作品タイトル不明
447.レオンは筋肉が好きなのね
前世では金融用語だったと思うけれど、フランクにかかれば領主の心得になる。有限のお金を、無駄なく必要な場所に流す意味よね。今後もきちんと覚えておいて、活用したいわ。
「優勝者、準優勝者ともに参りました」
店主の声掛けで、隣の部屋へ移動した。膝を突いて待つ二人に、レオンは歓声を上げる。先ほどまで観ていた戦いの当事者が、目の前にいるんですもの。興奮しちゃうわよね。
「素晴らしい戦いだった。両者とも立って構わぬ」
どちらでもいい。不思議な言い回しなので、首を傾げる。ヘンリック様がこそりと耳打ちした。こういう場合、貴族や騎士だった経験がある人は膝を突いたままなの。国家に属さない武闘家などは身を起こすことが多いそうよ。
階級社会に生きている人に、無理に立てと命じるのは失礼に当たる。複雑ね。こういう言い回しをもっと覚えないと、そのうち大きな失敗をしそうだ。
優勝者の青年は、同じ姿勢で顔だけを上げる。けれど武闘家らしき男性は立ち上がった。
「おかぁしゃま、さぁっていい?」
「一緒に聞いてみましょう。失礼かもしれませんが、この子があなたの戦いに感動しておりますの。腕に触れさせても構いませんか?」
「いい、でしゅか?」
きらきらした目で尋ねるレオンに、大柄な男性はにこりと笑った。熊のような外見に似合わぬ、素敵な笑顔ね。近づこうとしたら、代わりにヘンリック様がレオンを抱き上げた。騎士が同行するのは、彼らを信用していないからではないの。
動かない騎士は職務怠慢になるし、この二人に対しても強さを認めるジェスチャーになる。護衛がつかなければ、戦いの勝者の実力を舐めていると判断されることもあるとか。面倒臭いのね。
「どうぞ」
腕を前に出した男に、レオンは手を伸ばす。最初はそっと撫でて、次はしっかり握るように力を込めた。男がぐっと筋肉を硬くすると、ぼこりと浮き上がって動く。手を置いた場所が動く感触に、興奮して反対の手も伸ばした。
ヘンリック様がしっかり抱いていなかったら、落ちちゃうところよ。触る間、筋肉を動かしたりポーズを取ったり、随分とサービスしてもらった。金貨の効果ってすごいのね。
これは表敬訪問のような行事で、当初の予定にはなかった。外へ出る彼らは、レストランの関係者からも握手を求められ、笑顔で応じている。
「アマーリアは、ああいうのが好みか?」
「え?」
じっと見送っていたら、筋肉が好きなのかと勘違いされた。悲しそうにヘンリック様が尋ねる姿に、申し訳ないけれど笑ってしまう。
「ふふっ、私は外見で選んだりしませんわ」
それで選ぶなら、出会ってすぐにあなたに迫ったわよ。距離を詰めて伝えれば、嬉しそうな表情に変わった。間に挟まれたレオンが「やぁ」と声を上げるほど、抱きついてしまったわ。