作品タイトル不明
230.覚悟を決めた ***SIDE公爵
帰宅して夕食の席で、我が子からの報告を聞く。これは悪くないな。レオンは元気に猫の説明を始めた。白くて黒くて茶色の猫で、大きくて小さいのか。猫自体は知っているが、飼った経験はない。色が混じっているのか、大きいのか、小さいのか。
「そうか、連れてきたら紹介してくれ」
「うん……おっちくって、かぁいいの」
あの事件で話さなくなるのではと心配したが、どうやらアマーリアの対応がよかったようだ。笑顔でこんなの! と示してみせる。両手を広げ、目一杯表現した。意味はほとんどわからないが、相槌を打つ。
「んっとね、この、くんのも……」
アマーリアが通訳するように言葉を直して繰り返した。
「そう、このくらいの大きさの猫もいたわね」
なるほど、そうやって言葉を教えるのか。感心しながらレオンに頷いた。同意されたことが嬉しいと全身で表現しながら、レオンはアマーリアの差し出した肉を食べる。羨ましいなと素直にそう思った。
こんな母親がいたら、何もかも違ったのではないか。アマーリアにとって、レオンは他人の子だ。夫である俺も、前妻も、彼女には血の繋がりがない。離れの伯爵家と違い、無視しても何も不都合はなかった。そのために使用人達がいるのだと、一般的な貴族夫人は考えるだろう。
ただ都合が良くて選んだ妻だったが、こんな未来は想像しなかった。レオンの笑顔、明るい雰囲気の屋敷、穏やかに対応する使用人達。楽器への挑戦も、以前の俺なら考えられない。外聞を気にして、習おうとしなかった。興味はあったのだが、今さらだ。それなのに……。
アマーリアが言うと、すべてが輝いた。楽器を楽しみ、家族と食事の時間を持ち、団欒を覚える。息子は元気な笑顔を振りまいて、今度は猫も来る。義父や義弟妹が増えて、賑やかになった。すべてが彼女のお陰だ。
猫の説明を終えて、今度は中央の皿に並ぶ黄色い蕾の菜を指差した。レオンは必死に何かを説明する。真剣に聞いて、笑顔を向けた。いつからだろう、自然と笑えるようになったのは。笑顔に笑顔を返す、そんなこともアマーリアとレオンに教わった気がする。
自分達で摘んで、料理してもらった。そう聞いて、味をみる。ほろ苦いが、不思議な感じがした。美味しいものなら幾つも知っているのに、なぜかまた口に運ぶ。レオンは目を丸くしているが、きちんと咀嚼して飲み込んだ。
「おかぁしゃ、ま……じぃん……」
舌が痺れると訴え、首を傾ける。困ったような顔で変な味がすると訴えた。
「苦味よ、まだレオンには早かったわね」
ふふっと笑うアマーリアの表情に、胸がざわめく。
「あとで……話を、聞いてくれないか」
緊張しながら切り出し、答えを聞くのが怖くなる。俯いて菜の花を口に押し込んだ。
「ええ、構いませんわ。寝室でよろしくて?」
「あ、ああ」
苦味がやけに口に残る。覚悟を決めて顔を上げれば、壁際に控えるフランクが重々しく頷いた。今度こそ、きちんと向き合う。