作品タイトル不明
438.お薬は甘い蜂蜜の香り
毛並みのいい太った猫を受け取り、リリーに渡す。同行した侍従が回収して、どこかへ連れて行った。
「すぐ猫部屋に入れてはダメよ。ノミやダニがいるかもしれない」
毛艶がいいから、飼い猫とは限らない。何より、外を走り回る半外猫は、草むらなどに首を突っ込むから……虫や汚れがついているの。
注意だけして、しゃがんだ私はレオンの頭に手を乗せる。痛いからか、くしゃっと顔を歪めた天使が顔を上げた。
「痛いのはどこかしら」
「ここ……」
ぺろっと舌を出して、指差す。先端より少し内側が赤くなっていた。抱きついた衝撃で、噛んじゃったのね。あの時話しながらだったもの。なるほどと理解し、人差し指で「痛いの、飛んでけ」をした。
「リリー、蜂蜜の飴をお願い」
「はい」
ハーブが入った蜂蜜の飴は、風邪薬として常備されている。この屋敷にも当然あった。管理は侍女長で、甘いからと食べ過ぎないよう預かっている。虫歯になる可能性もあるし、必要な措置だと思うわ。
蜂蜜なら甘いし、苦いハーブの汁を傷に塗るよりマシと考えた。あの苦い汁は経験があるけれど、二度と味わいたくないわ。リリーが飴を持ってくるまで、護衛や庭師と一緒に近くのベンチへ移動した。
この屋敷は使用人が多く、本邸に入れないが庭仕事や馬の世話、馬車の管理など……さまざまな仕事に就いている。彼らの目があるから、不審者が入ってくればすぐ発見された。それに手と目がたくさんあれば、子育ては格段に楽になる。
小さい子が歩き出せば、すぐ行方不明になるのよ。大人の想像しないことで転んだり、ケガをしたり、閉じ込められたり。とにかく騒動を招き寄せる、どころか生産しちゃう。その際も、誰かが見ていて助けの手を差し伸べてくれたら、レオンの危険は減るわ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
リリーから受け取った飴を、膝に座らせたレオンの唇に押し当てる。ぎゅっと引き結んで、ちらちらと上目遣いに私の反応を見た。
「安心して、甘い飴よ」
「はちみちゅ……?」
「そうよ」
さっきの言葉を覚えていたのか。レオンは確認してから口を開いた。からんと乾いた音を立てて、飴が転がる。頬がぷくっと膨らんだ。飴が入った頬袋を押してみたいわ。意地悪になるからやらないけれど……。
「ほぃちっ」
「よかった。痛いのは飛んでった?」
「ふん……」
大人の口に合わせて作る飴は、当然、レオンには大きかった。長く味わえるので、それはそれでいいけれど。話しづらそうね。
連れて行かれた三毛猫は、使っていない物置きに一時捕獲。その後、しっかり洗ってから移動用の籠に入れて猫部屋へ運ばれた。