れが大半だった。あとは推理力か?
「どうしたんだ?」
大好きな母親に抱っこされて、俺を呼ぶ理由がわからない。だが手を伸ばして触れた。握ったレオンが引っ張る。首を傾げながら、また距離を詰めた。
「気が利くのね、レオン」
公爵夫人が褒めたと思ったら、俺の頭は彼女の肩にあった。え? 膝にいたローズは? 慌てて確認すると、腹部に顔を押し付けてぺたんこになっている。レオンの手は離れていた。このために引っ張ったらしい。
「ランドルフ、あなたもまだ子供なの。大人みたいに我慢してはダメよ。我が儘を言えるのは、子供の特権なんだから」
顔を埋めた状態で、中腰が苦しい。でも立ちあがろうとは思わなかった。温もりと甘い香り、それから優しい抱擁。どれも嬉しいと感じた。久しぶりだな……なんて頬が緩む。
「かぁ! ろじゅ、も」
レオンの時よりさらに短い単語を並べるローズは、どうやら代わってほしいようだ。そろそろ譲るか。
「ローズ、順番を待てて偉いわね。その後にレオン、次がもう一回ランドルフよ。最後はディにしましょうね」
そう言われたら、離すしかない。ゆっくり身を起こして、頬を擦り寄せるローズを見守った。頬を緩めて見ていると、公爵閣下が入ってくる。見送りの時に、今日の仕事は少ないと聞いたが、もう終わらせたのか。あの人の少ないは、普通の人の一日分はありそうだ。
疲れた様子もなく、公爵夫人の頬にキスをして挨拶を交わす。それから可愛いローズにも……これは素直に羨ましい。いつか俺もと思ったのがバレた。ぎろりと睨まれ「ローズは嫁にやらないぞ」と一言。
「あらあら。ローズは嫁ぎ遅れそうね」
「遅れるではない。ずっと家に残るんだ」
公爵家の跡取りはレオンだけど、ローズは嫁に行かない。なるほど、爵位が余っているのかも。実家も同じで、複数の爵位がある。俺ももらえる予定だけど……断ったら、ローズと結婚できるかも。
そう考えたら楽しくなってきた。
「……ランドルフ、お前にもやらん」
何も答えずに、にっこりと笑う。理解できなかったフリをしながら、ローズの伸ばした指先を掴んだ。安心しろ、嫁き遅れる前に、俺が攫ってやるからな。公爵夫人の抱擁が終わったローズは、俺の方へ抱きつく。邪魔しようとした公爵閣下に、ローズが「めっ」と声を上げた。
歴代最強の筆頭公爵と言われる人が、泣きそうな顔で俺を睨む。全然怖くないぜ? ローズがいるからな。