軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

359.穏やかなごく普通の日

翌日は、さすがにヘンリック様も出勤した。出仕と表現した方がいいかしら。部下の方から「重要な書類が滞っております」と丁寧なお誘いがあったそうよ。

見送って、午前中はレオンの鍛錬ごっこに付き合う。本格的な鍛錬や訓練は、五歳からと決めた。それまでは遊びの範囲内で、楽しく体を動かすことが目的だ。レオンは半ズボンで、元気に走り回っていた。

「三周走ったら休みます」

「あい」

いつもならユリアンが先頭切って走るのだけれど、彼はいま礼儀作法のお勉強中。オイゲンが教師の補佐をしているため、エルヴィンが付き合ってくれた。勉強は午後にするそうよ。とても助かるわ。

「二人とも、休憩の時はお水を飲んでね」

倒れると困るので、レモンを浮かべた水を用意した。元気に庭を走るレオンが、時々私に手を振る。笑顔で振り返し、用意された日陰で見守った。

出会って、まだ一年未満よ。初めて顔を合わせた日、不安そうに母親を求めたあの子が、外を走り回っている。その姿を見守る私も、いまではレオンがいないと毎日が回らないくらい。互いに必要として、愛を向け合う。ヘンリック様も加わって、家族は一回りも二回りも大きくなった。

なぜかしら。幸せな光景を前に、胸がいっぱいになる。泣きたくて、でも堪えて。潤んだ瞳を瞬きながら、レオンに手を振り返した。

お昼ご飯は庭で食べ、午後のお昼寝までの間に猫の世話に向かう。繋いだ手を揺らし、鼻歌まじりのレオンが扉を開いた。二重扉の中で後ろを確認し、内側の扉をくぐる。遊んでいた子猫が走ってきた。

白猫シロ、三毛猫ミア。この二匹は元気いっぱいね。転がるように駆け寄ると、足元にじゃれついた。サビ猫サビーネは、少し離れたクッションの上で欠伸をしている。

「あい! かぁいいね」

まっすぐに窓際へ向かったレオンは、以前より丸く大きくなった母猫アイの前で止まる。急に抱っこしたり、触れたりしてはいけない。教えた通り、一度動きを止めて待った。アイはのそりと身を起こし、レオンの鼻先で匂いを確認する。

「あい、だっこすゆ?」

こてりと首を傾げたレオンがぺたんと座る。当たり前のようにアイが膝に乗り上げた。くるりと丸くなり、ガラス越しの日差しを堪能している。レオンはそっと手を置いて、可愛いと繰り返しながら撫でた。

ここへきた当初の警戒が嘘みたい。微笑ましい光景に、頬が緩んだ。子猫達を構いながら私も床に座る。リボンの先に小さな鈴をつけた棒を動かせば、子猫が競って走る。右へ左へ、時には上に跳ね上げて遊ばせた。

ふと気づけば、レオンが寝転がっている。暖かな窓際で、横になった天使の隣でアイが寄り添っていた。んっ、カメラが欲しい。この光景を残しておきたいし、ヘンリック様にも見せたかったわ。残念に思いながら、しっかり脳裏に焼き付けた。