作品タイトル不明
314.好奇心は猫の専売特許?
ヘンリック様とレオンが出迎えを行なった。私は長椅子で待つ。本当は歩いていけるけれど、二人して耳が垂れる幻想が重なり……諦めた。
長椅子の端に腰掛け、用意されたお茶を飲む。リリー以外の使用人も部屋を出て、玄関へ向かった。猫達、全員を引き取ることになって、部屋も用意したし世話係も選び終えた。何か忘れていないか、頭の中で反芻する。
「おかしゃま! ねこ、にゃ」
扉を開けて興奮したレオンが叫び、リリーの手を借りて私は車椅子に移る。ヘンリック様は腕を伸ばしたが、迷って引っ込めた。ごめんなさい、抱っこするつもりだったのかしら。
浮かれるレオンは、ユリアーナが手を繋いでいた。ユリアンは大きな木箱を押している。下に滑車付きの台が入っているようで、廊下を進んで扉の前で止まった。
後ろに従うベルントは、手を貸しそびれたようだ。侍従達は青い顔をしている。もしかして、ユリアンが箱を運ぶ役を譲らなかったのかも。気の毒だけれど、子供なので許してあげてほしい。まだ立場を気遣うには、子供すぎるのよ。叱られそうになったら、私が庇ってあげなくては。
侍従の開いた扉の中へ運び入れた木箱は、上部に隙間があった。ときおり猫の手が覗くのは、外へ出ようとしているのかしら。私達も中に入り、きちんと扉が閉まっていることを確認する。ここで失敗に気づいた。二重扉に加工して貰えばよかったわ。
外へ自由に出られるようにすると、猫は喧嘩したりケガをしたり、場合によっては迷子になるの。外へ出さない工夫もしないと。手招きしたベルントに、その話をしている間に……侍従の手によって箱が開かれた。
飛び出してきたのは、白い子猫。皆で覗き込んでいたから驚いたのか、すぐに引っ込んだ。
「ねえ、子猫の模様が記憶と違うわ」
「お姉様、実はね……白猫の足が黒かったのは汚れていたからなの。炭の上で遊んじゃったんですって」
私達が帰ってから、侍従の実家の人が気づいて、綺麗に拭いてあげたらしい。すぐに白猫に戻った。ただ、胸元と耳の先がほんのりグレーなのは、元々の模様みたい。洗っても落ちなかったと説明され、笑ってしまった。
猫は水が嫌いなのに、汚れだと思って洗われちゃったのね。白猫ちゃんの不幸を聞いている間に、他の子猫も顔を覗かせる。三毛の子猫が転がり出て、後ろからサビ猫が続いた。すぐに母猫の手が出て、二匹が連れ戻される。
「ねこしゃ、おぉち」
ここがお家だよと伝え、レオンが手を箱に入れようとした。咄嗟に立ち上がって、レオンの手首を掴む。
「ダメよ。猫が自分から出てくるまで、何もしてはダメ。少し離れて、猫達が出てくるのを待ってみましょう」
猫を譲った侍従がほっとした顔をする。猫は無神経に手を伸ばす子供を嫌うわ。引っ掻かれたら、レオンが猫を嫌いになる。猫の方もレオンを警戒対象として認識したでしょう。双方にとってマイナスになるから、笑顔で言い聞かせた。
「うん、ぼく……まてう」
元気に待つと宣言したレオンと手を繋いで振り返り、ヘンリック様に腰を抱き寄せられた。距離が近くてびっくりする。固まった私の耳元で、彼は囁いた。
「月末までしっかり休むよう言ったはずだが?」
「っ、咄嗟のことで……ごめんなさい」
イルゼの目配せで、慌てて言い訳を呑み込んだ。軽く目を伏せて反省していると示す。ヘンリック様に支えられて、車椅子へ戻った。座るとレオンが手を乗せ、何度も私の膝を撫でる。
「ありがとうございます、ヘンリック様。すごく楽になったわ、レオンもありがとう」
「……すっごい過保護」
「あれは溺愛っていうのよ、私、小説で読んだわ」
双子の会話に耳が赤くなる。やだ、照れちゃう。お父様は始終無言で、逆に怖くて目を合わせられない。エルヴィンはオイゲン様と離れに戻り、一度着替えてから来る予定だった。そろそろ顔を見せる頃?
ノックの音に、正直ほっとする。フランクが開いた扉の隙間から、白い子猫が飛び出した。
「捕まえて!」
慌てる私の声に、いち早く反応したのはオイゲン様だった。子猫の上に上着を被せ、包むように保護する。助かったわ。