作品タイトル不明
528.一緒に鍛錬できないのね
ヘンリック様の仕事が休みで、朝からのんびりと過ごす。レオンは卵のスープを飲みながら、ちらちらとヘンリック様を窺う。何かしら?
「おとちゃま、いる?」
「今日はお仕事がお休みなのよ」
「あしょぶ? たんえん、する?」
食べている最中に首を傾げるから、ほら……溢れちゃったわ。拭いてあげたいが、最近は自分でやる気なのよ。ハンカチを手渡し、口を拭くよう伝えた。素直に口の周りをごしごしと拭いている。そのハンカチを返そうとして、卵のかけらに気づいた。
指で摘まんで、どこへ捨てようか迷っている。小さな仕草一つ、本当に可愛いわ。エルヴィンの生真面目さに近いかしら。ユリアンなら服かクロスで拭いちゃうでしょうね。ユリアーナはハンカチをそっと閉じるかも。
あの子達が旅立っていく。そう実感したら、小さな出来事でも「あの子ならこうするでしょうね」と考えるようになった。レオンは手を拭くナプキンに、そっと卵のかけらを置く。満足そうに頷いて、ハンカチを返した。
「たん、えん……?」
不思議そうなヘンリック様に「鍛錬のことです」と伝え、返事を促した。はっとした様子で、レオンに話しかける。
「鍛錬なら一緒にやろう。その後、遊びたいのか」
「うん、おえか、き」
今日はお絵描きがしたい。自分の意思をしっかり示すようになった。流されるのではなく、自分で選ぶのよ。こうして離れて見ていると、確かに私は誘導していたわ。昨日は絵を描いたから、今日は積み木と。自分の思う方向を指差した。
レオンは指の向いた方へ進む。ずっと繰り返したら、自分で何も決められなくなってしまう。早めに指摘してもらえて、本当に良かった。
「今日はユリアンもお休みよ」
昨日、弟子入りが決まったから。今日はピアノの練習もお休みして、ゆっくりしていると思う。準備もあるだろうし、街での買い物でも勧めようかしら。いいえ、構いすぎはダメよね。
「ゆん、くる?」
「ええ、呼んでみましょうね」
話す間も、レオンは自分で食べ物を口に入れる。イヤイヤ期にしては、随分と穏やかだけれど。レオンが「やっ」を表明するようになって、自分のことを任せなくなった。
マーサによれば、ボタンも自分で留めると言い出したらしい。失敗したと、マーサに直してもらうの。その辺は素直なままなのね。
食事もスプーンを使って、口に入れる。まだ上手にできなくて、こぼす量も多かった。使用人達は仕事ができると笑ってくれたので、好きにさせる。ただ、掃除しやすいように薄い絨毯を追加した。この上なら、いくら溢しても片付けが楽なの。
外へ引っ張り出し、丸洗いできるわ。窓の外は晴れ、お天気は問題ない。
「お母様も鍛錬しようかしら」
「やっ!」
え? ここで発動しちゃうの? 私は一緒に鍛錬できないのね。残念だわ。