作品タイトル不明
228.エルヴィンのお見舞い
お昼寝を終えて、エルヴィンの見舞いに向かう。用意してもらった果物を入れた籠を、レオンは運びたがった。自分で持っていくのだと気合を入れている。ただ、重すぎるのよね。引きずったり斜めにしたりすれば、中身が落ちてしまうわ。
妥協案を思いつき、レオンに話した。
「ねえ、レオン。この果物だけ、とっても大事なの。エルヴィンの好きな果物なのよ。レオンが運んでくれたら助かるのだけれど……でも無理かしら」
グイグイ押して最後に引く。すると食いついた。勢いよく手を伸ばす。
「ぼく、もてぅ」
「本当に? 落としたらダメになっちゃうのよ?」
「もちゅ!」
できる、ちゃんと持つ。真剣に訴えるので、私はここで微笑んでハンカチで包んだリンゴを持たせた。風呂敷の包み方を参考に、指を引っ掛けてバッグのように持てる形にしている。風呂敷はとても便利で、この世界に来てから普通に使っていたわ。
もちろん、売っていないから自作だけれど。四角くカットして縁を縫うだけでいいんだもの。いろんな形に包めるし、服を保管したり買い物先で使ったり。慣れてしまうとバッグより便利なのよ。
包んだリンゴを大事そうにぶら下げ、レオンはやる気で頷く。リンゴを持っていない左手を繋いで、他の果物が入った籠をリリーに預けた。私が持って行こうと思ったのだけれど、侍女のお仕事を奪うのはまずいわ。万が一レオンが転んだら、受け止める私の手が塞がっているのは困るでしょう?
大きな敷地だけれど、離れは本邸から見える距離に建っている。存在は感じるが、視線を遮る。そんな意図を感じさせる形で、何本も広葉樹が立っていた。植えられた木は大きく枝を広げ、のびのびと葉を揺らす。ただ、今の時期は半分以上散って、寂しい姿だった。
木を回り込むように半円を描く小道を、ゆったり歩く。お昼寝の時間が短かったので、まだ日差しは傾いていなかった。離れでお父様に挨拶し、エルヴィンが使っている部屋に向かう。後ろをついてきた双子が、我先にと走り出した。
外ではお淑やかに振る舞うのに、家の中ではお転婆なユリアーナが先に到着する。ノックして、直後に扉を開いた。返答を待つためのノックなのだけれど……困った子ね。出遅れたユリアンも、勢いよく部屋に飛び込んだ。
「こら、アナもユンも。大人しく……リア姉様? レオン様も!」
ベッドにダイブする双子を受け止めて叱る長男エルヴィンは、驚いたように動きを止めた。突発的な状況に弱いのは昔からだわ。
「にちぁ!」
こんにちは、の前半はどこへ飛んでいったのかしら? くすくす笑いながら、レオンの頬を突く。
「こんにちは、エルヴィン」
丁寧に言い直せば、レオンは笑顔で頷いた。私と繋いだ手を解いて、両手で包みを持つ。大切そうに差し出した。
「えるぅ、これ……おるちゅ……おちゅぁん」
お留守番じゃなくて、お見舞いよ。ふふっと笑った私に釣られ、双子とエルヴィンも笑顔になった。レオンはきょろきょろして、歯を見せて笑う。
「お土産のリンゴですって。すりおろして食べる?」
「あとで食べます」
なぜか寝込んだエルヴィンより、後ろの双子が目を輝かせているわ。大きい方の籠にもリンゴを入れてきてよかった。