作品タイトル不明
542.お父様が選んだ色なの?
今回の主役は、公爵家の離れから引っ越す三人よ。お父様、エルヴィン、ユリアンの支度に侍従達を送り出した。収入源が復活したことで、それなりにお金がある。加えて、ここで私がこっそり払っていた仕事のお金もあるから、そこそこ持っているの。
お父様はそのお金から、今回の衣装を注文していた。私が用意すると言ったら、断られたわ。ヘンリック様に相談したら、別の形で餞別を用意する方法を提案された。信託預金よ。ユリアーナも含めて、それぞれの名前で口座を開いた。
口座名義人以外は引き出しができないけれど、私から入金は可能なの。ユリアーナはまだ一緒に暮らすから、口座を渡すのは後にした。でも四人一緒に告げる予定よ。
意外なことに、衣装は派手だった。お父様のことだから、すごく地味で普段から使える色を選ぶと思ったの。赤や黄色ではないけれど……すごく鮮やかな青よ。
「お父様……思ったより、その……」
なんと表現したらいいかしら。迷って言葉を探す。お父様はからりと明るく笑い、自分で言い放った。
「目立つだろう!」
「ええ、そうね……目立つわ」
大広間に用意した会場ではなく、手前の控え室で目を丸くする。少し恥ずかしそうなエルヴィンと、対照的にユリアンは得意げだった。
南国の海の青さに似た、鮮やかな青は艶のある生地だ。そこへ金の刺繍が入っている。襟と袖、それからボタン回りね。カフスは以前、別邸への旅行で注文したガラス製だった。派手なのに、不思議と落ち着いた雰囲気になるのは、髪色のおかげかしら。
お母様は見事な金髪だったけれど、シュミット家特有のくすんだ金髪が服の鮮やかさを消してしまう。きんきらの眩しい金髪なら、舞台俳優みたいに眩しかったでしょうね。
「おかぁしゃまの、いろ」
ほらっ! 得意げにレオンが私の目を指差す。言われて、驚いた。お父様はしゃがんでレオンと視線を合わせ「そうだよ」と肯定する。
「アマーリアの色だ。それに、ヘンリック殿の色だな」
「おとちゃま、も?」
すごいね。素直に喜ぶレオンは、明るいグレーの半ズボン姿で笑顔を振り撒く。柔らかな水色のフリル付きシャツにしたの。私は水色のドレスにして、銀のレース編みショールを巻きスカートに使う。細長い形からスレンダーラインと呼ばれるデザインよ。
腰回りが気になるから、巻きスカートは素敵ね。綺麗に隠してくれるわ。ヘンリック様も薄いグレーのスーツだけれど、レオンと揃えてシャツを水色にしたの。もし知っていたら、同じ青を取り入れたのに。
「お姉様、これどうぞ」
にこにこと近づいたユリアーナは、ハンカチやスカーフを差し出した。お父様達の服と同じ青、よく見れば白い糸で刺繍が入っていた。シュミットの紋章と、ケンプフェルトの紋章? 複雑なのに見事だわ。
「この刺繍は……ユリアーナが?」
「ええ、私が作ったの」
お礼を言って受け取り、指先で刺繍をなぞった。すごいわ、私は全く才能がなかったのに。